第二十三話 黒幕
京の空は重く沈んでいた。
将軍暗殺未遂から一夜。
光秀は再び、刺客が拘束されている部屋へ向かった。
縄で縛られた刺客。
黒装束。
覆面。
動かない。
光秀は装備を調べる。
短刀。
縄。
小袋。
どれも粗末。
(動きは訓練されている)
(だが装備は粗末)
光秀は眉を寄せた。
(使い捨てだ)
侵入経路も不自然だった。
(誰かが)
(道を作った)
光秀は息を吐いた。
(ただの刺客ではない)
(背後に……誰かいる)
黒幕候補が脳裏に浮かぶ。
三好残党。
寺社勢力。
朝廷内部。
織田勢力。
(……どれもあり得る)
光秀は刺客の前に立った。
「誰の命だ」
光秀は静かに問う。
刺客は沈黙したまま、覆面の奥で目だけを動かした。
やがて──
かすれた声で一言だけ。
「金だ」
光秀は息を呑んだ。
(……金?)
商人か。
堺か。
あるいは──
織田の誰かか。
疑いは広がるばかりだった。
光秀は義昭のもとへ向かった。
光秀が報告を終えると、義昭は静かに言った。
「黒幕は」
少し間。
「個人ではない」
光秀は驚いた。
「しかし……刺客は“金”と──」
義昭は首を振った。
「金で動く者は、盤面の駒にすぎぬ」
光秀は息を呑んだ。
(……駒)
(人ではなく、駒)
刺客の姿が、別のものに見え始めた。
義昭は指を折りながら言う。
「朝廷」
「公家」
「寺社」
「三好の残党」
少し間。
「織田の内部」
光秀は黙って聞く。
義昭は続けた。
「成功すれば将軍が死ぬ」
「失敗すれば政治事件になる」
光秀は息を呑む。
義昭は静かに言った。
「どちらでも盤面は揺れる」
「これは暗殺ではない」
「政治だ」
光秀の背筋が冷えた。
(……このお方は)
(刃ではなく、構造を見ている)
義昭はさらに続けた。
「黒幕は一人ではない」
少し間。
「この国そのものが黒幕だ」
光秀は言葉を失った。
刺客が──
本当に“駒”に見えた。
(構造が……動いている)
義昭は光秀を見た。
「光秀。
暗殺は始まりにすぎぬ」
「次の手が来る」
その時──
廊下から足音が響いた。
「将軍様!」
伝令が駆け込む。
「京で騒ぎが……!」
光秀は息を呑んだ。
義昭は微笑んだ。




