第二十二話 京の暗殺捜査
京の朝は、ざわついていた。
将軍襲撃の噂が、夜明けとともに広がっていた。
将軍襲撃。
刺客。
黒幕。
そして──犯人の名は出ていない。
光秀は歩きながら思う。
(情報を絞る)
(噂だけを走らせる)
これは義昭の指示だった。
京の空気は、昨夜とは別の意味で重い。
光秀は刺客が捕らえられている部屋へ向かった。
縄で縛られた刺客。
黒装束、覆面。動かない。
光秀は装備を調べる。
短刀。縄。小袋。
どれも、わざとらしいほどに粗い。
(動きは訓練されている)
(だが装備は粗末……)
光秀は眉を寄せた。
(使い捨てだ)
侵入経路も不自然だった。
警備の隙を突いたように見えるが──
(誰かが、道を作った)
光秀は深く息を吐いた。
(だが、一体誰が……)
答えは出ないまま、義昭のもとへ向かった。
光秀が報告を終えると、義昭は静かに言った。
「犯人は……重要ではない」
光秀は思わず顔を上げた。
「し、しかし──」
義昭は光秀を見た。
「重要なのは、誰が得をするかだ」
光秀は息を呑んだ。
義昭は指を折りながら言う。
「朝廷。公家。寺社。三好の残党」
「……織田の内部」
光秀は驚愕した。
(内部まで含めるのか……!)
義昭は続ける。
「成功した場合と、失敗した場合」
光秀は黙って聞く。義昭は淡々と語る。
「成功すれば、将軍は死ぬ。混乱が生まれ、権力の空白ができる。……だが、失敗すれば政治事件になる。疑いが広がり、誰かが揺れる」
光秀は息を呑んだ。
義昭は静かに言った。
「この刃は、私を殺すためではない」
「政治を、動かすためだ」
光秀の背筋が冷えた。
義昭は結論を述べた。
「犯人は、まだ動く」
光秀は驚く。
「なぜ……?」
義昭は微笑む。
「暗殺は、始まりにすぎぬ。盤面を動かすための、最初の手だ」
光秀はそこで黙った。
言葉が出なかった。
(……もう盤面が、見えているのか)
義昭は、すでに“次”を見ている。
義昭は光秀に問う。
「光秀。噂は広がっているか」
光秀は頷いた。
「京中に」
義昭は微笑んだ。
「それでよい」
義昭は空を見上げ、静かに言った。
「噂は、刃より速い」
光秀は、何も言えなかった。
暗殺未遂の翌朝、京の空気が変わり始めました。
この章は「犯人探し」よりも、
その事件で誰が動くのかを描いていきます。
次話から、盤面がもう一段動きます。




