第二十一話 将軍暗殺未遂
ここから第五章「京の陰謀」です。
これまでの戦いは、書状と政治の戦いでした。
ですがここからは、京の闇そのものが動きます。
将軍暗殺未遂。
それでも将軍は、盤面を見る。
そんな章になります。
京の夜は、妙に静かだった。
将軍の居城。
光秀は廊下を歩き、警備の配置を確認していた。
松明の火が揺れる。
風はない。虫の声もない。
(……静かすぎる)
光秀の手が、無意識に刀の柄へ触れた。
理由はない。だが、胸の奥にざらつく違和感があった。
(何かが……起きる)
光秀は足を止めた。
その瞬間──
襖が破れた。
黒装束が飛び込む。
刃が月光を弾いた。
「将軍様──!」
護衛が動く。金属がぶつかる音。
光秀は刀を抜き、刺客の腕を弾いた。
刃が床に落ちる。
刺客は逃げようとしたが、別の護衛が押さえつけた。
わずか数呼吸の出来事だった。
光秀は息を整え、義昭の方を振り返った。
義昭は、座したまま動いていなかった。
恐怖の色はない。怒りもない。
ただ、状況を見ていた。
そして、最初に発した言葉は──
「怪我人は」
光秀は息を呑んだ。
(……このお方は)
(命を狙われた直後だというのに)
それでも、まず周囲を見るのか。
光秀は刺客に詰め寄ろうとした。
「貴様、何者──」
「待て」
義昭の声が、静かに響いた。
義昭は刺客ではなく、廊下を見た。
「侵入経路は」
「……北側の渡り廊下かと」
「警備の動きは」
「巡回の間が……一瞬、空きました」
「最初に気づいた者は」
「庭側の警備の者です」
義昭は頷いた。
刺客を見ない。
怒らない。問い詰めない。
光秀は背筋が冷えた。
(このお方は……刃より先に、盤面を見る)
義昭は刺客に近づき、静かに言った。
「これは暗殺ではない」
光秀は驚く。
「しかし──」
義昭は首を振った。
「暗殺が成功すれば、将軍は死ぬ。暗殺が失敗すれば、政治事件になる」
光秀は息を呑んだ。
義昭は続ける。
「この刃は、私を殺すためではない」
「国を揺らすためだ」
光秀の胸に理解が落ちた。
(……外交の材料)
将軍が狙われた。それだけで盤面は動く。
義昭は藤孝を呼んだ。
「藤孝」
「はっ」
「朝廷へ文を出せ」
藤孝が姿勢を正す。義昭は言葉を続けた。
「将軍が刃を受けた、と。犯人の名は出すな」
藤孝は息を呑む。
「……疑いが、広がります」
義昭は頷いた。
「疑いは、力だ」
光秀は震えた。
光秀は思わず口にした。
「そこまで……読まれていたのですか」
義昭は光秀を見た。
「読んだのではない。動いたのだ」
光秀は息を呑んだ。
(このお方は……刃を恐れぬ)
(刃を……盤面に変える)
義昭は光秀に問う。
「光秀。誰が得をする」
光秀は答えられなかった。
義昭は微笑んだ。
「それが敵だ」
義昭は刺客を一瞥し、静かに言った。
「刃は、盤面を動かす」
第五章の開幕でした。
将軍暗殺未遂――ですが、
この事件は単なる暗殺では終わりません。
ここから「誰が得をするのか」が、
京の政治そのものを揺らしていきます。
もしよければ、
黒幕は誰だと思うか予想していただけると嬉しいです。




