第二十話 歴史のズレ
京。
将軍の居城。
義昭は庭を眺めていた。
春の風がまだ冷たい。
藤孝が歩み寄り、深く頭を下げる。
「将軍様。四国の件、朝廷も寺社も……織田も動いております」
義昭は庭の梅を見つめたまま言った。
「天下が騒がしくなっておるか」
藤孝は頷く。
義昭は目を細めた。
「当然だ」
「歴史を、押した」
藤孝が眉を寄せる。
「……歴史を?」
義昭は庭の石灯籠に視線を移した。
「止まっていたものを、少しだけ押した」
藤孝は息を呑んだ。
義昭は静かに語り始めた。
「信長は、政治を理解した」
「秀吉は、怪物を見た」
「光秀は、板挟みになった」
藤孝は深く頷く。義昭は続けた。
「戦国は、もう止まらぬ」
速さと構造がぶつかった。
それだけで、国は揺れる。
義昭は空を見上げた。
京の空は静かだ。
だが、その静けさの下で──
いくつもの未来が動き始めている。
「信長」
「秀吉」
「光秀」
義昭は言った。
「怪物は、増える」
藤孝は息を呑む。
「……将軍様。これからどうなります」
義昭はゆっくりと目を閉じた。
「面白くなる」
藤孝はその言葉に震えた。
義昭は再び空を見た。
「信長」
「秀吉」
「光秀」
「そして──」
「戦国」
風が庭を渡る。
義昭は静かに言った。
「歴史は、動き始めた」
第四章「歴史の軋み」ここまでです。
速さと構造がぶつかり、
歴史はもう静かには戻りません。
次話から第五章「京の陰謀」。
ついに、刃が入ります。




