第十九話 秀吉の恐怖
安土城。
秀吉は廊下を歩いていた。
そこへ家臣が駆け込んできた。
「秀吉様!」
息を切らした家臣が叫ぶ。
「京より返書が!」
秀吉は立ち止まり、書状を受け取った。
信長の“天下安寧”の文。
それに対し──将軍は“天下を乱す恐れあり”と返した。
政治の応酬。
戦のない戦。
(始まった……)
秀吉は息を呑んだ。
秀吉は書状を閉じ、空を見た。
(信長様は……革命の人や)
(将軍様は……政治の人や)
どちらも、ただの武家ではない。
ただの権力者でもない。
秀吉は笑った。
(どっちも……怪物やな)
だが、その笑みは軽くなかった。
秀吉は歩きながら考えた。
信長の速度。
義昭の構造。
片方だけでも国が揺れる。
二つがぶつかれば──
(戦国が……壊れる)
秀吉は背筋が冷えるのを感じた。
(恐ろしい。ほんまに……恐ろしいわ)
革命と政治。
速さと構造。
どちらも正しい。
どちらも強い。
だからこそ、ぶつかる。
そして──壊れる。
秀吉は立ち止まった。
(この戦いで……一番危ないのは誰や?)
信長でもない。
将軍でもない。
(光秀殿や)
(あの人は……危ない)
光秀は両方を理解してしまう。
理解は武器になる。
だが──毒にもなる。
秀吉は息を吐いた。
(光秀殿……巻き込まれたらあかんで、ほんまに)
秀吉は笑った。
軽い笑み。だが、目は笑っていない。
(わては……近づきすぎたらあかん)
信長にも。
将軍にも。
どちらも怪物。
どちらも国を動かす存在。
その間に立てば──潰される。
秀吉は空を見上げた。
(怪物が二人)
(戦国が揺れる)
秀吉は小さく笑った。




