第十八話 将軍の返書
京。
将軍の居城。
藤孝が歩み寄り、一通の書状を差し出した。
「信長公より文が」
義昭は受け取り、封を切った。
──四国討伐は、天下安寧のため。
信長が政治に手を伸ばした。
義昭は目を細めた。
そして……笑った。
藤孝が驚く。
「……将軍様?」
義昭は書状を指で押さえた。
「信長は、試している」
義昭は書状を机に置いた。
「信長は軍の人だ。だから速い」
藤孝が頷く。
「四国討伐を“天下安寧”と……朝廷、公家、寺社を意識した文にございます」
義昭は微笑んだ。
「将軍の戦場に、足を入れた」
藤孝は息を呑む。
「……信長公が、政治を……」
義昭は首を振った。
「違う。政治を“試した”だけだ」
義昭は静かに言葉を続けた。
「信長は速さで国を変える。だが、政治は速さでは動かぬ」
藤孝が深く頷く。
「構造……でございますな」
義昭は笑った。
「政治は、力だ」
藤孝の目が揺れた。義昭は書状を指で叩く。
「信長は、構造の力を測っている。ならば──返す」
藤孝が問う。
「どうされます」
義昭は即答した。
「返す」
藤孝が眉を寄せる。
「……返す?」
義昭は頷いた。
「政治で」
藤孝は息を呑む。
「信長公の政治を……逆に……?」
義昭は笑った。
「構造は、使う者の手で形を変える。信長が触れたなら──その手を掴む。離さぬ」
義昭は筆を取った。
「藤孝」
「はっ」
「朝廷へ文を出せ」
藤孝が姿勢を正す。義昭は静かに書き始めた。
「四国の戦は──天下を乱す恐れがある」
藤孝が息を呑む。義昭は笑った。
「裏返す」
藤孝は震える声で言った。
「……信長公の“天下安寧”を……」
義昭は頷く。
「信長の政治を、信長に返す」
藤孝は深く頭を下げた。
「……お見事にございます」
義昭は筆を置いた。
「信長は軍で国を動かす。ならば私は、政治で国を動かす」
義昭は京の空を見た。
「信長。面白い」
義昭は笑った。




