第17話 その名を再び呼ぶとき
「え?」
振り向くとそこには、左手にランプ、右手に布に覆われた物を持った、十六歳くらいの少年が立っていた。肩まで伸びた金髪に整った顔立ち。よく見ると瞳の色は青系の色に見える。
まるでヒナタのようだなと思ったが、彼だったら三十歳は過ぎているはずだ。
タカテラスは自分の考えを追いやるように首を横に振ると、ここにいる理由について弁明した。
「あ、あの、すみません。実は森の中で迷ってしまって……。もしこの森に詳しかったら、街道までの道案内をしてもらえると助かるのですが……」
すると少年は警戒することも戸惑うこともなく、まっすぐにタカテラスを見ながら驚くことを言った。
「――タカテラス」
「え?」
彼は一瞬、何を言われているのかよく分からなかった。
「あなたはタカテラスでしょう? そうだよね?」
少年に問われ、タカテラスは目を見開いた。まさか、そんなことがあるのだろうか――。
「そう、だけど……。君は、ヒナタ……なの?」
その名を呼んでみる。確信はない。本当なら、彼はこんなに若いはずがない。それなのに、心の奥で彼の名を呼びたい自分がいた。
戸惑いつつ呼んだ名。すると少年はおもむろに、手に持っていたランプと物を足元に置くと、再び顔を上げる。暗がりではあったが、彼が涙を堪えるような幼い顔になっているのが、不思議とはっきり感じられた。
「そうだよ」
そしてゆっくりとこちらに向かって歩き出したと思うと、急に駆け出し、タカテラスの胸の中に飛び込んだ。
「うわっ!……え? あの、大丈夫か?」
戸惑いながらも、少年の背を優しく撫でる。すると彼は絞り出すような声で言った。
「良かった……本当に良かった……! 無事だったんだ……。良かった……」
「ど、どういうこと?」
すると少年は、さらに強く彼を抱きしめた。
「え、えっと……あの……」
どうしたらいいのだろうと思っていると、少年はくぐもった声で話始めた。
「僕は如雨露の居場所が分かるから、心配していたんだ。君のいる村から如雨露の気配が消えてしまったから、盗賊にあったんじゃないかとか、僕のせいで酷い目にあったんじゃないかって……!」
「ごめん、如雨露は――」
「いいんだ!」
ヒナタは遮るように叫んだ。
「え?」
「如雨露が盗まれたり、壊されたりするのは何てことないんだ。そんなことより、君が何かの事件に巻き込まれてはいないだろうかと……ただそれだけが気がかりで……」
「ヒナタ……」
「君は今までに、僕があげた如雨露を村から持ち出すなんてことがなかったから……すごく心配で……。僕はここから出られないから、何かあっても助けてあげられないし……。だからこの二週間気が気じゃなかった」
「そっか、そうだったんだね……」
タカテラスは思いがけず、ヒナタに心配をかけていたことを申し訳なく思い謝った。
「心配かけてごめん。でも、俺はこの通り大丈夫だよ」
タカテラスはそう言うと、ヒナタを優しく抱きしめる。すると腕の中の少年の力が抜けたようだった。




