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殺人の救世主  作者: おじさん
とある殺人鬼が生まれた理由と少女の話
97/102

3-23

…聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。それこそ、世界がひっくり返ってしまうくらいのとんでもないことを。


「秀吉さん、の主君、ってことは…」


「えぇ、お察しの通りですよ。圧倒的な武力により日本を統一した天下人、織田信長様です」


「つまり、陽のお父さん…?」


「そういうことになりますね。今となってはほぼ絶縁状態となっていますが」


この人は陽に向けて、主君を殺してくれと頼んだ。それは今日本で一番偉い人を殺すことと同時に、彼に実の父親を殺せと言っているのだ。


いくら殺人鬼で殺人狂とはいっても、肉親を手にかけろというのはあまりにも酷ではないだろうか。


「…陽」


そう思い、私は不安であるのを隠さずに彼の名前を呼んで彼の顔を見る。先程まで驚愕の色が強かった彼の顔はどうなっているのか。


彼の顔を見た私は自分の目を疑う。そこにあったのは不安や焦燥などではなく、ただ二つのある感情。


「言われなくても、当然殺るつもりだ…。あれは俺が殺す」


語気からも感じ取れる強い怒り。そして、この瞬間を待っていたかの如く嬉々とした表情。


…あぁ、彼を普通の物指しで計るのは馬鹿げたことなのだ。


たとえ肉親であっても、自分の殺したい相手は問答無用で殺す。彼の根幹にあるのは縁者への情などではなく、殺すことへの強い欲望。


「…そう言うと思ってましたよ。彼を殺したのは貴方なのですから」


「あぁ。あいつのやりたかったことは俺が殺る。ずっと決めていたことだ」


そしてもうひとつあるらしいのが、死んでしまった、殺されてしまった、…陽が殺してしまった、彼の意志。


「ずっと言ってましたよ、いつか私が『あれ』に取って変わると」


「言ってたな。そうして野心が強すぎた挙げ句、俺なんかの世話役になってちゃ世話ないわな」


彼への思い出を語りながら少しだけ笑い合う二人。その光景は、私の知らないところではたくさん行われていたことなのだろう。


「…まだ知らないこと、ばかり」


陽の全てを知りたい。私と会う前の彼のことを、まだ私は全然知らないのだ。


私との付き合いは彼の人生の中では決して長くない。それこそ秀吉さんに比べたら取るに足らない期間だ。


だけど、悔しくはない。だって、陽が死ぬまで、私が死ぬまではずっと一緒にいるのだから。そう、彼と約束したのだから。


「…ん? 何か言ったか、夏生?」


「別に、何も…」


だから、今は彼を精一杯支えてあげよう。彼の叶えたいことを、殺りたいことを見守っていよう。


今の私にはそれぐらいしか出来ない。だけど、きっとそれは彼にとって大きなことであると…あればいいな、と思う。


「陽なら、大丈夫…だよ」


こんな稚拙な言葉でも、彼の助けになるというならば。


「…あぁ、当然だな」


一度死んだ、私の拙い笑顔でも…彼の為になるならば。

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