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「さて…では早速殺っていただきたい…と言いたいところなんですが…」
「…何か問題があるのか?」
少しだけ困ったような口ぶりで言う秀吉さんに、陽が疑問を呈する。どうやら今すぐに出来るような状況では無いらしい。
「最近、信長様の側近が異様に増えているのです。まぁ、私もその一人な訳なんですが」
「具体的には何人位いるんだ? 十人くらいなら何とかならんこともないが…」
「…凄く言いにくいのですが…私を除いて29人、といったところでしょうか」
「はぁ!? 29人の側近って…そんなのもう一個隊並じゃねぇか!!」
陽の慌てぶりから察するに、29人の側近というのは破格の人数であるようだ。そういえば、少し前に陽が皆殺しにした山賊も29人くらいであったのだが、それとは訳が違うらしいのがその様子からよく分かる。
そもそも、信長さんを含めて三十人対一人では余りにも分が悪いのは流石の私でもよく分かる。秀吉さんは立場上こちらの味方につくことは出来ないし、私では戦力には数えられない。
「信長様は、恐らく『得体の知れない危機感』を感じ取られているのでしょうね。…もしかしたら貴方が来るのも何となく分かっていたのかもしれません」
「…それが分かってたら本当に化け物だな…。そもそも俺は死んだことになってるはずだろ?」
「えぇ。私は確かにそう報告しましたが、何せ疑い深い人ですから。死体を見ないとそう断定はしないでしょう」
「面倒だな…。あのクソ野郎一人くらいなら何とかなると思ってたんだが…」
ここで私はある違和感に辿り着く。そして、その違和感の正体に気付いた時、私は自分は染まってしまっているのだと改めて気づいてしまった。
どうしてこの二人は、『真っ向勝負』を挑もうとしているのだろうか。いくら多対一が得意の陽とはいえ、その勝負に持ち込まれたら勝率というものは薄くなる。
ならば、取るべき策はただの一つしか無いのではないか。
「…気付かれずに、殺す?」
そうして、私の口から出てきたのはそんな言葉だった。
「…どういうことだ、夏生?」
「気付かれずに、殺す…とは?」
その私の発言を陽は、一度では理解出来ていないようだった。秀吉さんもその言葉の真意を掴みかねている。
「別に、殺してくれ、って依頼なら、無駄に戦う必要無いと思う…。だから、側近?さんとは戦わないで、最悪でも一対一に持ち込めば…」
言葉をまだあまり知らない私では、この行動を上手く表す言葉を持ち合わせていない。だが、伝えたいことの真意は伝わったはずだ。
「…つまり、暗殺に近いことをすればいい…ということですか」
秀吉さんは驚きながらも理解出来たようで、それを『暗殺』だと表現した。
「多分、それ…。側近さんの目を盗み、信長さんだけを、狙う」
こんな方法は卑怯であると一般的には考えられるかもしれない。しかし、殺したい人だけを殺すならこれで十分過ぎる。
「…そう上手くいくのか?」
「…一人にならざるを得ない場面、というのは少なからずあるでしょう。いくらあの信長様、とはいえです」
「暗殺…か。そんなこと考えたこともなかったな…。邪魔なのは基本的に斬り捨ててきたから」
あの偉そうな役人さんを殺した時だって、陽は正面突破だった。恐らく彼は、敵を倒して進むという方法しか知らないのではないだろうか。
「…それにしても、よくこんな奇策思い付きましたね。言っては悪いですが、ここの武芸者達には卑怯と罵られるような方法ですよ」
陽に聞いたことがある。こういった大きな家の人達には武士道という正々堂々とした行動が重んじられると。
だけど、私達にはそれは通じない。
「…だって、陽は殺人鬼だよ。…殺せば、勝ち」
彼が言いそうな台詞だ。彼と会ってから彼の考え方に染まってしまったのがよく分かる。
きっと、これを言った時の私の表情は彼に似ているのだと、私の顔を見た二人の表情で分かった。




