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殺人の救世主  作者: おじさん
とある殺人鬼が生まれた理由と少女の話
94/102

3-20

私の言葉に、陽は面を喰らっている。彼にしては珍しく呆けたような顔をしていた。


「…私が、いたら…迷惑?」


「い、いや、断じてそんなことはないんだが…」


「なら、いいよ…ね」


向かい合っていた形を崩して、私はおもむろに陽の隣の場所に腰を下ろす。


…やっぱり、ここが私の居場所だ。他のどこよりも落ち着く。彼の匂いと体温が、彼が私の隣にいるのだと、私が彼の隣にいるのだと感じさせてくれるのだ。


私が触れている彼の手は人を殺した手であり、今まで殺してきた人間の血が染み込んでいるのだろう。その殺人の証はきっと消えることはない。


だが、それは同時に私を救ってくれた手だ。私の暗い世界を壊してくれた、救いの手。


だからこそ、彼の手は温かい。私が触れる彼の手は、私を落ち着かせる温かみを持った手だ。


「…本当に、いいのか…?」


隣にいる彼は、やはりまだ抵抗があるらしい。だが、これはきっと私の身を案じているものだと思う。


「前も言ったよ。…『陽の為なら死んでも良い』、って」


その時、彼も言ったのだ。『俺の側にいるなら死ぬ覚悟は出来ているはずだ』…と。


この話は、私にとっては今更の話だ。陽と共に生きて死ぬ覚悟は、彼と会ったあの時に。…彼に命を救われた時から変わらない。


「…は、ははははは!! なるほど、なるほどな!!」


私の発言の後、少しして彼は大きな声で笑い始めた。その笑い声は一度聞いたあの狂った笑い声ではなく、とても純粋な笑い声に聞こえた。


「そうだ、そうだったな…。…怖がる必要なんて、無かったんだな…」


ひとしきり笑った後、少しずつ声は小さくなり最後の方は絞り出すように彼は言った。


彼が過去を話したがらなかったのは、嫌な過去だったからではなかった。思い出すのも悲惨な過去だからではなかった。


「…私は、嫌いにならないよ」


ならば、彼が欲していた言葉は。言うまでもないと思っていたその言葉なのだろう。


「…俺もだ」


彼に同じ事を言われて、やっぱりそうなのだと気付いた。彼の本物の言葉は、私の心に響き渡る。それは逆もまた同じはずだ。


もう一つだけ、さっきの言葉に付け加えたかったのだが。…今はまだ少し早い。


もう少しだけ大人になったら…彼に伝えられるかもしれないその言葉を今は深く飲み込んだ。

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