3-20
私の言葉に、陽は面を喰らっている。彼にしては珍しく呆けたような顔をしていた。
「…私が、いたら…迷惑?」
「い、いや、断じてそんなことはないんだが…」
「なら、いいよ…ね」
向かい合っていた形を崩して、私はおもむろに陽の隣の場所に腰を下ろす。
…やっぱり、ここが私の居場所だ。他のどこよりも落ち着く。彼の匂いと体温が、彼が私の隣にいるのだと、私が彼の隣にいるのだと感じさせてくれるのだ。
私が触れている彼の手は人を殺した手であり、今まで殺してきた人間の血が染み込んでいるのだろう。その殺人の証はきっと消えることはない。
だが、それは同時に私を救ってくれた手だ。私の暗い世界を壊してくれた、救いの手。
だからこそ、彼の手は温かい。私が触れる彼の手は、私を落ち着かせる温かみを持った手だ。
「…本当に、いいのか…?」
隣にいる彼は、やはりまだ抵抗があるらしい。だが、これはきっと私の身を案じているものだと思う。
「前も言ったよ。…『陽の為なら死んでも良い』、って」
その時、彼も言ったのだ。『俺の側にいるなら死ぬ覚悟は出来ているはずだ』…と。
この話は、私にとっては今更の話だ。陽と共に生きて死ぬ覚悟は、彼と会ったあの時に。…彼に命を救われた時から変わらない。
「…は、ははははは!! なるほど、なるほどな!!」
私の発言の後、少しして彼は大きな声で笑い始めた。その笑い声は一度聞いたあの狂った笑い声ではなく、とても純粋な笑い声に聞こえた。
「そうだ、そうだったな…。…怖がる必要なんて、無かったんだな…」
ひとしきり笑った後、少しずつ声は小さくなり最後の方は絞り出すように彼は言った。
彼が過去を話したがらなかったのは、嫌な過去だったからではなかった。思い出すのも悲惨な過去だからではなかった。
「…私は、嫌いにならないよ」
ならば、彼が欲していた言葉は。言うまでもないと思っていたその言葉なのだろう。
「…俺もだ」
彼に同じ事を言われて、やっぱりそうなのだと気付いた。彼の本物の言葉は、私の心に響き渡る。それは逆もまた同じはずだ。
もう一つだけ、さっきの言葉に付け加えたかったのだが。…今はまだ少し早い。
もう少しだけ大人になったら…彼に伝えられるかもしれないその言葉を今は深く飲み込んだ。




