3-18
――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
―――
「…き、藤吉郎殿!! これは一体…!?」
彼が壊れてしまってから少し経った後のこと。
惨劇の爪痕をその目で見た、被害に遭わなかった幸運な者達の心中は穏やかではないだろう。
敵襲の鎮圧は完了しているようなところをみると、そこまで規模の大きなものではなかったらしい。
にも関わらず、生き残った者が見たのは無数に転がっている仲間であった者達の変わり果てた姿であった。
「…全員、殺されてますね。何故このような…」
その凄惨な現場を見て、藤吉郎と呼ばれた男は思わずそう呟く。この人数が殺されるような事態ではなかったはずなのは、彼はよく知っていた。
そして数ある死体の中で、彼はよく見知った顔があるのに気付く。
その人物は、この状況が起きるほんの少し前に会って話をした人物であった。
「…光…秀…?」
何故、この無数に存在する死体の中に彼の死体が混ざっているのか。
彼はそこらの人間に殺されるような弱い人間ではなかったはずだった。それこそ、この場にいる人間全員を相手しても問題無い程の実力は持っていた。
しかし、現にそこには彼の死体が存在している。目は閉じられ、心臓は脈を打っていない。
彼の溢した、光秀という名はどうやら誰の耳にも届いてはいなかったようだった。もしかしたら、それは言葉に出来ていなかったのかもしれない。
そうして、彼はある疑問に行き着く。この男がここにいるのならば、『彼』は一体どこにいるのか。
光秀がこの場で殺されているのなら、『彼』も同じように殺されていてもおかしくない。
だが、周りを見渡しても『彼』の姿は見受けられない。『彼』がもし生きていたら、腹心の従者の側にいないはずはないのだ。
「……………」
彼のその疑問はすぐに瓦解する。光秀の死に顔に涙の跡があるのを見たからだ。
そして理解する。この状況は、彼と光秀が最も危惧していたものなのだと。
そうでなければこの惨劇は成り立たない。考えうる限り、最悪の想定が今目の前で起こっている。
「……上に伝えなさい。織田信蔵、明智光秀両名共に戦死、と」
「なっ!? 真でありますか、藤吉郎殿!?」
「…二度言わせないでください。彼等は、この場で死んだのです」
絞り出すように出したその言葉。それは間違いであり、また正しくもあった。
信じがたいその言葉も、彼の様子を見れば真実であるのだと周りは理解した。
「……すまない」
彼が口にした言葉は誰にも聞かれておらず、聞かせる気もなかった。
ある武家に起きた大殺戮は、こうして幕を閉じた。真実を知るのはただの二人だけであった。
「…………………………」
『彼』が誰なのか。『彼』がどうしてここを歩いているのか。
それは誰も知らない。きっと、『彼』自身も分かってはいないのかもしれない。
それを分かるのは身体に付着した血だけ。黒の着物を染め上げた血が物語っている。
そう、『彼』はもう何者でもない。
そんな『彼』が『人斬りシンゾウ』と呼ばれるのは、少し後の話だった。




