3-13
「こ、こっちだ!! 信蔵様と光秀様が…!!」
刀を構えた直後、信蔵の背後から聞こえてきたのは大勢が走ってくる足音。
その足音の主、ほぼ全員が目の前の光景に面を喰らう。それも当然。当主の息子と従者が、本気の殺意をぶつけ合っているのだから。
どんなに鈍い人間でも分かる程の明確な殺意が。二人の間には存在していた。
その二人には勿論、聞こえてきた足音など聞こえない。目はお互いの挙動一つに釘付けとなり…耳は目の前の相手の出す音以外は受け付けない。
「……………………」
「…………………」
その二人の異常な雰囲気に、そこにやってきた人間は思わず息を呑む。そして二人も一言の声も交わさない。
そうして訪れた、一瞬の無音の空間。
それを破ったのは…意外にも信蔵だった。
「!!!」
当然、無音の空間からいきなり動き出せばそこから音が生じ、相手の反応を促す。
その機会に動き出すのは愚の骨頂とも言える、普通では有り得ない行動。
だからこそ。それが、予想出来ない動きだったからこそ。
その相手の反応を促す動きであるはずのものは、逆に反応を鈍らせた。
信蔵は、一瞬で間の距離を詰め持った刀を光秀に向けて振るう。
反応が鈍ったのは間違いないが、それでもその攻撃に合わせてほぼ同時に刀で薙ぎ払う光秀。
的確に信蔵の首を狙った光秀の太刀筋は、皮肉にも最高の一撃だった。
過去を遡ってもこれ以上に美しく、そして無慈悲な一撃は光秀の記憶には存在しないほどの、完璧な一太刀。
迷いなど一切なく、長い間仕えていたはずの人間に向けるにはあまりにも残酷であった。
「…!?」
しかし、光秀は確かに見た。自分の太刀を見て尚、歪んだ笑顔を崩さない信蔵の顔を。
それは、思考の外からの攻撃にも関わらずそれを全て帳消しにするかのような迎撃を自分へと向けた光秀に対する…『称賛』。
そして、考えたことが全て合致したことを意味する、『確信』が含まれていた。




