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これ以上無いほどの、完璧な一撃だった。
数瞬後には確実に相手の首を胴体から斬り放していたであろう、不可避の一撃。
「惜しかったな、光秀」
そうであったはずの光秀の太刀は、まるで狐に化かされていたかのように空を斬る。
そこに存在していたはずの首は、太刀の軌道上にはなく。
全てを読んでいたかのような目を上に持つ首は、刀の下を潜り抜けていた。
「なっ!?」
その口元は相も変わらず歪な、そしてまた楽しそうな笑みを浮かべている。
ここで光秀は疑問に思わなくてはいけなかった。
確かに光秀の放った一撃は過去最速の一撃だったかもしれない。
であったとしても、信蔵の先制攻撃はそれよりも遅くなるはずはない。ほぼ同時に繰り出されるのが道理というものだろう。
なのにも関わらず。信蔵の太刀は光秀の刀が空を斬ったその後も、まだ光秀には届いていない。
「(一体何が…!?)」
少し遅れて光秀もそのことに気が付いた。しかし、それでは少しだけ遅かった。
無音の状態で先に仕掛けた信蔵が右手で太刀を振ろうとしていたのを、光秀も確かに見ている。
そしてこの攻撃の時間のズレに疑問を持ち…信蔵の右手側を見るのは非常に理にかなっていた。
しかし、それこそが信蔵の攻撃を遅らせた意図であり。
理にかなってるからこそ、光秀は確認を怠らないと信蔵は踏んでいた。
そうして、視線を右に少しだけずらした時にはもう遅い。
信蔵の右手には刀が握られているはずはなく。
「!?」
丁度視線から外れた『左手』に握られた凶刃は。
「…相変わらず、だな…光秀」
冷静に、そして合理的な判断を行った、彼の目の前の男に突き刺さる。
先の殺人で得た快楽によって。信蔵の中で開花したのは、殺し合いに必要な『全て』の才能。
今まで殺し合いをさせてもらえなかったからこそ、燻っていた才能が全てその瞬間に花開いた。
この一騎討ちで行われた『駆け引き』も…その中の一つであったのは言うまでもないことだろう。




