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-約10年前-
「…退屈だな。何にもすることがない」
尾張の国に存在する大きな城の、ある部屋には一人の青年が。
「私もですよ、若様。どうして私がお守りなど…」
「守りなど不要だと言っただろう。俺は一人がいいんだ」
「そう言われましてもね。これも命令でありますので」
その傍らには、腰に刀を差した初老の男性。青年が着ている服と似たようなものを着ているところを見ると、青年の従者であるらしい。
「…それに、幼少の頃より見てきた若様を見捨てるのは道理に反します」
「…勝手にしろ。どうせ何もすることはない」
どうやら、長く続いている主従の関係であるようだ。若様、と呼ばれた青年は少しだけ嬉しそうな顔をしている。
しかし、若様ということはこの城の当主である人の息子であると解釈出来る。にしては、何もすることはないとはどういうことなのだろうか。
「では、若様。気晴らしに城下町にでも出掛けますか」
「またか…。お前本当城下町好きな」
「えぇ。この息苦しい城の中よりは幾分か良いと言えるでしょう。若様はお嫌いですか?」
「いや…同感だ。ここは居心地が悪い」
この部屋には、豪華な設備が整っている…というわけでもないが住みやすそうな場所ではあるだろう。
一方で、この二人は居心地が悪いらしい。何か理由があるのは間違いないだろう。
「しかし、また親父に知られたら面倒だな…。何かいい案は無いか?」
「もう謹慎は喰らいたくないですからね。用意しておきましたよ」
そう言って取り出したのは、真っ黒な大きな着物と眼帯。どうやら変装をするようだ。
「でかした! これなら俺だと分かるまい」
青年はその着物を嬉々として手に取り、眺めてみる。
その黒い着物は、別段上質な布で作られているとか装飾がしてあるといったものが一切無い質素な物。
しかし青年はそれを気に入ったようで、胸に抱き抱える。
「その程度の物しか用意出来ませんでしたが、よろしかったでしょうか」
「あぁ。こういう方が俺は好みだな」
「それは良かった。若様によく似合うことでしょう」
青年の反応に嬉しそうに頷く男。端から見れば親子のようである。
「早速行くか」
「ええ、そうしましょう」
そう言って二人は外へ繋がる襖を開け、並んで歩いていった。




