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第6話 本格的に!

 狩人たちが去っていくのを見送った。


「さて、いよいよ本格的に始めるとするか!」


「はい! 魔王様!」


「その前に、ちょっと離れてくれ……」


 プニは蛇のように俺の体をぐるぐると巻きついていた。腰から伸びたぷにぷにの体が脇腹を伝って上り、首にまで巻きついている。


 これじゃ抱きついているというより、絞めつけているだけじゃないか。


「プニ、離れろって」


「魔王様!」


「返事だけするな!」


 ……はあ。


 俺は諦めて顔を背けた。とりあえずプニのことは後回しにしよう。


 今はそれよりも重要なことがある。


 俺は足元でぽよぽよ跳ねているスライムに近づいた。


 よし。


 いよいよ始まりだ。


 俺の壮大な計画、その第一歩である。


====================================

【固有スキル『改造』】

・対象:スライム Lv.1(下級魔物)


【解放条件一覧】

・初回討伐 [達成!]


・対象レベル(Lv.1)<使用者レベル(Lv.4) [達成!]


【改造可能項目】

・外見および質感(粘性、色、形状)

── 『改造』Lv.1以上 [可能]


・特性および生態(酸性度、捕食性、好戦性)

── 『改造』Lv.2以上必要 [可能]


・ステータス補正(体力、攻撃力、移動速度)

── 『改造』Lv.3以上必要 [ロック中]


※現在のスキルレベル:『改造』 Lv.2

====================================


「ふふふ……」


 よし。外見や質感はもちろん、特性まで変えられる。


 まだステータスそのものを強化することはできないが、それは後で考えればいい。


 重要なのは、今持っている能力で何ができるかだ。


「恐ろしさというものを見せてやろう」


 俺はスライムに向かって手を伸ばした。


「『改造』!」


 指先から淡い光が広がった。


 目の前のスライムがどんな構造をしていて、どんな性質を持っているのかがぼんやりと分かった。まるで直接触れてもいないのに、体の隅々まで見透かしているような感覚だった。


 俺はその中から、変えたい部分を選んだ。


「酸性度を上げて……捕食対象を変更して……」


 スライムの青い体が揺らめいた。


 表面にさざ波が広がり、しばらくすると何事もなかったかのように元の姿に戻った。


 ……できた!


「ふふふ。完璧だ」


 やっぱりスライムといえばこれだろ!


 服と鎧だけを溶かすスライム!


「ははは! 女戦士……はいないか。とにかく、ほかの奴らの服も鎧も、残らず溶かしてくるんだ!」


 ぽん!


 スライムが元気よく返事をした。


 そして、ぽよぽよと跳ね上がると俺の胸に飛び込んできた。


「……ん?」


 ぽん!


「うわあああっ!?」


 湿っていて柔らかい体が胸元に張りついた。


 瞬間、服に冷たい水をぶちまけられたような感触がした。


 いや、冷たい水どころじゃない。


 ジュジュジュ……。


「え?」


 服の裾から怪しげな音が聞こえた。


 視線を落とすと、スライムが張りついた部分から布が溶け始めていた。無事だった生地がじわじわと濡れ、やがて形を保てなくなってぐにゃぐにゃと崩れていく。


「ええ?」


 ジュジュジュジュ……!


「うわあああっ!! この変態スライム野郎! 何をしてるんだあああ!!」


 俺は必死になってスライムを引き剥がそうともがいた。


 だが、スライムは離れるどころか、服を伝って這い上がりながら楽しそうに体をくねらせていた。


 ぽん! ぽん!


「喜ぶな! 自分が何をしてるのか分かってるのか!?」


 すでに上着の大部分は溶けてしまっていた。


 俺は必死にスライムを引き剥がし、地面に叩きつけた。


 しかし、もう手遅れだった。


 残った裾まで、風に舞い散るようにほろほろと崩れていった。


「俺は魔王なんだぞおおお!!」


 俺は下着だけの姿で草むらを転げ回った。


 ……待てよ。


 いや、むしろ前向きに考えよう。


 これほど効果が高いのか?


 服と鎧を溶かす能力は、間違いなく完成している。それも俺の体に張りついた瞬間に効果が出るほどだ!


 ……効果がありすぎるだろ!


「はは……ははは……!」


 笑いが込み上げてきた。


 もちろん、嬉しくて笑っているわけではない。


「満足するな! エルフの魔法使いとかツンデレ女戦士とかを狙ええええ!!」


 俺はスライムを蹴飛ばした。


 ぽん!


 スライムは宙を舞い、草むらに突っ込んだ。


 しばらくすると、体をぴくりと動かし、そっと顔を覗かせた。


 ……いや、スライムに顔なんてあったか?


 とにかく、俺の様子を窺いながら、こそこそと村の方へ逃げていった。


「ゴホン……失礼した」


 何事もなかったかのように咳払いした。


 もちろん、下着姿のままで。


 ところが、プニは相変わらず俺の首にしがみついていた。目を輝かせながら俺を見上げる様子は、なぜか感激しているようだった。


 ……いったいどこに感激する要素があったんだ。


「とりあえず、服を作らないとな……」


 俺は周囲を見回した。


 幸い、ここは森の近くの草原だ。材料ならいくらでもある。


 身をかがめ、草むらに手を置いた。


「『改造』」


 指先に草の感触が伝わってきた。


 芝生の色と形を変え、長さを調整し、互いに編み込まれるように操作する。草の葉がひとりでに絡み合い、布のように広がっていき、やがて体を包めるほどの服が完成した。


「……よし」


 少し粗くて不格好だが、下着だけで歩き回るよりはマシだろう。


 だが、ふと一つの事実に気づいた。


「……よく考えたら、俺の服だけ溶けないようにすればよかったんじゃないか」


 ……。


 ……いや。


 後悔しているわけじゃない。


 俺は将来、魔王になる男だ。


 こんな些細な失敗を気にするほど器の小さい男ではない。


「ゴホン。次からは気をつけるとしよう」


 そのときだった。


「きゃああああ!」


 ……!


 遠くからか細い悲鳴が響いてきた。


 高く澄んだ声。


 そして、続けて聞こえてきた切羽詰まった叫び声。


「ふ……服がああああ!」


「……!」


 まさか……!


 成功したのか!?


「ははは! ついに我が配下の活躍する時が来たか!」


 俺は草原を蹴って走り出した。


 村の方だ。


 いったい誰だろう?


 役立たずの女神?


 ドMの女騎士?


 それとも中二病の魔法使い?


 ……いや、誰でもいい!


 今は誰だって構わない!


「待っていろ! 俺が行く!」


 期待に胸を膨らませながら、村へ向かって駆けた。


 そしてついに、悲鳴が聞こえてきた場所が見えてきた。


 見えた!


 あそこだ!


 ああ……!


 あの真っ白な肌に、つやつやと輝く大きくて丸い……!


「……ハゲ?」


 足から力が抜けた。


 そこには下着だけになり、身をくねらせている筋骨隆々の口ひげ男がいた。


 輝く禿頭。


 丸太のように太い腕。


 鎧の下に隠れていたであろう、たくましい筋肉。


 そして、恥ずかしさでほんのり赤くなった顔。


「いやん、恥ずかしいわぁ~」


 ……。


 ………。


「……」


 俺は静かに近づいた。


 そして、草で作った服をもう一着作って手渡した。


「ゴホン。助かったよ」


「……いえ」


 それ以上、俺たちは何も言わなかった。


 互いに目を合わせることもなかった。


 ただ何事もなかったかのように、神妙な面持ちでその場を通り過ぎた。


 ……これが大人の気遣いというものか。


 いや──。


「そんなことで済む問題じゃないだろおおお!!」


 俺が期待していたのは、こんな展開じゃない。


 エルフの魔法使いとか、ツンデレ女騎士とか、せめて普通の女性冒険者とか。


 それなのに、どうして禿頭の筋肉質なおっさんが下着姿で身をくねらせているんだ?


 俺は振り返り、村の入り口の方を見た。


 スライムがそこにいた。


 まるで誇らしげに、体を丸く膨らませている。


 もちろんスライムが汗をかくはずもないが、なぜか汗だくになって成果を自慢しているように見えた。


「誇らしげにするなあああ!!」


 俺は再びそいつを蹴飛ばした。


 ぽん!


 スライムははるか彼方へ飛んでいった。


 ……はあ。


 今日だけでいったい何回蹴飛ばしたんだ。


 俺は額を押さえた。


 そうだ。認めよう。


 まだまだ足りない。


 スライムの能力そのものは素晴らしい。だが、今の状態では俺の望む結果を得るのは難しい。


 何より、ステータスを強化できないままでは、より強い魔物を相手にするにも限界があるだろう。


「……よし」


 俺はゆっくりと顔を上げた。


「こうなったら、まずは改造をLv.3まで上げるのが最優先だな」


 くくく……。


 よし。


 もっと恐ろしいものを見せてやる!


 もちろん、今はあくまでテストだ。


 次は失敗しないようにすればいい。


 ……たぶん。


「プニ! もう一度森の中へ行くぞ!」


「はい! 魔王様!」


 プニが満面の笑みで答えた。


 俺は新しく作った草の服を整え、森へ向かって歩き出した。


 よし。


 次の段階へ進もう!

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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