第4話 イノシシ討伐!②
「よし! いいぞ!」
目の前に広がる光景に、思わず歓声が漏れた。
数十匹ものスライム。
小さな体を揺らしながら、一斉にこちらへ向かって跳ねてきている。その中でも先頭を走る青いスライムは、まるで自分が群れを率いるリーダーであるかのように、堂々とした姿だった。
そうだ。これだ!
俺が求めていたのは、こういうものだった。
一人では手に負えない相手でも、仲間がいれば話は変わる。それも一匹や二匹ではなく、数十匹もいるならなおさらだ!
「もう少しだけ耐えてくれ!」
「な……?」
「少し時間を稼いでくれればいいんだ!」
返事を待っている余裕はなかった。
俺は駆け寄ってくるスライムの群れに向かって走り出した。
「さて、どれどれ……!」
見慣れたステータス画面が目の前に浮かび上がった。
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【固有スキル『改造』】
対象:スライム
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俺は先頭にいるスライムに向かって手を伸ばした。
すると、指先からかすかな光が広がった。
スライムの体が一瞬歪み、すぐに元の形へと戻る。
……よし。
次だ。
その隣にいるスライムにも、同じことを繰り返した。
一匹、二匹、三匹。
改造を重ねるたび、体の中から何かが抜けていくような疲労が蓄積していく。だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「もう少し……!」
最後のスライムまで改造を終えたとき、俺は荒い息を吐きながら顔を上げた。
そして、指で角イノシシを指し示した。
「よし! 全員、突撃!」
もちろん、スライムたちが俺の言葉を理解したわけではない。
ただ、俺の目の前にいた青いスライムが真っ先に飛び出しただけだ。
だが、その動きを合図にしたかのように、残りのスライムたちも一斉に角イノシシへと突っ込んでいった。
「な、何だあれは……!」
狩人の一人が驚愕の声を上げた。
「スライムだと!? あんなものでいったい何をするつもりだ!」
「あいつの皮膚がどれだけ硬いか見なかったのか!? 剣だってまともに通らない相手だぞ!」
「まさか、あれで倒すつもりなのか……!?」
狩人たちの声には、明らかな困惑が滲んでいた。
『……分かっているさ』
俺だって、それくらい分かっている。
いくらスライムが数十匹集まったところで、あいつらの攻撃力では角イノシシにまともな傷一つ負わせるのも難しいだろう。数で押せば解決するような問題ではない。
だが、それはあくまで普通のスライムなら、という話だ。
「ふふふ……!」
どれだけ好戦性を高めても、スライムは本能的に自分の身の丈に合った相手を攻撃する。
最初にこいつを改造したときもそうだった。目の前にある草を敵と認識して襲いかかるほど好戦的になったが、だからといって何にでも手当たり次第に飛びかかるわけではなかった。
ならば逆に……。
親和性を高める!
攻撃する代わりに、相手を好きすぎてくっついてしまうようにすればいい。
相手を傷つける必要はない。
もちろん、ただくっつくだけでは何の意味もないだろうが……。
それが数十匹となれば話は別だ。
「さあ、やってみろ」
俺の言葉が終わるより早く、一匹目のスライムが角イノシシの前脚に張りついた。
二匹目は後ろ脚。
三匹目と四匹目は胴体。
その後も、次々とスライムたちが角イノシシに飛びついていった。
「ブヒイイイッ!」
角イノシシは頭を振り、激しく体を揺さぶった。
だが、スライムたちは離れなかった。
むしろ、さらに強くしがみついた。
「な、何をしているんだ……?」
狩人たちが呆然と呟いた。
俺も内心では少し驚いていた。
『……思った以上に上手くいっているな?』
角イノシシは巨体を左右に振り、スライムたちを振り落とそうとした。木に体をぶつけ、地面を転げ回りさえした。
しかし、スライムたちはしつこかった。
一匹が落ちれば、別の一匹がその場所を埋める。脚に張りついたスライムたちは動きを妨げ、胴体に張りついたスライムたちは角イノシシが体勢を保つのを難しくしていた。
そしてついに、スライムたちは角イノシシの頭や鼻先まで覆い尽くした。
「ブ、ブヒイイイッ!」
角イノシシは必死にもがいた。
だが、もう遅かった。
体を動かそうとしても、脚がまともに動かなかった。息をしようにも、鼻先の周りを埋め尽くしたスライムたちのせいで、まともに呼吸することすらできなかった。
巨大な魔物がよろめき始めた。
一歩。
二歩。
そして……。
ドスン!
角イノシシの巨体が地面に倒れ込んだ。
しばらくの間、脚がぴくぴくと動いていたが、それも長くは続かなかった。
やがて、動きが止まった。
……。
……。
「……勝ったのか?」
誰かが恐る恐る呟いた。
俺は答えず、ただ目の前に倒れている角イノシシを見つめていた。
本当に勝ったのか?
あの巨大な魔物を、たかが数十匹のスライムで?
「……はは」
笑いが漏れた。
「ははは……!」
やった!
ついにやったぞ!
俺は拳を強く握りしめた。
「やった! やったぞ!」
狩人たちは呆気に取られた表情で俺を見ていた。
そんな視線など、今はどうでもよかった。
今、大事なのは別のことだからだ。
俺は急いでステータス画面を確認した。
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【固有スキル『改造』】
【解放条件更新】
・初回討伐:角イノシシ Lv.8[達成]
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≪ピロン! レベルが上がりました≫
Lv.2 → Lv.4
「……よし!」
思わず歓声が上がった。
ついに条件を達成した!
レベルも上がった!
そして何より……。
俺は振り返った。
数多くのスライムの中に、一際目立つ青いスライムがいた。
この世界に来て初めて出会ったスライム。
俺が初めて改造したスライム。
そして今、俺を助けるために他のスライムたちを連れて戻ってきてくれたやつだ。
「……ありがとう」
俺はスライムの前にしゃがみ込んだ。
「お前がいなかったら、大変なことになっていた」
ぽん!
スライムが体をぴょんぴょんと跳ねさせた。
『……可愛いな』
いやいや、違うだろ。
こんな感想に浸っている場合じゃない。
俺は真剣な表情でスライムを見つめた。
「よく聞け。お前は俺の最初の部下にして、部下一号だ!」
ぽん!
「だから、特別な名前をつけてやろう」
俺は少し考えた。
強大な魔物の軍団の先陣を切り、いずれ俺の名を世界に轟かせる偉大な部下。
そんなやつにふさわしい名前は……。
「プニ!」
「……ぽん?」
「そうだ。今日からお前の名前はプニだ!」
俺は満足げに頷いた。
よし。
名前も決まった。
最初の部下もできた。
あとは強大な魔物の軍団を作り、この世界を……。
「……ん?」
その瞬間だった。
目の前にいたスライムの体が、ぼんやりと光り始めた。
「え……?」
最初は日の光が反射したのかと思った。
だが、違った。
プニの体の内側から青い光が漏れ出していた。光は徐々に強くなり、半透明だった体が波打つように揺れ始めた。
「ちょ、ちょっと待て。何だ、これ?」
俺が手を伸ばすより早く、光はさらに明るさを増した。
そして、しばらくして。
光が消えたその場所にいたのは……。
「……え?」
俺は口を開けたまま固まってしまった。
……いや。
待て。
いったい何が起きたんだ?




