第五話:王都到着
「やっと着いたぁ」
ミアがそう言いながら馬車の荷台から地面に降りて背筋を伸ばす。
イザベラと僕も外に出て背筋を伸ばして腕を振ったり屈伸したりして身体を解す。
7日間の馬車の移動、特に後半はかなり狭くなってしまっていたので窮屈だったのだ。
「それもこれも全部ソウ君のせいですよねっ?」
服が汚れるのも構わずに地面に寝そべっているナタリーさんが呻くように言う。
他の鑑定士さん、騎士さん、冒険者さんも地面に寝そべっていた。
7日間に襲って来た盗賊や魔物のもので馬車の荷台の大半が埋まってしまっていたのだ。
『変換』を人に見せることはできないので乗せていたら居住スペースがだんだん狭くなってしまったのだ。
途中の村で売ろうとしたのだが王都のほうが高値で取引してくれると冒険者さんにアドバイスをもらった。
とりあえずこの大量の武器や防具、魔物のアイテムなどを売らなければいけない。
「ぐぎぎ、ふう。それならソウ君が働く錬金術師のお店で買ってもらえばいいですよ。もし扱えないものがあれば私が他のお店を紹介しますので」
痛そうに手で身体を持ち上げて立ち上がったナタリーさんが教えてくれた。
王都の城門で手続きをして入る。
身分証の提示など結構警備は厳重で身体が大きく怖そうな騎士さんが護衛していた。
招聘対象のイザベラとミアは中央にあるお城の近く、大通り沿いの宿に泊まるらしいけど招聘対象外の僕はナタリーさんと一緒に路地を歩いている。
「この辺りは商業地区でいろいろなお店があるんです。ソウ君が働く錬金術師さんの店もこの地区にあるんですよ」
ナタリーさんの話だと王都は5つの地区に大まかに分かれているらしい。
中央の王様のお城の周りをぐるりと円形で囲む警備地区、北東は学術地区でイザベラとミアが勉強するところ、北西はいま歩いている商業地区、南西は交流地区で宿や組合の建物などができていて、南東は食堂や市場があるらしい。
ちなみに城門は南に位置していて外からくる人たちにとって動きやすい造りになっているのだとか。
「あ、見えてきました。あのお店です」
そう言ってナタリーさんが指さす方に馬が外された馬車が置かれていた。
馬車の置かれているお店のドアの前にはCLOSEの札がかかっている。
「またあの人は・・・しょうがないですね」
そう言ってナタリーさんは店の脇の細い道路に入っていき、僕を手招きした。
裏口と思われる扉を開けると小さな庭があり植物が整然と植えられている。
僕が見ているとナタリーさんは建物の扉を開けて中に入ろうとする。
「無断で入っていいんですか?」
僕がそう尋ねるとナタリーさんはにっこり微笑む。
「いいんですよ。ここの家主のカミラは私の幼馴染で・・・」
「腐れ縁というやつだ」
家の奥から声がして、誰かが歩いてくる音がする。
「うっ!」
その姿を見て急いで視線を庭に戻す。
「な、カミラっ!なんて格好をしてるんですかっ!」
腰まである美しい銀髪と緑色の瞳、整った顔立ちと白い肌、黒い下着に覆われた大きな胸と細い腰、黒い下着に包まれた下腹部とすらりとした足の残像が瞼に浮かぶ。
いかん、いかんっ!僕には灯という恋人がいるんだ。
「なんて格好って、店が休みなんだから別にいいだろう?」
「勝手にお休みしないでください!あなたはS級錬金術師という自覚があるんですかっ?」
「はい、はい、わかったからそう騒ぐな。ところで」
ぺたぺたと裸足で歩いてくる音がして僕の後ろで止まった。
「こいつはなんだ?」
後ろから観察されているような視線を感じる。
本来だったら目を合わせて挨拶を行うところだけどできない理由がある。
「あなたが希望していた鑑定スキルを持つ子です。訳があって今日王都に到着したんです」
ナタリーさんが話しているあいだも視線は外れない。
「鑑定スキル持ちはいいが、碌に挨拶もできないヤツを雇えと言うのか?」
視線が外れてカミラさんがナタリーさんに向くのを感じた。
ここで言っておかなければならない。
「・・・い」
恥ずかしくて声が出ない。
「なんだ?言いたいことがあるならはっきり話せ」
カミラさんが溜息交じりに言うのではっきり伝えることにした。
「挨拶したいので、ふ、服を着てくださいっ」
「あらためて錬金術師のカミラ・アッシュベリーだ」
「初めましてメリダ村から来たソウといいます」
ゆったりした黒に近い色のワンピースを着たカミラさんと椅子に座ってテーブル越しに挨拶を交わす。
ナタリーさんは勝手知ったるという感じで台所でお茶を入れてくれて運んできてくれた。
「カミラは幼馴染の中でも優秀で変わり者だったの」
ナタリーさんも椅子に座って話をする。
「変わり者だから19にもなって、まだ恋人もいないのよ」
「お前もそうだろう?ナタリーの周りにも浮いた噂はなかった気がするが」
「私は親が組んだ許婚がいるんですよ?浮いた噂があったら困ります」
お茶を飲みながら幼馴染同士の話を聞いていた。
「ところでソウ、お前の鑑定はどの程度のものなんだ?」
どの程度?鑑定に差があるのだろうか?
「鑑定の習熟度合いによって鑑定結果にも差が出るんです。だから鑑定スキル持ちといっても人によって程度に差が出るんですよ」
そうナタリーさんが教えてくれているあいだに、カミラさんが立ち上がり壁の棚から小さな容器に入った液体を手に戻ってくる。
「カミラ、ソウ君は7歳で7日前に鑑定スキルと判明したばかりよ?」
「分かっている。ただ雇うとしても現状を把握しなければいけないだろう」
そう言うと液体の入った容器を僕の前に置いた。
「これはポーションだ。鑑定による情報を教えろ」
雇用前の試験ということか。
目の前の液体に鑑定を発動すると情報がステータスボードに表示される。
体力回復用ポーション
品質:低ランク(偽装魔法による高ランク偽装あり)
状態:経年劣化により状態悪い
特殊効果:なし
販売価格:10コルト
前を見るとカミラさんが笑っているけど少し意地悪そうに見えるのは気のせいだろうか?
「ちなみにこれは私が作ったものだ」
そう言ってより笑みを深くする。
S級錬金術師が作ったポーションならネームバリュー的なものがあるのだろうか?
それがどれほどのものか僕には分からないので判断のしようがない。
ナタリーさんを見ると苦笑いしている。
「これは体力回復用のポーションで、高ランクに見えるように魔法で偽装されていますが、かなり低いランクだと思います。状態も年数が経っているせいでよくないです。特殊効果もなく10コルトくらいの価値しかないと思います」
ちなみに1コルトは日本円で1円くらいの価値だったと思う。
メリダ村では薬草1枚10コルトで取引されていた。
「ほぅ、私が作ったポーションが偽造品で10コルトの価値しかない、そうお前は言うんだな?」
カミラさんの緑色の瞳が僕を睨みつける。
ナタリーさんはポーションを見て額に汗をかいていた。
もしかして僕の鑑定結果は間違いだったのかと考えるけど鑑定がそう出てしまったので仕方がない。
不合格かなと思うけど頷いて肯定の意を示した。
「ぷっ、ぷはははっ。これはいい。いい鑑定スキルだ」
剣呑そうに睨んでいた緑の瞳の力が抜けてカミラさんが楽しそうに笑いだした。
「私の鑑定結果も同様ですが状態は悪いというだけで経年劣化とは出ませんね」
ナタリーさんは信じられないものを見る目で僕を見る。
「いままでの鑑定スキル持ちは私が作ったというだけで鑑定結果を捻じ曲げることもあった。採取に関しても無茶振りだのパワハラだのと言い、自分の無能をさらけ出しているのだ」
採取も程度によるんじゃないかなとは思うけど。
「カミラ、ソウ君はまだ7歳です。採取もあまり無理は・・・、いえ多少無理を言っても大丈夫かも?」
ナタリーさん、そこは無理をさせるなと言ってほしい。
カミラさんも訝し気にしているじゃないですか。
「よし。お前が音を上げるまでは雇ってやる。2階に使っていない部屋があるから住居も提供してやる」
給金が出て、住居を確保できるだけでも条件としては悪くないと思う。
カミラさんが片手を差し出してくるけど握手による契約前に言っておくことがあった。
「カミラさん、雇ってもらう前に僕からも要望があります」
カミラさんは上機嫌で出した手をテーブルに置いて不機嫌そうに僕を睨む。
「雇われる側のお前が雇い主である私に要望するのか?なんだ給金か?休日か?」
あまり調子に乗るなよというように僕を睨んでいるカミラさんをナタリーさんがおろおろして見ていた。
「自分の部屋以外は必ず服を着てください」
「ぷっ」
僕がそう言うとカミラさんはバツの悪そうな顔になり、ナタリーさんは苦しそうに口をおさえている。
「はぁ、お前の要望は分かった。善処する。店の中の品物を鑑定しろ。店番や素材の買取も仕事のうちだ」
そう言って歩き出すカミラさんをナタリーさんと一緒に見ながら笑い合った。




