第四話:旅は続く
僕たちはまた馬車に揺られている。
ワイルドボア遭遇前のほのぼのとした空気はもはやなく、馬車の中はカオスの状態だった。
明後日のほうを向くイザベラと目の前の血抜きして僕がミョルニルの魔法で凍らせた巨大なワイルドボアのもも肉をうっとりと眺めるミア。
俯く騎士さんと横たわる騎士さん、頭を抱える男の鑑定士さんと茶色のさらさらしたボブヘアーから覗くこめかみになぜか青筋を浮かべ、腕を組み、指を神経質そうに動かすナタリーさん。
「ねぇ、ねぇ、やっぱりもも肉だから焼くのがいいよね?煮込みもいいかなぁ」
「ちょぉぉぉぉぉっと聞いてもいいかなぁぁぁぁぁ、ソウ君んんんんん?」
新鮮なお肉だから焼いた方がいいのでは?とミアに返答する間もなく、やけに低音のナタリーさんの声がして肩を掴まれた。
ナタリーさんに顔を向けると顎を引き、上目遣いの茶色のジト目がいきなり目に入る。
あ、やべー感じ?
「え、えっとぉ、な、なんでしょうか?」
僕がそう答えるとナタリーさんは僕の肩から手を離して深く深呼吸した。
「なんでっ!昨日鑑定したばかりのスキルをイザベラさんはこともなげに使えるのっ!なんでそれを君が知ってるのっ!あのハンマーは何っ!なんであんな爆発が起きるのっ!なんで君はワイルドボアを追ってったのっ!最後になんでワイルドボアのもも肉が凍ってるのっ!」
一気に話し終えたせいかナタリーさんは肩で息をしているので鞄から水筒を出してコップに水を満たした。
それを一気に飲み干したナタリーさんは乱暴に袖で口元を拭って変わらず僕をジト目で見る。
ワイルドだろうぅ?
「えっと、イザベラがスキルを使えたのは、さ、才能ですかね(前から使っていたとは言えない)。僕が知っていたのではなくイザベラの才能を信頼しているというか(使ってるところ見ていたからね)。あのハンマーは僕がよく使っているもので釘とかも打ってます。あの爆発はハンマーの機能としか。ワイルドボアを追って行ったのはお肉が欲しかったからで(5頭と1頭のもも肉以外は変換済み)。最後にもも肉が凍っているのは鮮度を保つためです」
ミョルニルは魔力を通すとその場に応じた効果を発揮してくれる。
本当に便利なハンマーだ。
僕は正直にナタリーさんの尋問?に応えたのだがナタリーさんの目尻と頬がぴくぴく痙攣してる。
「ナ、ナタリーさん、そんな難しい顔していると折角の綺麗な顔が台無しですよ!わ、笑っていたほうが魅力的かな~と」
あはは~と笑うも絶対零度近いナタリーさんの目線に固まってしまう。
この状態がいつまで続くのかと思ったが不意にナタリーさんが目線を逸らして溜息を洩らした。
「すみませんでした。ワイルドボアから助けていただいたのは分かっているんですがあまりに理不尽なことがあって」
そうですよね。
理不尽はいけません。
「ワイルドボアに弾き飛ばされた騎士は次の村で診てもらうことにしました。代わりに騎士か冒険者が護衛に来てくれると思います。必要かどうかわかりませんが」
冒険者と聞いて淡い期待を抱いてしまう。
もしかして、もしかして灯かも、と。
灯は14歳、僕は7歳、出会ったとしても分かってくれるだろうか?
本当にあの駄女神め、年齢が違うんだから出会えるようにセッティングするくらいできなかったんだろうか?
会ったときに何を話そう?
「・・・ん、・・・くん?ソウ君!」
「はいっ!」
考え事をしていたのでナタリーさんに呼ばれているのに気づかなかった。
ナタリーさんを見ると首を傾げて再びジト目で僕を見ている。
「な、なんでしょう?」
僕が尋ねるとナタリーさんは目を閉じてこめかみに人差し指を押し当てて頭痛を我慢するような仕草をする。
「聞いてくれてなかったんですね。あのハンマーを鑑定させてもらってもいいか確認していたのですが」
ミョルニルを鑑定したいらしい。
僕は頷いて鞄の中からミョルニルを出して床に置いた。
男の鑑定士さんとナタリーさんがそれぞれ手をかざして鑑定を行う。
「は?」
「え?」
2人とも驚愕の声を上げて固まった。
「ソウ君?これって・・・」
「S級ですよね?」
ナタリーさんの少し震えている声に答える。
武器や防具、道具、魔物、あらゆるものに等級が存在することは鑑定することで理解していた。
上位の等級からS級、A級、B級、C級、D級、E級、F級があるがS級とF級だけは特別でA級以上のものは全てS級、E級以下のものは全てF級なので同じS級、F級でも千差万別のようだ。
ミョルニルは魔法も付与できるし、呼べば戻ってくるし、僕以外は持ち上げることもできない、とても有用で便利なものだと思う。
「か、鑑定したんですね?なんでそんなに落ち着いているんですか?S級といったらとんでもなく稀少で強力な武器なんですよ?どこで得たのですか?」
う~ん。
「拾ったんです」
僕がそう答えるとナタリーさんと男の鑑定士さんは呆けたような表情で僕を見る。
「「ソウはいろんなもの拾ってきてたよね」」
イザベラとミアが揃ってそんなことを言う。
「ぐあ」
「ご」
「げふ」
手元にミョルニルが戻っているころには盗賊たちは既に全員気絶していた。
呆然としているナタリーさんと騎士さん、冒険者さん(灯ではなかった)を尻目に盗賊を鑑定して持ち物と武器、防具を回収する。
武器や防具も変換すると鉄などになるから売ることができる。
「じゃあ、行きますか」
回収できるものはすべて回収して倒れている盗賊を放置して旅を進めようとする僕に全員引き攣った笑顔をしていた。
「終わった?」
幌の後ろから顔を出すイザベラに頷いて戦利品を馬車に入れてから僕も乗り込む。
みんなを乗せると馬車が再び動き出した。
「ね、なんで盗賊そのままにしてくの?村の警備所に突き出せば報奨金もらえるんじゃない?」
ミアがそう尋ねるので回収できるものは回収したこと、縛って連れて行っては旅が遅れてしまうこと、ボロボロの盗賊なのでそんなに報奨金はもらえそうもないことを話す。
「イザベラとミアに早く王都に到着してほしい、そうですよね?」
僕がナタリーさんに尋ねるとナタリーさんはなぜかビクッと身体を緊張させてから慌てて頷いた。
「そ、そうですね!早めに到着することで王都にも早く馴染むことができますし、いいと思います!」
うん、うんと頷いて僕から目線を外す。
・・・・・。
なんかナタリーさんの僕の扱いが明らかに違っている。
目線も合わせてくれないし、避けられているようにも感じてしまう、最近特に。
「ナタリーさん、ソウのこと避けてない?」
イザベラが単刀直入にそう言うと再びビクッと身体を緊張させてから僕のほうを恐る恐る見る。
「べ、別にそんなことありませんよっ?S級の強力なハンマーを振るってあらゆるものを薙ぎ倒し、身包み剝ぐ無情な行いをしたとしても、べ、別に避けてはないです!果たして王都に連れて行ってもいいのかと悩んでもいないですっ!」
うん、思いっきり悩んでいるみたいだ。
「ナタリーさん」
僕が名前を呼ぶと両手を身体の前に寄せて身体を小さくさせて怯えたような目で僕を見る。
「僕が薙ぎ倒しているのは非道な行いをする人や魔物です。身包みを剥いでおけば再び用意するまで街道で活動することはないでしょう」
危険人物扱いされるのは心外である。
「そうだよ。ソウは良い人の味方で、悪い人を懲らしめてるの」
「時々美味しいお肉も届けてくれるんだよ」
イザベラとミアも援護してくれるので強張っていたナタリーさんの身体からも力が抜けていく。
「で、でも王都でハンマーを振るって建物を破壊したりとかは・・・」
しませんよ、人をなんだと思ってるんですか。
「あ、でも人攫いや強盗の家だったら壊した方がいいよね?」
僕の言葉にナタリーさんが再び固まる。
「ソウ、あと奴隷商人なんかも潰した方がいいかも」
「いじめてくる人や意地悪な教師の家も潰してくれる?」
イザベラとミアの要望があったので頷くとナタリーさんたち全員の顔色がみるみる悪くなる。
「だ、大丈夫ですよ!学校には重々、重~々、伝えておきますのでっ!ですので簡単に破壊しないようにお願いします!」
ナタリーさんが僕の手を掴んで涙目で必死に頼んでくるので頷かざるを得なかった。
「でも街道に出てくる魔物や盗賊は倒していっていいですよね?王都に着いてから売ればお金になりますし、イザベラやミアに渡せると思うので」
本来は護衛役である騎士と冒険者の役割なのだけどミョルニルで簡単に倒すことができるので時間短縮のためにも僕が倒そう。
「俺たちって、いる意味あるのかな?」
騎士さんが冒険者さんにそう言うと冒険者さんも悩み始める。
「いてもらえて助かります。鑑定士さんと7歳の子供3人では襲ってくれって言っているようなものですから」
僕がそう言うと男の鑑定士さんがうんうんと頷く。
「楽そうな相手だと我々を襲ってくる浅慮な者たちを君たちは守ってくれているのだ。君たちがいなければ街道は幾多の血で染まっていた可能性もある。いてもらわなければ困る」
「そうか」
「そうだよな」
う~ん、守る相手が違うような気がするのだけど騎士さんも冒険者さんも納得したみたいでナタリーさんもうんうん頷いている。
解せぬ。




