第二話:鑑定
「今日も終了!」
僕は暗闇が満ちる洞窟から木漏れ日の光が差す森に出てきた。
日課にしているヘルの迷宮踏破。
出てくる魔物を千切っては『変換』し、千切っては『変換』しまくって最速で駆けていく。
3歳から本当に入るのか訝しく思いながらも迷宮を確認したところ、いきなり吸い込まれて最下層の100階まで行ってラスボスのドラゴンを『変換』するまで7日かかった。
「あのときは神隠し扱いされていたっけ」
7日たって帰宅したときは父も母も泣き崩れて喜び、落ち着いたらすげー怒られた。
魔力はなくなるわ、無くなった魔力を『変換』したらレベルが上がらないわで二進も三進もいかなかったが迷宮を進んでいるうちに基礎力が向上したせいか少しずつレベルが上がり始めた。
「でも大物は経験値にしてないんだよな」
そう言って僕は自分を『鑑定』してステータスボードを出す。
名前:ソウ
レベル:18(0/190)
経験値:507,900
ステータスポイント:0
職業:なし
HP(体力)73
MP(魔力)55
STR(攻撃力)19
DEF(防御力)19
INT(知能)38
DEX(器用さ)19
AGI(素早さ)92
LUK(運)237
迷宮を駆け抜けて最下層まで行くために体力と素早さは必須だったからレベルが上がるごとに貰えるステータスポイントをHPとAGIに優先的に振ってきた。
あとは運を上げなければいけない必要性があった。
「高レベルの魔物はドロップアイテムが何か分からないんだよね」
ステータスボードに表示される変換リストには
・アースドラゴン
経験値:1,006,850
回復MP:2,600
獲得アイテム:???? ???? ???? ???? アースドラゴンの甲殻
このように表示されている。他のファイアドラゴンやウィンドドラゴン、サンダードラゴンなども同様で討伐の証であろう甲殻以外のアイテムは不明のままだった。
ドロップアイテムなので運が関係しているかと考え、運の値も上げてみると低中レベルの魔物の????が見れるようになったのでもっと運の値を上げていけば見れるようになるのかもしれない。
そんなことを考えながら、森を抜けて僕が住むメリダ村に向かって歩いていく。
今日は午後から村の広場で王都から来た鑑定士による鑑定がある。
7歳の子供を鑑定して有益だとみられるスキルを持つ子供は王都に招聘して然るべき教育を受けさせるらしい。
平凡なスキルであったとしても王都で情報を保管・管理しているようで農業スキルや鍛冶スキルをもつ人が時々村に派遣されることもあるようだ。
「僕は鑑定スキル以外は隠蔽するから王都に招聘されることはないかな」
村の入口に向かって歩き出しながらそんなことを独り言ちる。
冒険者になれば冒険者組合で冒険者カードが作られて情報を管理されるようになる。
中世のような文化レベルなのかと思ったがなかなかの情報社会。
僕の目的は王都に行くことではなく、7歳年上の恋人を探すために旅に出ることなので冒険者になるのが最適だった。
「まだ三か月しか付き合ってなかったし、キスしか」
「キス?」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
いきなり横から声が聞こえたので思わず叫んでしまった。
振り返ると耳をふさいだ幼馴染のイザベラがいた。
い、いつからいたんだ?
耳をふさいだ手を離して上半身を倒して僕を下から覗き込むと綺麗な青い髪がひと房、肩から落ちる。
「ふ~ん。ソウってばキスとか興味あるんだ」
金色に輝く瞳を若干潤ませながら揶揄うように僕を見る。
真っ直ぐ僕を見るイザベラの瞳に頬が赤くなるのを意識しながら逃げるように目を逸らした。
広場に向かって歩き出すとイザベラもすぐ後ろをついてくる。
「ね、してみる?」
「してみるってなにを?」
「キス」
躓いて転びそうになるのを何とか踏みとどまり7歳にしては大胆な発言をした幼馴染に振り返る。
僕を見る目は変わらず少し潤んでいて、普段は陶磁器のような白い頬も少し赤かった。
「7歳の子供が背伸びしない方がいいと思う」
僕が気恥ずかしさとともに言うとイザベラが頬を膨らませた。
「私は8歳になったの!私のほうが年上なんだからね!」
半年だけね。
でも前世の年齢を合わせれば僕は23歳なんだよね。
「イザベラは今日も森に行ってたの?」
話が変な方向に行かないように話題を振るとイザベラが目を輝かせて両手を開いて前に出す。
「防御結界!」
イザベラと僕の間に透明な六角形が集まった膜のようなものが出現した。
大きさはつま先から頭より少し上、開いた両掌より少し両側に広くイザベラの全身をカバーしていた。
これがイザベラが持つスキル『防御結界』だ。
「私のスキルで魔物のどんな攻撃も撃退できるんだから。ソウが冒険者になるんならパーティー組んで守ってあげるね」
『防御結界』は物理攻撃も魔法攻撃も弾き返す、極めて有用なスキルだ。
今は強力な攻撃を受けると瓦解してしまう可能性もあるが経験を積み、レベルを上げることで防御力は増すはずだ。
「でもソウに鑑定してもらってスキルは分かってるんだからわざわざ広場に集まらなくてもいいんじゃないかな」
イザベラは半年前に、僕が鑑定してスキルを伝えてしまっていた。
通常スキルは鑑定士に鑑定してもらって認識してから研鑽に入るが、幼馴染の有用なスキルに早く慣れてもらいたい、自分を守る力を研鑽してもらいたくて話してしまったのだ。
とは言え、積極的に魔物を倒せるスキルでもないのでレベルを上げるにはパーティーに加入して騎士などの攻撃役と組むのがいいのだろう。
パーティーを組んで魔物を倒したりすれば、パーティー全員に経験値が入ってくることは分かっていた。
僕はステータスボードを出して操作、ヘルの迷宮で見つけた武器を出現させる。
僕の手に握られた片手用ハンマー『ミョルニル』を見るとイザベラが口角を上げ、右足を半歩後ろに下げて衝撃に備えるようにした。
「ふっ!」
僕はミョルニルを振り上げてイザベラの防御結界に一気に叩きつける。
「くぅう」
防御結界がギギ、ミシミシと音を立てるのと同時にイザベラの口からも苦し気な呻きが漏れた。
「く、くぅ、だ、だめだぁ」
イザベラの諦めの言葉とともに防御結界が甲高い音を立てて砕け散った。
額に汗をかいたイザベラが力が抜けたようにその場に座り込んでしまう。
僕はミョルニルを片手で回しながらイザベラのほうに歩いて行って手を取り立ち上がらせる。
「小さい猪の魔物の突撃くらいなら余裕なのにぃ」
猪の魔物、ワイルドボアだと思うけど小型でも突進を受けたら大人も弾き飛ばす力がある。
そんな危ない魔物と力比べをしているなんてお前は金太郎か?
「あ、えっと、たまたま、そう、偶々出会っちゃって・・・。あ、あはは」
半眼ジト目で僕が見ていることに気づいたイザベラは冷や汗をかきながら必死に弁解した。
「はぁ、イザベラ。あんまり危ないことはしないでね。それと防御結界の使い方だけど真正面から受けないで角度を付ければ力を逸らすこともできるって前にも」
「ソウの攻撃は真正面から受けたいの!もし防御できればソウが敵わないような魔物でも私が守ってあげられるから!」
イザベラはそう言って僕を睨みながら頬を膨らませた。
「もし有用なスキルだと鑑定士が判断すれば王都で勉強や修練して使いこなせるようになるし、お父さんとお母さんも喜ぶと思うよ」
もし王都に招聘されることがあれば、その家には給付金が出て生活の一助になるし王都に行った子が活躍すれば名誉にもなるはずだ。
もしかしたら『神速』、『神撃』のスキルを持つ灯も王都に招聘されていたかもしれないが7歳で招聘されているとすれば既に騎士や冒険者などの職業を得ている可能性が高い。
王都に招聘されても、そこに灯がいるかどうかは分からないし、そもそも3つ貰ったけど僕のスキルで王都に行けるかどうかは分からない。
3つあることで攫われることもあるとヘルが言っていたので言われた通り『隠蔽』で隠すようにしよう。
攫われて移動する自由を奪われるわけにはいかない。
「私は王都なんか行かないよ!ソウと一緒に冒険者になるんだから!」
そう言って胸の前で両拳を握る幼馴染の姿に思わず頬が緩んでしまう。
「王都に行くかどうかは分からないけど村のみんなも鑑定士さんも待っているだろうから早く広間に行こう」
そう言って僕が手を差し出すとイザベラが微笑んで手を掴んで握り返してくる。
手を握ったまま僕とイザベラは広場に向けて駆け出した。
「やだぁ~、やだやだやだっ!王都なんか行かない~!ゾウど、ゾウどいっじょにぼうげんじゃになるのぉ~」
鑑定結果は僕の鑑定通り。
やはりイザベラの『防御結界』は王都招聘対象になった。
他にも時々話す女の子、ミアが『錬金術』と言う王都招聘対象スキルと判明して両親と一緒に喜んでいるのと対照的にイザベラはポロポロ涙をこぼして両親と鑑定士を困らせていた。
僕は『隠蔽』で鑑定以外のスキルを隠したので招聘対象外となった。
僕の両親は僕の頭を撫でて招聘されなかったことを慰めているようだが僕にとっては好都合。
これで行動の自由は確保できる。
あとはいつ村を出て、灯を探しに行くかだ。
冒険者組合で冒険者登録できるのは12歳だが、僕が12歳なら灯は19歳。
めちゃくちゃ適齢期のお年頃なので出遅れるのはマズイ。
できることなら今からでも村を出て14歳の灯に接触したい。
「い゛や゛ぁ、い゛や゛ぁっ!ゾウどい゛っじょにい゛る゛のぉ」
相変わらずイザベラは泣き続けている。
僕は両親から離れてイザベラの傍まで行ってハンカチで涙を拭いてあげた。
「うっく、ひぅ、はぁ」
涙を拭いてあげるとイザベラが少し泣き止んだ。
「僕の鑑定は珍しいものじゃないかもしれないけど冒険者とか商人、組合とかでも需要があると思うんだ」
僕がイザベラに語り掛けるのをイザベラの両親と鑑定士さん、僕を追ってきた僕の両親が聞いている。
「いつか僕も王都に行くこともある、いや、必ず行くからイザベラも王都で頑張ってもらいたいな」
灯を探す旅をするとすれば王都にも必ず行くことになるだろう。
イザベラもスキルを伸ばすには王都に行った方がいいはずだし、そのための招聘だと思う。
「はぅ、ひぅ、じゃあ今、今一緒に、一緒に行こうよぉ」
よっぽど王都に行くのに不安があるのだろうか?
いじめられることはないと思うんだけど、仮にも招聘だし。
「いや、さすがにそれは無理だと思うよ」
僕はそう言ってイザベラを説得しようとする。
「あ、もしかしたら一緒に行けるかもしれません」
はい?




