第一話:転生
目を開けると知らない天井・・・ではなく何もなかった。
いや、目に映るのはすべて白。奥行きのある白い空間、何かを掴もうとする僕の手が映るけど白以外はそれだけだった。
「メガサメタカ?」
近くで透き通るような綺麗な高音の音が聞こえた。
音のした方に動く限り早くと焦りながらもうまく動かせない顔をゆっくり向けると小さい影が見える。
メガサメタカ?、めがさめたか?、目が覚めたか?
外からの音という刺激と思考が繋がった。
霞みがかったような思考が晴れるように鮮明になる。
「・・・灯?」
いま隣にいてほしい人の名前を口に出す。
「いいよ、付き合おっか」「想ってさ、ほんと私のこと好きだよね」「私も想のこと」
灯の言葉が頭を駆け回りながら身体を起こして目を擦る。
小さな影を、灯をよく見ようと滲んだ目を再び開けると影に見えていた人物は灯ではなく、ゆったりとした白いワンピースを着た日本人とも思えない金色の瞳と長い金髪を持つ小さな女の子だった。
女の子から目線を移動させて周りを見る。
周りは先ほど見上げたところと同じように全て真っ白の空間だった。
「あまり驚いておらんようじゃな?」
高音だが心地よい響きの女の子の声を聞いて目線を戻し、女の子を指さした。
「・・・迷子?」
「違うわ、たわけ」
そうだよな。こんな何もないところにどうやって迷い込むんだ?
「まぁ、迷子というのは強ち間違いではない。儂ではなくお前が、だがな」
えっと、状況を説明してもらえると・・・ってかお約束通りの転生かな?僕死んだの?
「そうじゃ。話が早くて助かる。ちなみに儂は神の一柱、名はヘルじゃ」
そう言って女の子、神様は自慢するように鼻息荒く、顎を上げた。
「えっと、じゃあ僕は旅行中に乗っていたバスで事故に遭ったんだね?」
僕がそう尋ねると腕を組んだヘルがうん、うんと頷く。
僕、佐々木想は高校の夏休みを利用して山梨の高原に向かうべくバスに乗っていたがそこで事故に遭ったらしい。
「車体は拉げ、ガラスは散乱し、しかも燃料に火が移って爆発が」
「わーっ!もういいっ!」
大声を出して悲惨な事故の想像を強制的にストップする。
胸に手を置いて深呼吸すると脳裏に女の子が思い浮かんだ。
上田灯、三か月前に告白した僕の恋人でバスで隣に座っていた、今一番大事な女の子。
「・・・僕が死んだということは灯も?」
ここにいない灯は生きているのでは、一縷の望みをかけてヘルを見たけど瞳に映るのは悲しみと哀れみだった。
ヘルの瞳を見て察した僕は俯いて深く溜息をつく。
「そ、そう嘆くな。上田灯なら既に転生して仲間と元気にやっとるぞ」
・・・は?
吃驚してヘルを見ると朗らかに笑いながら何故か頬に汗をかいていた。
神様も汗ってかくんだ。
僕が立ち上がってヘルのほうに近づくとヘルは左右を見て後退りし始める。
「灯は既に転生しているの?」
僕の目が座っているからか、逃げられないと、答えるしかないと悟ったからかヘルは立ち止まって頷く。
「じゃあ、な、なんで僕だけまだここに?」
「あ、あはは、おぬしの魂だけ見つからなかったのじゃ!」
ヘル曰く、バスの乗客は全てこの空間に集められたと思っていたが僕だけ欠けていたらしい。
「なんで探さないのっ!」
「そ、そう言われてものぅ」
ヘルは胸の前で右手と左手の人差し指同士を押したり引いたりしながら弁解する。
曰く、異世界に転生するか、どの異世界に行きたいか、元の世界で生きたいなら再度赤子から始めなければいけないことなどの希望調査が煩雑だったこと。
「希望が多すぎるのじゃ!後からクレームを付けられても困るのじゃ!」
曰く、異世界に転生する場合、スキルを貰えるらしいが現実離れしたスキルを希望する者が多く頭を抱えることになったらしい。
「世界のバランスを崩すようなスキルは与えられん!そんな基本的なことまでいちいち説明したんじゃぞっ?」
ヘルは口を尖らせて、人差し指の押し合いを早くしながらチラチラと僕を上目遣いに見てくる。
僕の目が冷ややかなのを見て取り、首を振り目線を僕から外した。
そんな困ったようなヘルを見て、もう一度溜息をついた。
「責めても仕方ないか。灯と同じ世界には行けるの?」
僕がそう言うとヘルの顔がパッと輝いた。
「も、もちろんじゃ!今ならもれなく強力なスキルもつけてやるぞ!」
灯がいる世界、そこで再会して恋人として付き合うのも悪くない、いや、一緒にいたい。
「上田灯が行った異世界は魔物がおって魔法が使える世界じゃ。危険ではあるが畑仕事や鍛冶などして落ち着いて暮らすスローライフという選択もできるぞ」
灯はなんのスキルを貰ったんだろう。
「上田灯は『神速』と『神撃』じゃ」
2つもスキル貰えるんだ。
『神速』は速度系で『神撃』は攻撃系かな?戦士にでもなるんだろうか?と言うかなんでそんな物騒なスキルを貰ったんだろう?
「いや、本来スキルは1つしか渡さないんじゃが」
僕の姿が見えないため灯はさんざん僕を探した後、俯いて涙を流していたらしい。
その姿を見て憐れんだヘルが特別に2つスキルを与えると約束したとか。
神様から言葉をかけられ厚遇された灯は決意も新たに、前に進むことにして異世界に転生したらしい。
そして折角なので元の世界では考えられないような生き方を望んだのだろうか。
切り替え早すぎないか?
「儂にもその時点で罪悪感があったからのぉ」
はいはい。
ヘルが僕の魂を見つけなかったからだよね。
マッチポンプだ。
「も、もちろん、おぬしにもスキルを2つ、いや3つでも与えてやるぞ」
活発な彼女のことだ、それについていけるようにならなくては。
「彼女の支えになれるスキルが欲しい」
そういう僕にヘルは3つスキルを勧めてくる。
『鑑定』、『隠蔽』、そして『変換』。
『鑑定』は読んで字のごとく人や物の詳細を見れるスキルで『隠蔽』は気配を消したり鑑定で出る結果を隠すスキル、そして最後の『変換』は魔物や物を変換するスキルらしい。
「変換は強力なスキルでな。武器や防具もおぬしの元の世界で言うデータのように変換して持ち歩ける。使うときは再変換すれば実物になるぞ」
へぇ、便利。
「さらに、さらにじゃ、魔物を変換すればドロップアイテムや経験値、魔力や体力を得ることも可能じゃ!」
え?『変換』で魔物も倒せるらしい。
「でも『変換』で魔物が何でも倒せるならバランス崩れるんじゃない?」
僕がヘルにそう言うと、ヘルは分かってないというように人差し指を立てて左右に揺らす。
「あとで実践するから分かるじゃろうがな。普通に攻撃すれば経験値もドロップアイテムも、まして倒したことの証になる討伐部位も落ちるが変換の場合は一つしか得られんのじゃ」
ヘルは効率が悪いと言いたいようだが強力な魔物も『変換』で倒せるならすごいスキルだと思う。
もし灯が苦戦する魔物でも対応できる、助けることができると考えれば有用だ。
「よし!分かったのなら転生させるぞ」
ヘルは意気込んでそう僕に告げた。
なんか厄介払いするような急がせる感じもするけど気のせいだろうか?
「転送先は儂がおぬしのために特別に作った迷宮の近くの村じゃ!その迷宮はおぬしにしか見えんし、入れんからうまく使え」
へ?
「とりあえず4年ほど迷宮でスキルの使い方を学んで経験値を稼いでレベルを上げよっ!7歳でスキル鑑定ができるので村で鑑定してもらえ。ただし『鑑定』以外は隠蔽で隠すのじゃ!スキル3つ持ちが分かれば有能だと連れ去られる可能性もある!」
は?
なにそれ、怖い。
いや、それより、ちょっと待て、3歳の子供に迷宮入れって言ってんのか?
「大丈夫じゃ、スキル『変換』も使えるからの」
いや、それにしたって。
「先に転生している上田灯は今7歳じゃ。7年後は14歳、スキル的に冒険者登録するじゃろ。12歳から登録できるから冒険者組合に当たればすぐ見つかるはずじゃ!」
・・・はぁっ?いやいやいやいや、ちょっと待て。
灯は高校の同級生で二人とも16歳だったんだぞ!
いきなり恋人が7歳年上ってどういうこと?
「仕方ないのじゃ!おぬしを見つけるのが遅くなった不運を恨めっ!」
こ、この駄女神~~~~っ!
「で、ではのっ!健闘を祈るのじゃっ!」
焦ったような早口でそう言うと駄女神のヘルが両掌に光を集める。
マジかっ!
本当に迷宮に入れる気かっ?
本当に灯と7歳も違う世界に行かせる気か?
「ちょ、ちょっと・・・」
ヘルを掴もうとするが身体に触れるより前に視界が光に包まれる。
「最愛に辿り着くことを願っていますよ」
ヘルの声が柔らかく、暖かく耳に届いた。
辿り着いても恋人に戻れるのかな?
新たに書き始めました。
遅筆につき更新は不定期ですがお付き合いいただけると幸いです。




