第十四話:違和感
「う~ん?」
日課のヘルの迷宮を出るとまだ陽が高かった。
手を目の上にかざしてもう一度、陽の高さを確認して首を捻る。
「ちゃんと100階まで行ってリッチ倒したよね?」
信じられない思いでステータスボードを表示させると変換したリッチの情報もちゃんと載っていた。
「・・・とりあえずもう一回行っとこうかな」
まだ時間があるようなので本日2回目の迷宮入りを行うために入り口に歩いて行った。
冒険者見習いになったのを機にレベルアップを行った。
現在のレベル398。
周りの冒険者を鑑定すると20~40が多い中でちょっとレベルを上げ過ぎたかと思ったけどドラゴンのドロップアイテムを確認するために運を上げるにはギリギリくらいだったのだ。
ステータスポイントはINT以外はいままで振ってきたLUKとHP、MP、AGIに継続して振ってきたけど、そのおかげだろうか、ヘルの迷宮を周回するのも非常に早くなってしまった。
「走っても走っても体力回復スキルで回復、変換をどれだけ使っても魔力回復スキルで回復」
今日は結局5回周回してしまった。
もう一度ステータスボードを出して確認する。
ステータスはそのままで経験値が増えている。
低層階で出現する魔物はドロップアイテムも使うことはないので全て経験値に変換してきたけど今後どうすればいいか考えなくてはいけない。
夕食を用意してカミラさんとテーブルを挟んで座る。
「ソウ、頼む」
木のジョッキに注いだエールを掲げているのでミョルニルを出した。
「エールだけじゃなくて、ちゃんと食べてくださいね」
「わ、わかっている」
カミラさんにジョッキを渡すと、カミラさんは受け取って口を付けながら目を逸らした。
僕はお皿に取った煮込み肉をフォークに刺して手が止まってしまう。
変換した魔物の上限は今のところはない。
かと言って、結論を先送りにするだけで溜めていくのは煩雑になりそうで嫌だった。
「・・・ウ、ソウ」
「は、はい?」
声をかけられて見るとカミラさんが僕を見ていた。
「何か悩みでもあるのか?」
スキルについてはまだ誰にも伝えていないので、どのように伝えていいのか分からない。
「カミラさん、何か錬金術で必要な素材ってありますか?」
「うん?そうだな。難易度の高いもので言えばガーゴイルの翼、コカトリスの毒嚢、ガルムの牙などだな」
僕は3つ全てを取り出してテーブルに置く。
「・・・・・」
カミラさんがなぜか震えているけど、僕は溜息が出てしまった。
全然減らない。
「ミアにも聞いてみようかな。素材を売るわけにもいかないし」
「売ってもいいんじゃないか?」
ちゃっかりテーブルの上の素材を収納してカミラさんがエールに口を付ける。
「だって売ったら借金少なくなってしまうじゃないですか」
12歳まで借金を残しておかなければならない、なぜなら冒険者見習いでなくなってしまうから。
「売っても貯めておいていいんじゃないか?奴らはお前が指定する額を返済に充てると言っていただろう?」
100万コルトくらい入れて様子を見るのも手だろうか?
「なぜ素材を持っているのかしらんが売るんだったら伝手があるから手伝えるぞ?」
ありがたい申し出にカミラさんにお礼を言う。
「あ、あとな、もしあればでいいんだが私とナタリーにも体力回復スキルの取得書を貰えないか?」
ナタリーさんは旅を頻繁にするので体力低下する場面があるらしいのと、カミラさんは今後何があるか分からないので取得できればしておきたいということだった。
早速カミラさんの分の取得書を出して渡す。
まだたくさんスルト分はあるのでミアにも取得してもらった方がいいだろう。
「こう簡単に出されると希少品という感じがしないな」
そう言ってカミラさんは魔力を通してスキルを取得する。
「ソウ、パーティーを組もう」
学園が休みの日、イザベラとミアが店に来た途端そんなことを言い出した。
イザベラは低層階ではなかなかレベルが伸びない状態で、ミアはレベルが低いということもあり魔力の総量が少ないためレベルを上げる必要性があるようだ。
それには迷宮で魔物を倒して経験値を得るのが一番の早道らしい。
「できれば私も参加したいな」
ナタリーさんがそんなことを言い出したので驚くけど、鑑定するために旅をしていることが多くレベルをまったく上げていないということだった。
ふと思いついてカミラさんを見ると出かける用意をしている。
「まずは冒険者組合に行かなければな」
そう言って店のドアの札をCLOSEにしてしまった。
「冒険者登録をしていなくてもパーティーを組むことは可能ですよ」
冒険者組合に行き、リリーさんにパーティー編成のことを聞くと登録がないミアやカミラさん、ナタリーさんも可能との返事だった。
パーティー編成の方法は簡単。
パーティリーダーの冒険者証に指を置くだけでいいらしい。
「ソウがリーダーでいいよね」
イザベラがそう言うとみんなが頷くけど、本当にそれでいいのだろうか?
僕の冒険者証にみんなが指を置くと冒険者証にみんなの名前が表示された。
「えーと。簡単な採取依頼でしたらパーティーメンバーだけで大丈夫ですけど、討伐や迷宮に入るようでしたら見習いだけなので引率する冒険者が必要・・・?規約上はそうだけど、ソウ君に?」
リリーさんが悩み始める。
規約だと思うので誰か冒険者を依頼することになるだろう。
「もしよければ俺が一緒に行こうか?」
その声に顔を上げるとアイザックさんがにこやかに笑っていた。
「アイザックさん!お久しぶりです」
僕が挨拶するとアイザックさんは頷いてリリーさんと話し出す。
「では引率者はアイザックさんということで。引率の賃金に関しては冒険者組合が支給するので心配しないでください。みなさんのことなので大丈夫かと思いますが無茶はせず、魔物を倒した際もドロップアイテムの配分などよく話し合ってくださいね」
注意事項を聞きながらアイザックさんと握手する。
細かいことはアイザックさんと相談すればいいだろう。
「じゃあ、みんな・・・」
周りを見るとみんな掲示板の前にいた。
依頼内容を見て話しこんでいるけど何か問題があるのだろうか?
「ソウ、ワイルドボアのお肉食べたい」
ミアがそう言って、他のみんなもうんうん頷いている。
「あー、言っとくとワイルドボアの討伐はDランクにならないと受けられないよ?」
依頼には当たり前だけど推奨レベルがある。
自分のレベルの合わない魔物の討伐を引き受けて命を落としたりしないようにという配慮からだったけどワイルドボアってそんな危険な魔物かな。
「薬草採取の依頼を受けよう。それと迷宮内の魔物討伐も何件か」
僕がそう言うとみんなからブーイングが起きる。
「アイザックさん、もし偶然、本当に偶然ですけどワイルドボアに遭遇して倒したら依頼を受けていなくても依頼達成になりますか?」
その問いかけを聞いたパーティーメンバーはハイタッチをして、アイザックさんは苦笑いする。
「討伐の証であるワイルドボアの牙があれば頭数分の達成となるよ」
では薬草採取という討伐に勤しむとしよう。
「イザベラ、あそこの森の中にワイルドボアが5頭いる」
僕がそう言って指をさす方をみんなが見る。
今のパーティーは引率者のアイザックさん、イザベラ、僕を除いて攻撃手段を持たない。
最善はイザベラと僕で倒しきることだと思うので思い切った提案をする。
「あそこには薬草もある。イザベラ、どちらが先に着けるか競争しよう」
僕の意図に気づいたのかイザベラが笑いながら頷くとアイザックさんの頬がひくひく動いていた。
「「よーい、ドン!」」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇっ!」
僕とイザベラがアイザックさんの声を背中に森に向かって駆けだした。
僕が少し加速すると、だんだんイザベラが後ろに離れていく。
あれ?
村にいたころは僕とイザベラは駆けっこで同じくらいの速さだった。
イザベラは迷宮に潜っているからレベルも相応にあるはずだし、体力回復スキルも持っているのでスタミナ切れということもない。
「素早さのレベル差が出ているのかな?」
森の入口で考えていると遅れてイザベラが到着した。
「へぅ、ふぅ、ソウ早すぎっ!おいてかないでよぉ」
息が切れているイザベラに謝りながら現状を確認すること、早急にレベルを上げる必要性を感じた。
「ぜぇ、ぜぇ、くふ、ま、待てって言ったろ?」
アイザックさんが息を切らせながら森に到着するのを見て申し訳なくなってしまった。
ミアとカミラさん、ナタリーさんはまだ後方、ゆっくりと草原を歩いてくるのが見える。
「と、とりあえず先走ったことをしなくてよかったぞ。依頼は薬草採取だったろ?森の入口で採取しよう」
アイザックさんはそう言って当たりを見渡すけど薬草はすでに採取してあった。
ついでにワイルドボアも討伐して討伐の証である牙と魔石、お肉も確保済みだ。
「薬草は採取してありますので大丈夫です。次は迷宮に行きましょう」
僕がそう言うとアイザックさんが呆然とした顔をする。
「せっかく来たのにもう終わりか?」
ようやく到着したカミラさんが不満そうに眉を寄せるけど来るのが遅いのが悪いと思う。
「ソウ君、来る途中で身体がポカポカしたんだけど、もしかして?」
ナタリーさんが聞いてくるので頷く。
おそらくワイルドボアを討伐したことでレベルアップしたのだと思う。




