第十三話:会談
先はスカイラー目線、後はウィリアム目線です。
「そうか、扉の修復の件は話がついたのか」
テーブルの向かいに座る王都の財務官はそう言って書類に何事かを書き留めた。
今回は破壊された迷宮の扉の修復に関する話をするために王城にベンジャミンを連れて登城した。
案内されて部屋に入ると見知った財務官とお抱えの錬金術師、なぜか第一王子であるウィリアム・R・アスラシオンと近衛騎士団団長のアッシャー・ヘストンも同席している。
懸案事項であり、緊急の案件でもあった扉の修復の話を全員の前で話し、予算の決済文書を作成、署名すると財務官と錬金術師が王子に一礼して退出する。
私たちも退出しようとすると王子に手で止められた。
「少し話をしないか?スカイラー」
そう言って王子が部屋の隅に立つ執事に視線を向けると、執事が財務官と錬金術師が出て行った扉を開けてティーセットを持ったメイドたちを室内に招き入れた。
テーブルの上に並べられるカップに上質な香りを上品に漂わせる紅茶を注ぎ終えるとメイドたちは退出し、執事が扉を閉めて、そのまま扉の前に立つ。
王子がカップを持ち、紅茶を一口飲むのを見る。
「これは公式な席じゃない。そう硬くならずにお茶でも飲んで話しやすく喉を潤してくれ」
そう言い、私たちを見たまま王子は視線を外さなかった。
私とベンジャミンもカップを持って紅茶を一口飲むと王子は満足そうに微笑む。
第一王子、ウィリアム・R・アスラシオン、若干18歳だがその才覚、文にしろ武にしろ礼にしろ、は諸国に漏れなく伝わっている。
王の覚えもめでたく、第二王子であるジェイコブ、第一王女であるエブリン、第二王女であるヴィクトリアより王位を継ぐ位置、王太子になる可能性が最も高い。
故に、対応には最も警戒しなければならない相手だった。
「さて、話というのは扉を破壊した者とそれに纏わるもののことだ」
やはりか。
「君も知っている通り、迷宮を閉ざす扉は強力な魔物、例えばS級を想定して作られている」
特に王都に近い迷宮であったため、万全の準備を持って建造されたもの、そう聞いている。
「その扉が経年劣化などあったとしても、聞けば7歳の子供、しかも招聘すらしていない鑑定スキル持ちの子供に破壊されたというじゃないか?」
王子の目線は私たちを離さず、私は一つ頷いた。
「S級錬金術師カミラの元で働くソウという少年がベンジャミンの目の前で扉を破壊したのは事実です」
私の言葉に王子は満足そうに頷く。
「王都調査室所属のナタリー・マクマナスの鑑定結果の記録にも疑うところはない。そのソウという少年はどうやって扉を破壊したのか興味深いと思ってね」
そう言って王子は再び紅茶を飲んだ。
騎士団長のアッシャーは不動で紅茶に口を付けようともしない。
私は隣のベンジャミンを見て報告を促す。
「恐れながら、少年の持っていた片手ハンマーに理由があると浅慮いたします」
ベンジャミンがそう話すのを王子は頷き、先を促した。
「少年の持っていたハンマーには明らかに魔法、火属性と思われるものが付与されており、それにより爆発的な火力を生み出したものと推察いたします」
「それは強固な扉を破壊しただけに留まらず、迷宮の床すら破壊した。15階層まで、で間違いはないかな?」
ベンジャミンが頷き、そして付け加えた。
「キマイラとヘルハウンドに相対した際は放電を行っていたので雷の効果を付与していたものと推察いたします」
そう言うと王子が微笑を強くした。
「神賜武器か」
唐突にアッシャーの低い声が部屋に響いた。
私も可能性は考えた。
神賜武器、人間や鍛冶に秀でるドワーフ、亜人の作る武具とは比較できないような絶大な効果を発揮するまさに神に賜りし武具。
どこで、どうやって手に入るのか?
その絶大な効果は伝承に記載があるが出所となるとなんの情報もなかった。
「そのような強力で危険とさえ言えるものは王家が接収し、厳重に保管すべきと思うんだけどどう思うかな?」
再び王子がにこやかに微笑むが、その心は読めない。
「恐れながら、それは難しいかと」
ベンジャミンがそう言うと王子が吃驚したような顔をする。
まさか同意を得られないと思っていなかったのだろうし、私も話を聞くまでは接収することは当然と考えていた。
「迷宮内で少年にハンマーを見せてもらうよう願い、渡されましたがその重量に耐え切れず地面に落としました」
王子は訝し気な顔をする。
「地面に落ちたハンマーを持ち上げようとしても、効果を纏わせるべく魔力を流そうとしても何の反応もありませんでした」
そうだ、そうして私たちは結論付けた。
「あのハンマー、少年がミョルニルと呼ぶ武器は少年にしか扱うことができないと推察します」
*****
「残念だなぁ」
スカイラーとベンジャミンが退出したあと思わず独り言ちてしまった。
腕を頭の後ろで組んで背中を背もたれに思いっきり倒す。
「王子」
「分かってるよ。行儀が悪いと言いたいんだろう?2人きりなんだ。アッシャーが言わなければいいだけだろう?」
僕がそう言うとアッシャーはふっと息をつき笑うと顔を引き締めた。
「少年を呼び出さなくてよかったのですか?」
僕は背もたれから背を起こす。
「呼び出して渡してもらっても使えなければ意味がない。スカイラーは嘘を言っていないと思うからね」
アッシャーは僕の顔を見て動かない。
「あと、どこで得たのか聞いてもいいけど確かめようがないと思うよ」
「と言いますと?」
なんで伝承には神賜武器に関して記述はあるのに取得場所に関しての記述はなかったのか?
「取得場所を記述しなかったのは聞かなかったか確認が取れなかったかのどちらかだと思う」
聞かなかったというのはあり得ない。ときの王族であれば強力な武器を得ることは国を左右する事項だからだ。
「だとすれば確認が取れない場所で得た、例えば通常は行けない、その者しか入れない場所などかな」
その場所には神賜武具をはじめとして様々な有用なもの、魔法取得書や道具などが得られる可能性があるが、なかったと言われてしまえば確認のしようがない。
「神賜武器とアカリの『神撃』の組み合わせは試してみたかったんだけどな」
公にはしていないが15歳にして近衛騎士団副団長であり、『神速』と『神撃』をもつアカリが神賜武器を持てば凄まじい効果を発揮するだろうことは想像に難くない。
「その組み合わせは他国にとっても王国にとっても脅威であると思いますが」
味方であるうちは問題ないが、敵となると問題ありということだろう。
「ゆくゆくは僕の妃となるんだから」
そう言って隣の部屋で待機しているであろう彼女のことを考えて微笑む。
「少年は冒険者見習いとして冒険者組合管轄でよろしいですか?」
アッシャーが後顧の憂いをもって聞いてくるが、僕は首を横に振る。
「構わないさ。鑑定スキルでは招聘に値しないからね。それに神賜武器を持っていたとしてもアカリを押さえておけばどうとでもなる」
神賜武器だとしても当たらなければ問題ない、よって『神速』を持つアカリの優位性は変わりない。
「とりあえず今は様子を見ようか」
僕がそう言うとアッシャーも頷いた。




