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第十話:生還

ソウ視点に戻ります。

「ソウッ!ミアッ!」


足がふらつくのか男の子と女の子に支えられているイザベラを見る。


意識ははっきりしているし、声の張りも問題ない、怪我をした様子もないことから、疲労による体力低下によるものかと考える。


「お前ら、常識はずれも大概にしろよ?」


最後に15階層に降りてきたおじさん冒険者が呆れたような声を上げる。


「ふ、副組合(ギルド)長?」


足を骨折した冒険者さんが声を上げた。


結構偉い人なのかな?


とりあえず折角ついてきてくれたし、冒険者さんとも顔見知りのようなのでおじさん冒険者、副組合長さんにポーション入りの袋を手渡す。


「これで治療をお願いします。体力回復用と魔力回復用もあるので使ってください」


僕はそう言ってキマイラとヘルハウンドに視線を戻した。


ミアは鞄から爆弾を出して威嚇するように魔物たちを睨みつけている。


「牽制してくれ。みんなの治療が済んだら撤退を開始する」


副組合長さんが魔物を警戒しながら必要なポーションを配っていく。


イザベラにも体力回復用と魔力回復用が渡された。


体力だけでなく、魔力が尽きかけていたのかもしれない。


「ソウ、やる?」


ミアが僕を見ながら聞いてくるので頷いてミョルニルに魔力を流す。


ミョルニルは炎の効果(エフェクト)から雷の効果を纏い直し、打撃部分から放電するのが視認できる。


「ふぅぅぅぅぅ!」


ミョルニルを振りかぶって水平に投擲するとヘルハウンドに向かって飛んでいった。


「ギャウンッ」


「ギュア」


「ギャ」


一番手前にいたヘルハウンドは投擲されたミョルニルをいち早く認識して回避するけど他のヘルハウンドは対処が遅れて強かに打ちつけられて吹き飛んでいった。


ミアが吹き飛んでいったヘルハウンドのほうにダメ押しとばかりに爆弾を投げると大きな爆音がした。


回避し、一撃を避けたヘルハウンドが丸腰の僕を見て襲い掛かってくる。


「危ないっ」


剣を持つ男の子が僕を庇うべく走り寄ってくるが問題ない。


「ミョルニル!」


僕が呼ぶと投擲され、3体のヘルハウンドを打ち据えたミョルニルが素早く構えた右手に戻ってくる。


僕はそのまま振り抜いて襲い掛かってきたヘルハウンドの顎を殴りつけた。


「ギャウン」


顎を拉げさせて体中に放電を浴びたヘルハウンドは痙攣したあと動かなくなり、しまいには塵のように崩れていく。


「え?戻って?いや、それよりも魔物を一撃って?」


剣を持つ男の子が呆然としている。


ん?うーん?


「ね、君ってイザベラとパーティー組んでる?」


僕が男の子に尋ねると男の子は何度も頷いた。


「ガァァァァァッ」


襲ってくる最後のヘルハウンドを放電を当てる。


「ギャウンッ」


放電が当たって痺れたのかヘルハウンドが動かなくなった。


「経験値あげるからドロップアイテムもらっていい?」


僕が男の子に尋ねると男の子が目を大きく見開く。


パーティーを組んでいるならイザベラにも経験値が入る。


カミラさんにドロップアイテムを拾ってくるように言われているからできれば持ち帰りたいので同意してくれれば一挙両得になるんじゃないかな。


「戦闘中の判断は早めにしたほうがいいよ」


僕がそう言うと男の子はパーティーであろうイザベラを含めた子供たちに顔を向けて同意を得た。


「お願いします」


ヘルハウンドのとどめを譲るように僕は身体を横に移動させる。


男の子は剣を正面に構えて息を整える。


「斬撃!」


大きく振りかぶってから振り下ろすと剣線に沿って衝撃波が飛んだ。


衝撃波がヘルハウンドに当たって切り裂くとヘルハウンドの身体が塵のように崩れていく。


振りが大きく、隙ができるかもしれない。


スピード型のヘルハウンドのような魔物は避けられるかもしれない。


けど、弱らせたとはいえヘルハウンドを倒せる攻撃力を持っている。


男の子は魔物を倒した自分の右手をじっと見て動かなかった。


キマイラのほうを見ると副組合長さんが両手に短剣、怪我が治った冒険者さんが長剣を持ち戦っている。


イザベラは少し離れた場所で結界をいつでも張れるように構えて、ミアは爆弾を構えて、杖を持った女の子も杖を構えて戦いを見守っていた。


いま撤退をしようとしても追いつかれるという判断からだろうか?


「まずは尾の蛇と山羊の頭を潰そうかな」


ミョルニルを片手でクルクル回しながら僕が言うと男の子が信じられないものを見る目で僕を見る。


「ぐぅあっ」


「ぐぅ」


前足で副組合長さんを弾き飛ばされて、尾の蛇の攻撃を避けるために冒険者さんが距離を取った。


距離があると山羊の火の玉を飛ばしてくる可能性があるから警戒してイザベラが防御結界を張る。


山羊の口のところに小さな火の玉が作られ始めた。


キマイラの意識は僕から離れている。


好機(チャンス)!


僕はミョルニルを握り、後ろに振りかぶる。


山羊の頭に狙いをつけて、腕を振り抜きミョルニルを投擲した。


「ギャガァァァァァ!」


ミョルニルが当たった山羊の頭は拉げ、断末魔をあげて力なく項垂れた。


放電がキマイラの身体中を覆い、獅子の頭が苦しそうに鳴いたあと巨大な身体が音を立てて地面に倒れこむ。


「イザベラッ!」


みんなが呆然としている中、イザベラを見るとイザベラが我に返って頷く。


「アンソニー!指示お願い!」


アンソニーと呼ばれた男の子が何かのスキルを発動する。


「ルーク、尾の蛇を斬撃で攻撃しろ!スカーレット、火属性の魔法で本体に攻撃を!」


「おおっ!」


「任せて!」


剣を持った男の子、ルークが斬撃を飛ばして蛇を攻撃、1回では足りず2回目の攻撃で蛇の頭を切り飛ばした。


杖を持った女の子、スカーレットが火球を作り出して攻撃、キマイラの身体を焼いていく。


「グ、グルルァ!」


山羊の頭を潰しても、尾の蛇を切り落としても、身体を焼いても尚とどめには至らず、キマイラは身体を起こそうとする。


「はぁっ!」


僕はミョルニルを持って獅子の顔の前に移動、動きの鈍い顎に向かって振り抜いた。


再び放電により麻痺したキマイラが声を発することなく身体を地面に倒す。


「とどめだっ!」


僕がそう叫んで離れると斬撃と魔法攻撃がキマイラに飛ぶ。


1回で駄目なら2回、2回で駄目なら3回と連続で打ち込むと、遂にキマイラの身体が崩れ始めた。


いつもは戦うこともなく変換で終わるけど、戦うと意外としぶといことに驚かされる。


「「「はぁぁぁぁぁ」」」


「ソウッ、ミアァッ」


3人の子供たちは力が抜けたように座り込み、イザベラは僕たちのほうに駆けてきて抱きついた。


「あう、あうぅ、来てくれた、来てくれて、ありがとうぅぅぅぅ」


イザベラを落ち着かせるように頭を撫でながら目が合ったミアと笑い合う。


「おい、まだ油断するな。まだ夜の迷宮の中なんだぞ?」


副組合長さんと冒険者さんが僕たちのほうに歩いてきて腕を腰に当てて呆れたように注意する。


「しかし、そのハンマーか?すごい武器だな」


副組合長さんがミョルニルを見ながらそう言った。


「見せてもらってもいいか?」


僕は頷いて副組合長さんにミョルニルを渡す。


「ぐ、うおぉ」


ミョルニルを受け取った副組合長さんは支えきれずにミョルニルを地面に落とした。


地面に落ちたミョルニルを拾上げようとするけど全く動かない。


「あ~、無理じゃないかな」


「うん、無理」


イザベラとミアが訳知り顔で頷きあう。


僕がミョルニルを掴むと軽く持ち上げるのを見て副組合長さんが目を丸くする。


「村の大人も誰も持ち上げられなかったもんね」


「ソウが力持ちな訳じゃないと思うんだけど」


そうなのだ。


何故か僕しか持ち上げられないし、僕以外の人が魔力を流そうとしても何も反応がないのだ。


「とりあえずドロップアイテム拾ってから上に行きませんか?」


僕がそう言うとみんなが安堵したように頷いてくれる。


帰りも魔物がいたらイザベラたちに倒してもらおう。






「帰ってきたぞ!」


迷宮の出口まで来ると篝火が焚かれてたくさんの人たちが集まっているのが見えた。


両手で口を塞ぎ、涙を堪えているようなナタリーさんと腕組みをしつつも優しく笑っているカミラさん。


驚いているリリーさんと男の人たちは冒険者組合の人たちだろうか?


入口近くまで駆け寄ってきている人たちは学園の関係者かもしれない。


「大丈夫か?」


「怪我をしていたのはアイザックだったか?」


「心配したんだから」


囲まれるイザベラたちと離れてカミラさんたちのところまで歩いていく。


「よく戻った」


「大丈夫だと思っていたけど、やっぱり心配だった」


カミラさんとナタリーさんから迎えられる。


「ところで・・・」


「すみません」


カミラさんが話し出すと誰かが遮った。


声のした方を見ると副組合長さんが立っている。


「今夜の件に関して改めて話を聞きたいのですが、都合がよければ明日組合まで来てもらえますか?」


一緒に行動していたので特に説明することはないと思うけど頷いた。


安心したような副組合長さんに入れ替わるようにイザベラたちが来る。


「ソウ、本当にありがとう」


「「「ありがとう」」」


イザベラとルークたちがお礼を言ってくれる。


「俺からも礼を言わせてもらうよ」


アイザックさんと呼ばれた冒険者さんもお礼を言ってくれた。


「私たちは学園に帰る。またお店に行く」


ミアがそう言うとみんなが手を振って去っていく。


いまは帰ってきた安心感と高揚感で気づかないだろうけど、遅れて恐怖心が出てくるかもしれない。


恐怖心を克服して、再び迷宮に挑戦するときは心も成長しているかもしれない。


みんなを見送りながらそう考えていた。


「では私たちも帰るか。帰ってからドロップアイテムの話をするぞ」


そう言って歩き出すカミラさんをナタリーさんは苦笑いしながら見て、僕は肩を落とす。


時間も遅いし、15階層とはいえ迷宮に潜っていたのだからご飯食べて休みたい。

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