山村殺人事件ー5
執事である日笠に重要参考人二人を集めてもらう間に事件現場を視察。
三吉が言うに現場は当時のままにしてあるとのこと。
「行きたくなきゃ来なくて良いんだぞ」
ここに飛ばされたとしても荒城は助手。
見たくないものはあまり見ない方が良いだろう、これが終わってあっちの生活に悪影響があってはいけない。
「横溝くんこそ平気なの?」
「俺はまぁ……おかしいと思うけどこう言うのは慣れてんだ」
「そっか、私も大丈夫だから心配しないで」
「悪いな」
今回の被害者菅原が死んでいたとされる一部屋。
ここは普段使用人の休憩室兼男着替え部屋として使われていたらしい。
他の部屋と比べ狭く窓は一つ、壁に向かうように机が一つその前に座布団、右手には高そうな木のタンス。
対面の壁には従業員の物を入れる木造のロッカーが5つ。
それだけの質素な部屋。
「ここに倒れていた、血が少し床に染みてるな」
事前情報の通り死体はどこにも見当たらない、だがあったであろう所に血が染み込んでいた。
少し鼻を近づけると血の匂い特有の鉄のような匂いがする。
「心臓をひと突きだっけ?」
荒城は部屋に入ると動かずに周りをキョロキョロと見ていた。
現場保存は捜査の鉄則と心得ているのかは知らないがナイス判断。
「そうらしいな、凶器になるものは見当たらないか」
「そう言えば横溝くん、何で刺されたとか聞いた?」
「簪って日笠さんが言ってたよ」
簪とは女性の髪を留めるための道具。
現物を見た事がないが誰も不思議がっていないから余程鋭利なものなのだろう。
「簪ってことは犯人は女の人なのかな?」
「簪なんて誰でも手に入るだろ、まぁ判断材料にはなるがそれを断定材料にするのは少し危険だな」
心臓をひと突きと言っていたがそう簡単にできる技なのか。
小説とかで心臓をひと突きは即死みたいな書かれ方をするが実際は刺された後数分は行動猶予があると聞いた事がある。
そうするとこの場は少し不可解だ。
「血の範囲が少し狭い」
「陣一先生、準備が整いました」
荒城の悲鳴と共に現れたのは黒スーツ執事の日笠だった。
案内されたのは大広間、これもまた高そうな漆塗りの長机。
座布団は側面に3枚、対面に一枚ずつ。
側面に座っているのは和服を着た老婆、甚平を着た白髪のおじさん。
「集まっていただき感謝します、私は今件を三吉様から預かっている探偵の横溝 陣一といいます」
自分で探偵という羞恥心は天井を知らない。
座っていた二人も起立し頭を下げる。
日笠には二人の隣に座ってもらい俺と荒城は対面に座る。
「まずは自己紹介をお願いします。名前と役職、あとは勤続年数を」
「では私から」
最初は頑固親父代表みたいな顔をしているおじさん、
頭にはねじり鉢巻と昭和のおじさんを集めたような人間。
「私はこの奥安家で料理を取り仕切ってる菅根といいます。ここに勤めて40年はすぎると思いやす。今回は三吉坊ちゃんからよろしくと言われていますので何なりとお命じください」
渋い声でさらっと当主のことを坊ちゃんというあたり、相当な古株なのだろう。
料理長の菅根、まさしくこの奥安家を知り尽くしているだろう人物。
「では私かね」
和服を着たグレー髪の老婆が身を正す。
「私は奥安家で代々の教育をしている千谷といいます。普段はお嬢様や坊ちゃんの勉学や礼作法を教えています。あとは使用人の教育ですかね。勤めて半世紀になります」
なるほど家令と呼ばれる使用人のボス的な立ち位置か。
「では最後にもう一度になりますが日笠さん、お願いします」
「はい、私は当主様のそば付き使用人をしています日笠と申します。普段は御当主三吉様の身の回りを手助けし事業にも少し知恵を貸してほしいと言われお手伝いしています」
3人の自己紹介が終わった後にこの事件の流れを軽く説明し一呼吸おいて質問を出す。
「お3人さんは誰が犯人だと思いますか?」
今まで平静としていた3人の目が少し見開く。




