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山村殺人事件ー21

消息を絶ったはずの奥安巴を目の前に日笠の顔はより動揺する。


「どうしてお嬢様が……」


「だから言ったはずです、私達の罪を確かめに来たと……日笠。全て陣一先生から……聞きました」


暗がりにうつむく巴の顔は一心に日笠を見つめ表情は崩れていないが両目からは涙が溢れていた。

本当に巴はどれだけ強いのか、逆の立場なら言葉すら話せずその場に倒れるだろう。

それなのに彼女は必死に自分の運命と向き合おうとしている。


「陣一先生、話の続きをお願いします」


「最初に私は菅原さんの死体がどうやって姿を消したかを考えました、犯人とは別に協力者がいたのかそれとも誰にも見つからずに隠すトリックがあるのかと。だけどその疑問は現場を見て確信しました。

 現場は死に場としては綺麗すぎた、もう少し床に敷いてあったマットや机が乱れていても良かったのに。だが犯人はそういう小細工をしなかった、いやできなかった理由があるんですよ。

 それは恐らく不安材料を少しでも消したかったという配慮でしょう。」


「配慮?」


「えぇ、犯人は自分以外を信用できない。死体を隠す行為に自分以外の行動が絡む時に下手な事をされてご破産になるのを避けるために現場は少しでも歩きやすく障害がない場所にしておきたかった。少しでもマットが寄れていたり机が曲がっている事で移動中につまづいてもしたら最悪だと犯人は考えたのでしょう」


日笠からの応答はない。


「だから私は犯人以外の協力者は菅原本人だろうと思ったんです。そうして犯人は菅原がいない事を確認してその場に何もないと調べ部屋からいる理由を奪った。あなたが部屋を確認したように」


「………」


「次に菅原さんが松田さんの前に現れた時、あれは恐らく我々に向けた忠告ではなく菅原が生きていると巴さんに知らせる為と祟りに寄せるための演出でしょう。私の前に現れなかったのは目の前にいて生存の可能性を高める情報を渡したくなかったから。

 そして菅原さんの生存を確認した巴さんは自ら姿を消した、恐らく菅原さんと同じくロッカーの中にでも隠れたのでしょう。そして屋敷の中を探すふりをして外に出す手引きをした。

 準備が整ったあんたは菅原さんに最後の決め手として木の上にくくると言って菅原さんをロープに縛り、殺害して上にあげた。そうすればなんで菅原さんの血痕が周囲にはなく死体下にしかなかったのかを説明できる。

 さぞ簡単だってでしょう、菅原さんは死ぬと思わずに自身の殺害計画に加担していたのですから」


暗がりの森にこだまするのは巴の静かに泣く声と俺の一人語り。


「最初はこの事件の意図が分かりませんでした。なぜ普通の殺人を装わず祟りと言う捻った偽装をしているのか。装うだけなら祟りなんて周りくどいことはしなくてよいしそもそもそんな手間をかける必要はない」


細工する難易度は断然普通の殺人の方が低い。

なぜなら殺人であれば調べる要素を減らせばよいだけ、死を偽装するにしても誰かが殺したと言う材料を無くしていけば捜査は手詰まりになる。


「だけどそれじゃああなたの「目的」に影響を与えられなかった。普通の死ではなく怪死にしか興味を示さない人物、当主である三吉様に菅原さんが死んだと認識させる必要があった」


三吉は使用人が死んだ所で気にしない。

恐らく普通の殺人だった場合は揉み消して次の日には忘れているのだろう。

正気を疑うが健五郎が言うにそれは事実。


「三吉様に事件を認識させるために怪奇事件を演出した……と思っていたのですが、それはあなたの意思じゃない」


日笠の視線がこちらに向く。

恐らく俺の仮説は外れていないようだ。


「私は最初からあなたを疑っていました日笠さん。警備二人の証言からあなたは東京大学を出るほどの秀才で医学も学んでいたと、ではなんでこんな山奥の屋敷に勤めている「理由」が気になってたんですよ。私はその「理由」が今回の鍵になると思い三吉様に全てを聞きました。あなたの彼女さんのことを」


無言を通していた日笠はようやく口をひらく。


「それで……なんと言っていましたか」


「全ては仕方のない事と言っていました」


「ふざけるな!!!」


突如激昂する日笠。

鬼気迫る表情に一歩下がってしまう。

いつも澄ました顔をしている分怒った表情が怖すぎる。


「何が仕方のない事だ、あの時被験体として手術を受ける体制は整っていたはずだ。それなのにあいつが私欲のために中止しやがったんだ!!」


もう犯人として言い逃れできないと悟ったのか日笠は雄弁に語る。


「私がきみこのために無理言って医学を専攻したことを知っているのにあいつは……手術直前に取りやめたんだ、きみこの手術が終わればここから去ると知って。あいつはやめたんだ」


「だから菅原さんと巴さんを利用して復讐を考えたんですか」


「機会を狙っていてちょうどいいと思ったからな、利用してや……」


「あなたと言う人は、なんてことを……」


「巴さん、近づかないで」


涙と怒りで前に出ようとする巴を静止。

うつむき横に揺れる日笠、こうなったら何をするかわかったもんじゃない。

緊急時の策はある、あとは最後の大詰め。


「日笠さん、狙いは奥安家の壊滅ですか。それだけの才能がありながらなぜです」


「簡単な事を聞かないでくださいよ先生、どれだけ才能があったとしても最愛の人に会えるかは別問題だ。運命に巡り会うのに必要なのは才能じゃなくて時の運。だからそれを奪ったあいつには凄惨な苦痛を与えなくてはいけない」


「まだ諦めてないのか……」


日笠の手には金色に輝く簪。

当然の事ながら口封じに来るか。

ここはひとまず距離をとって合図を……。


「日笠、話を聞いてください」


下がる俺を横切る巴。


「私達がお願いしたのはあなたが言う時の運をあなたに委ねたからです。それを失う痛みがわかるのに……なぜあなたは裏切れるのですか!!」


「最初に奪ったのはそっちだろうが!!お前の父親は俺の知識が必要だと知り金で釣り俺たちから全てを奪った!!まだガキのお前らみたいなごっこ遊びじゃねぇんだよ!何が東京に逃げるから手伝って欲しいだ、甘えるな!」


この一連の事件を首謀したのは恐らく巴だろう。

生前に菅原は巴を諦めると言い町田は激怒した、だがそこで違和感を覚えた。

菅原が巴が好きという構図なら町田はそこまで怒るだろうかと、そこで俺の考えが違うと気付いた。

巴が菅原に好意を抱くことを自然と除外していた、金を持ち容姿端麗な巴が惚れるわけないと。

だがそれは大きな間違いだった。


「私に利用されているとも知らずに馬鹿な奴らだ、何が何も分からないお父様に気付いてもらうためだ……何も分かってないのはお前だろお嬢様!!」


「………」


「それは違う」


勢いで巴の前に出てきてしまった。

なぜ足が勝手に動いたのか、まさか泣き崩れる少女に看過でもされたか。

まぁいい、今は言うべき事を言おう。


「確かに結果としてお前に利用されただけかもしれない、だがこの年で自分の運命に向かう勇気を俺達が軽んじることは許されない」


「勇気と蛮勇は違うだろ先生」


「それを言うならあんたもだろ日笠、いつまでも過去に粘着して。彼女さんを忘れることが出来ないのは分かるが執着するのは違うだろ。彼女さんはお前にこんな事をして欲しかったのか、時間を浪費して年端をいかない二人を騙して殺して……きみこさんに合わせる顔はあるのか?」


「お前に……何がわかる!!!」


目の前から襲いかかる日笠。

光るかんざしは菅原に刺さっていたやつと同じやつ。

謎は分かったがなぜ狂気に簪が使われたかは謎のまま。


「先生逃げて!!!」


日笠との距離はもう少しで手の届く範囲。

だが怖くは無い、なぜならすぐそばで控える強靭な男ふたりが居るから。


「はぁあ!!!」


目の前には隣で見慣れていた紺色のベスト。

その肩に伸びる黒髪は背負い投げと共に宙に舞う。


「荒城さん危ないですよ!!」


大男を投げ飛ばした荒城を追うように警備員の久城と田所が走ってきた。

想定の手筈は襲ってきた日笠を二人で抑え込むというものだったはずなのに……。

荒城あやせは怒らせると怖いらしい。


「確保!!」


その後、日笠は駐在の有馬に手錠をかけられその場に拘束される。

そしてその場を去ろうとした時。


「先生、お嬢様が絡んでいるといつ気付いたのですか。屋敷のものは菅原との関係はもう終わっていると思っているはずなのに」


「町田さんと菅原さんとの喧嘩内容で巴さんが言いよっていると予想がつきました。

確信に変わったのは、巴さんが東京の大学に知人がいると言っていたのでその人を紹介したのがあなたが裏で手引きしてるのかなと思っただけです」


あとは松田の前に菅原が現れた時の巴の反応。

巴は血だらけの松田を見て「何を見た」と第一声を放った、本来であれば状況確認の為に「何があった」と問うのが心理。

何かを見た前提で話していることから菅原が生きて前に現れるも事前に知っていたのだろう。

連れていかれる日笠はどこか喪失感でやつれていた。


「先生はすごいですね、誰もが放棄した事を拾うなんて」


「まぁ拾えと言われたからな。それにこの事件を解決しないとまたあなたが悪さしそうだから仕方なく」


「そうでしたか、あなたとはまた会いたいと思いますよ」


「勘弁してくれ」


その場に三吉は居なかった。



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