山村殺人事件ー20
「私の証言で解決する?」
「はい、この問いに答えていただければ三吉様も納得がいくと思います」
身構える三吉。
そこまで構えなくても答えられる簡単な質問。
だけどこの質問の返答が推測した通りならこの事件は最初から仕組まれた醜悪の権化。
「三吉様、あなたが取り組んでいる事業とは医療関係の物ですか?」
「あぁ、そうだが。それがどうした」
「なんの分野に力を入れているか教えていただけますか?」
「それが関係あるのか?」
「はい」
「……ペースメーカーだ。なんの関係があるんだというのだ」
ペースメーカー、心臓を動かす人工医療器具。
現代でも一般的ではないその手法、日笠はそれを狙っていた。
「日笠さんの親族にペースメーカーを使う予定はありましたか?」
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日が沈んだ夜の森。
視界は不良、少し冷たい風が木々を揺らす。
長子村を囲む山々の中、外に繋がる道は二つ。
一つは車でしか行けない道路、もう一つは橋がかかる道。
「やっぱりここにいると思いましたよ」
暗がりの森の中、梟から支給された小型のライトに照らされるのは一人の男。
その男はメガネを上げゆっくりとこちらを振り向く。
「あなたもお嬢様を探しに来たのですか、陣一先生。それもお一人で」
ライトに照らされる日笠は酷く冷静で体勢を崩さない。
「違いますよ日笠さん、ここに来たのはあなたの知りたがっていた事の真相をお伝えしようと思って来たんです。あなたと答え合わせをしないと帰れなさそうなんで」
「帰る?おかしな事を言うお方だ。分からないと帰っても名誉は傷つきませんよ、だってこれは村の祟りなんですから」
「残念ですが村の祟りなら俺たちはここに来てません」
「というと?」
「俺たちは悪意ある殺人事件に呼ばれてくるんですよ。今回みたいにね」
「探偵みたいなセリフを……では教えてもらいましょうか。菅原の死体がなぜ消えたのか、現れたと思ったら木の上に刺さっていた怪奇を。そして忽然と消えたお嬢様の真実を」
「では……」
話を始めようとすると日笠は一歩こちらに歩み寄る。
「こんな所では難ですから屋敷に戻りましょうか。この季節といえど夜は冷える」
「いや、ここで大丈夫ですよ。話はそこまで長くはならないですから」
「……それなら、良かったです」
「単刀直入に言います。犯人は日笠さん、あなたですよね」
「……」
こんなドラマみたいなシーンを自分がやるとは思わなかったが今は緊張や不安なんかよりも少し冷静な自分がいる。
真相に気づいた時の喪失感もこれからそれを話さなきゃ行けないしんどさも全てが落ち着いた感情の下。
母さんを殺した犯人が捕まった時もこんな感じだったのだろうか。
「私が犯人?……バカな事を言わないでくださいよ。菅原が死んだ時私には完全なアリバイがあった。旦那様も私を見ている……まさか旦那様が嘘をついているというのですか?」
この事件で屋敷にいた人は全員に完璧なアリバイがあった。
だがそんなことは最初から理由になっていない。
「簡単な話ですよあの時菅原さんは死んでいなかった。ただそれだけの話です」
「何をいうかと思ったら、死亡は確認済み。心臓に刺さった簪もみんなが見てた!」
「死亡なんて医師でも無い限り判別できませんよ。それにあの場にいた有馬さんも日笠さんの言葉を信じて簡易的な死亡判断しかしていないと言っていました」
「だったら菅原はどこに隠れたというんだ。あの場は二人の監視下にありその後有馬と一緒に探したが窓も開いた痕跡はなかったぞ」
「だから死に場を更衣室にしたんですよね。あそこにあったロッカーなら容易く入れる。音も鐘の音と一緒に入れば問題はない。あとは調べたふりをして部屋にいないと思わせてほとぼりがさめたら出れば良い」
殺人現場に更衣室を選んだ理由は簡単、手短に隠れる場所があったから。
「本物の血を使って偽装しても周りがお粗末でしたね。心臓を正面から刺されてるのに場が整いすぎてるし血の量も少し足らない。そして何より更衣室という場所は殺しに向かないですよ、不特定多数が頻繁に利用する部屋で殺そうなんて犯罪心理的におかしい」
「それこそ祟りで着替えていた菅原が突然死んだという線は」
「だからもういいでしょそういうの。どこまで命を侮辱する気ですか日笠さん」
俺は今怒りに襲われている。
こういう話には冷静さが必要と理解しているが少し自制が効かない。
それほどにこの事件は胸糞が悪い。
「確かにあなたが「一人の犯行」だとしたら説明がつきません。ですが「協力者がいた」となれば話はそう難しい話ではありません」
「協力者?菅原が協力したとでもいうのか?殺されるのも込みで協力するとは思えないがね」
「いいえ、今言っている協力者は「菅原さんではありません」。もう少しなのでお待ちください」
「な……」
日笠は明らかに動揺をしている。
死体隠しの真相は日笠と菅原の共謀だと思っていた。
だが菅原は死になぜ協力したのかという題目が分からなかった、そもそも祟りを装おう意味が不明。
その中で健五郎は「父様は一人が死んだ所で見向きもしない、それは家の者なら知っている」、この言葉で一つの推論が立った。
今までの違和感を説明できる唯一の人物。
「心労の所すみません」
暗闇の中、踏み締める葉音と共に現れた人物に日笠は口をひらく。
「お嬢様……なぜここに」
「私達の罪を確かめるためです」




