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山村殺人事件ー19

巴がいなくなり5時間ほどが経過した。

部屋で推論を整理していたら家令の千谷が尋ねて「横溝先生、連絡がつきもうじきに着くとのことです」と言い退室。

荒城に理由を聞かれ俺は「じきに分かる」とはぐらかし屋敷を捜索している松田と合流。


「先生、屋敷のどこを見てもお嬢様がおりません……」


肩で息をする松田。

こんな広大な屋敷を探すのはいくら人海戦術を使ったとしても一苦労だろう。


「大丈夫ですよ松田さん、ここに巴さんはいません」


「な……じゃあ一体どこに」


松田は膝から崩れ落ち涙を浮かべる。

ここで真相を話すのはリスクがある、どこで誰が聞いているかもわからない。

全ては場を整えてから話しても遅くはない。

松田には捜索を続けても良いと伝え屋敷の中を歩く。


「いないなら続ける意味はないのではないですか」


「久城さん、犯人はこの捜索を必要な行程としています。それを中断すれば予期しないことが起こり逃げられるかもしれません。今はとりあえず犯人に気付いたことを悟らせないのが先決です。それに次の被害者は予想がついて今すぐに殺される可能性は非常に低いです。止める理由はないですよ」


久城は感嘆の声を漏らし後に続く。

屋敷はとても広く何部屋も連なる豪邸。

正直全ての部屋を覚えるのに何年かかるのか見当もつかない。


「横溝くんは犯人の目星は付いてるの?」


「付いてるし今までの犯行も説明はつくけど……」


「けど?」


「動機が分からない」


犯人としての行動理由はわかるがそこまでに至る動機が未だに分かっていない。

その鍵を握るのは千谷が呼んだ今回の件を知る重要人物。

だがその前に荒城と少し話さないといけない。

巴捜索は14時まで続き腹を満たすために屋敷は食事の支度で少し慌ただしくなる。


「なんか手伝った方が良いのかな?」


部屋で暇そうな荒城に「大人しくしてた方が良い」と告げ食事が来るのを待つ。

そして数十分後に並べられた料理を食べ腹が満たされたところで話を始める。


「巴が普通の女の子だって言っていたが直接話して何か分かったのか?」


「なんというか、私と話す時の巴ちゃんはなんかこう……キラキラしてたんだよ。横溝くんとか日笠さんと話す時はどこか気をつけて背筋を伸ばしてたというか」


「菅原との関係を話したのか?」


「いや、好きな人はどんななのかとか。迎えにくる王子様がいたらどんなかなとかだよ」


王子様ね……他愛の無い話だがそれは普通の女子同士なら。

奥安巴は名家のご令嬢、しかも許嫁を控える淑女。

そんな子が漏らした本音、王子様という自分を迎えてくれる本物を夢見ている。

ドラマチックでなんとも現実離れしている事を思い描いていた。


「荒城、その時巴はどんな顔をしていた?」


「私はその時の巴ちゃんの顔を見て、あぁ強い子なんだと思ったよ。許嫁とかも受け入れてたし何より自分の立場を分かってた、色々言いたい気持ちはあるけど多分巴ちゃんは全てを背負う覚悟があると思うよ」


最初見た時から思っていた違和感、それは時代性でも育った環境のせいでももっと根幹的な違和感。


「秘密裏に呼ぶとは何事かな陣一先生」


空いたふすまに立つのは警備員九条と奥安家現当主「奥安三吉」

千谷には三吉に急用のため無理を言って呼んでもらった。

三吉は黒いコートを久城に渡し無造作に座る。


「よく千谷ばぁを使おうと思ったな先生」


「まぁ三吉様を呼べるのは千谷さんだけかなと」


「どうしてそう思った、日笠でも頼めるだろうに」


恐らくこの屋敷でそれを可能にできるのは千谷だけだと思った。

理由は簡単、三吉は事業のために家を空けることがあると聞く。

だがこんな大屋敷で従業員数も多く管轄はさぞ大変だろう、それに有事の際に責任者または三吉に有無を言わさずに物を言える存在がいると思った。

それを考えると屋敷を回している従業員をまとめている家令の千谷だと予想はつく。

後は千谷急を要するからどうしたら三吉を呼べば良いかを聞けば良いだけ。

それを聞いた三吉は頷く。


「そうか、それでもちろんこの怪奇事件は解決したんだろうね」


「まだです」


「まだ解決していないのに私を呼んだのか?陣一先生」


「だから呼んだんですよ。あなたの証言でこの事件は解決する」


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