case1 山村殺人事件
「迷宮に誘う案内人て……意味が分からないんだが」
突如現れた人語を話す梟、ディアトロフと名乗っていたけどなぜ俺の名前を知っている。
それに迷宮って……分かる要素がない。
「分かるように説明してくれ、俺達をここに呼んだのはあんたでいいんだよな?」
「あぁその通り、単刀直入にいうと。横溝 陣一くん、時代に取り残された「未解決事件」を解決してほしい」
「未解決……は?」
「戸惑うのも無理はない、そこに倒れている荒城あやせを助手としこれから行く未解決事件を解いてくれるだけで良いのだ」
「いや、待て待て。未解決って……というかなんで俺が、というかなぜ俺と荒城がそんなことしなくちゃいけないんだよ」
理解が追いつかない。
この鳥がいう未解決事件を捜査するのは警察の仕事だし今から現場に行くって言っても親が心配するし。
何よりこんな怪しい鳥について行ったら俺たちが行方不明として警察のやっかいになる。
「私たちじゃないと……いけない理由があるってわけ?」
腰を抜かしていた荒城がゆっくりと立ち上がる。
少し間をおいて平静を取り戻したのか、俺はまだ頭の中がこんがらがってるってのに。
「えぇその通りです荒城あやせ、今はその理由を言うことは叶いませんが確実に言えることは事件を解決しないと「あなた達が最も大切とする人が殺されてしまう」と言うことです」
「な……」
俺たちの大切な人が殺される、そんなバカな話があるか。
「そんな嘘、信じられるか」
「もちろん、論より証拠。これを見てくれ」
脳内に流れる見知らぬ記憶。
雨の中俺は立ち尽くし目の前で倒れる一人を見つめていた。
その女性は短髪で大人しめな顔をして頭から血が流れている。
その素知らぬ女性を前に俺はなす術もなくただ呆然と泣き叫ぶことしかできなかった。
誰かはわからないが心の底から寂しい。
「分かったかな」
鳥の言葉で現実に引き戻される。
今のはなんだったんだ、幻覚にしては現実すぎる。
それに知らない人を前にあそこまで感情が揺さぶられるとは。
荒城は一体どんな光景を見たのだろうか。
「荒城はどんな……なんで泣いてんだ」
夕陽に照らされる荒城あやせの目から涙が溢れていた。
荒城はゆっくりと涙を拭い。
「横溝くんこそ、なんで泣いているの」
頬を触ると涙の感触があった。
「安心してくれ、何もこれから来る迷宮全てを解き明かせとは言わない。最低限の手助けはする、それに身の危険が起きないように配慮もする。ただ君の閃きを貸して欲しいんだ横溝 陣一くん」
「鳥のいうことを信じる奴がいると思うか?」
「誠に遺憾だよ、私だってなりたくてなった訳じゃない。そこまで頑固だと先ほど見せた未来を脅しに使うしかなくなるのだが」
揺さぶってきているが主導権はおそらくこちらにある。
迷宮が未解決事件でそれを解決すること「だけ」が目的なら資料を元に推理させればいい。
だがこいつは幻術を見せてもこちらに同意を求めてくる、恐らく今件においてこの鳥が俺達にして欲しい何かは資料を読むことでも謎解きでもない。
だとすれば何か……恐らくそれは迷宮という言い回しがキーポイント。
「迷宮と言っていたけど、それは比喩表現か?」
「まぁ比喩と言われれば比喩だが比喩ではないと言う人もいるだろうね」
と言うことは迷宮、つまり抜け出せないどこかに連れて行かれる。
それは強制力がない、俺たちが同意しないといけない場所。
ここで拉致などの刑事罰がどうとかは無いだろう、さっきみたいな超常的移動手段となると鍵になるのは……。
「私やる!さっきみたいな未来があるなら変えたい!!」
一足遅かった……。
「契約成立」
梟の呼び声と共に開く禍々しい門。
門の装飾は無数の歯車、扉の頂点には回る大時計。
その頂に羽を広げ鎮座する梟。
「場所は日本、時代は1968年、変死を遂げた男を皮切りに次々と不可解な殺人が起こる山村の集落。その迷宮から真実を見つけ出してくれ、期待しているぞ【稀代の探偵】」
突風と共に開く大扉。
やはり迷宮に誘う鍵は俺たちの「承認」だったか、だが言葉一つでこんなのを登場させるなんて非科学的すぎて面白い。
いっその事見せ物として金を稼いだ方が利益があるんじゃ無いかと思うくらい。
足を踏み締めないと吹き飛ばされそうな突風。
「荒城!!」
隣にいた荒城の姿は半透明になり程なくして消える。
それと同時に風が消失。
扉の前には俺一人。
「なるほど承諾した人しか入れない扉なのか」
「そう言う事だ、横溝 陣一くん」
「気になってたんだがさっきから俺の事しか見てないけど、まさか荒城はこのために連れてきたなんて言わないよな」
「さぁ、ただ私は思慮深いとよく言われる」
「……陰湿の間違いだろ」
「モノの捉え方は主観だよ」
「そうかよ……分かった、解いてやるよお前の言う迷宮を」
「契約成立」
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「ここは……どこだ」
気がつくと薄暗い部屋、布団の上に寝ていた。
「……はぁ、良かったと思うべきか」
隣にはそれはそれは心地よく寝ている荒城がいた。
目が慣れ見渡すと和室の一室、蚊帳の外には縁側がありそれを超えると大石と池がある庭園が広がっていた。
「夜分失礼致します。」
夜中に見知らぬ声を受け背中がギョッとしてしまう。
目の前には和服が似合う20代後半くらいの女性、髪は後ろでまとめており日本美人の象徴みたいに顔立ちが整っている。
もちろん見覚えはない。
「今回の事件について陣一先生の意見を聞きたく勝手ながら来てしまいました」
「……陣一……先生??」
おかしいな、偶然にも俺の名前は陣一と言う。
そしてこの部屋には二人しかいない……荒城の名前って陣一だっけか?
こうして迷宮という名の未解決事件探訪が始まる




