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山村殺人事件ー12

「はちゃめちゃに怖かったね」


夕焼けの帰り道。

自分を抱きしめながら歩く荒城。

確かにあの駐在は異質だった、警察本部にいわないのは洗脳かそれとも恐怖か。


「まぁ収穫はあった」


「収穫?」


「あぁ、死体が消えた時日笠が率先して現場を調べ皆に待機命令をしていた。これが知れただけでも収穫だ」


荒城の手が俺の肩を掴んで離さない。

顔を横に向けると荒城の顔は怒っていた。


「端折らないで、もっと分かりやすく言ってよ」


「殺人現場で一番必要なのは証拠を探す事じゃなくて現場保存だろ、荒城だって見た時そうしてただろ」


「あぁ、確かに」


「死体に触れたり現場を見るのは警察の役目、警察だってそう易々と現場の窓を開けたり無意味に触る事はしないだろ、実際は知らないが」


だが日笠は窓を開けてドアを調べた、それはなにを意味するのか。

恐らく有馬が周囲を調べることを嫌ったのだろう。


「でも部屋から出た後有馬と三吉と一緒にいて一人になる時間がなかったと言っていたのが気になるんだよな」


「犯人は現場に戻ってくる的な?」


「そう言うことだ。現場に死体を隠したなら回収しにくるはず、そのために率先して部屋から居る理由を消したと仮定するなら必ず一人の時間を作ろうとするものなのに……」


日笠の共犯がいるなら問題はないが誰が死体を回収する。

日笠と共謀して菅原を殺し死体が無くなったトリックを作った人物とは。

屋敷に戻ると家令であるおばちゃんの千谷がお出迎え。


「お待ちしておりました。夕食の前にお風呂へお願いいたします、その間に夕食をご用意させていただきますので」


「千谷さん、一つお願いしたいことがありまして」


夜も遅くなり捜査は一時休憩。

ここに飛ばされてからはや数十時間、思考を巡らせていた割には疲労はあまりない。

精神的にはすごく疲弊しているのに体の疲労は全くと言って良いほどに感じないし駐在のところに行った帰りも結構歩いたのに足も痛くない。

これもあの梟の恩恵なのか。


「じゃあ横溝くん、何かあったら大きな声で呼んでね。私の柔術でコテンパンにしてあげるから」


ガッツポーツを決める荒城と別れ男湯に。

そういえば荒城あやせという女の子は全国柔術大会で優勝していた。

そんな強靭女子と別れ男湯ののれんをくぐる。


「当たり前に温泉があるのか。名家は規格が違うな」


「そりゃあ江戸から続く名家だからな」


更衣室の隣に裸の男。

顔は少し無骨だがモテそうな線が通った顔立ち。

髪は中わけで清潔感がある、体は筋肉質で日頃から鍛えているのが伺える。


「先生、一つ質問をしても良いかな」


「え?あぁ、まぁ」


「ある人が言った「優生思想ゆうせいしそう」は根本が崩壊していると。なぜだと思う?」


急になんなんだこの人。

一応ここは答えるしかないか、無言では探偵としての品格を疑われる。

まぁ探偵じゃないけど。


「この世界に優生な人間がいないから、ですかね」


「流石は先生。そう、優生思想とは優れたDNA同士をつがいにさせてその優生を残そうと言う考えだ。だがこの思想には大きな欠点がある、それは優れたDNAを選ぶ人間が優秀ではないと言うことだ」


「それは辛辣で」


「まぁ聞きたまえよ」


なぜか背後からついてくる男。

浴場はかなり広く旅館の設備と言われても納得がいくほど。


「優生思想とは外国の独裁者が提唱したと言われる考えでな、今の日本も保護法という名目で人体機能が欠損している人達の居場所を奪っている。度し難い」


そうか、日本で行われた優生保護法は確か1950年くらいから2000年以前まで行われていた。

恐らくこの人が言っているのは現状の日本で起きていることへのアンチテーゼ。

まぁ言っていることは先進的で良いのだが、今はそんな問題を見る暇はない。


「それで先生、今回殺された者は優生の元に殺されたと思うか?妹がすごく気にしていて俺も気になっている」


「妹さんですか?」


「おや?もう先生には話を聞いてもらったとともえが言っていたのだが」


「あぁ、確かに」


あんただったのか、奥安家の次期当主筆頭「奥安 健五郎けんごろう」は。




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