山村殺人事件ー10
菅原の死体があった部屋を監視していた二人、田所と久城。
両方角刈りで体格もゴツい、顔つきは柔と剛と対照的な二人。
「二人はこの屋敷で警備員をやっていまして柔道は黒帯、恐らく刃物を持った犯人でも難なく対処できるかと思います、では先生に自己紹介を」
最初に立ったのは顔が柔らかい巨漢。
「初めましてここで警備員をしています「田所 まさし」と言います。日笠さんの紹介の通り柔道は自信ありますけど刃物相手に立ち向かえるかは正直あまりですね……」
後頭部をかきながら微笑む田所。
少し猫背気味だが見える筋肉が迫力がある。
確かに刃物相手でもねじ伏せることが出来そう。
「俺は「久城 はやて」。今回の事はすごく残念に思っています。俺たちが監視していながら責務を果たせなかった。協力は惜しまないからなんでも言ってください」
頭を下げるのは強面の巨漢。
礼儀は正しいのだが端々に見える体育会系の先輩臭。
やはり死体移動の最有力情報提供者は一番近くにいたこの二人だろう。
「まず初めに監視をし始めてから駐在の有馬さんが来た時間はどの程度ですか?」
「恐らくですが小一時間ほどかと、ですよね久城さん?」
「あぁ、時計がなかったから正確な時間はわからないが途中トイレに行った時もう40分くらい過ぎたかと思ったからな」
監視時間は1時間、その間なら移動させる時間は十分にあるか。
それに途中一人はトイレに行っていたと、その穴を抜けて死体を動かせるものか……。
「部屋から不可解な音とかは聞こえましたか?」
「いや特に……あ。そういえば24時の鐘の音が聞こえましたね」
「鐘の音?」
「はい、この家では日付が変わる24時に屋敷中に鐘の音が流れるんです。我々はその音を聞いて明日の支度をするのです」
「その鐘の音はどのくらいの大きさですか」
久城が苦い顔を浮かべる。
「ここに来て最初の頃はわかっていても驚くほどですよ。あんまこんなこと言うとあれですけど住宅街では騒音騒ぎになると思いますよ」
騒音と言うくらいに大きい、恐らく誇張でもふすまの奥の音を消すくらいに大きいことは間違い無いだろう。
更衣室での殺人、夜中の犯行、監視二人の死角。
「お二人に監視するように指示を出したのは駐在の有馬さんですか?」
問いに二人は首を振り横をむく。
「日笠さんですよ、犯人がもう一度戻ってくるかもしれないから用心しろと」
日笠は「この二人しか頼めなかった」と言いポケットからある紙を取り出した。
内容は当時有馬が聞いたそれぞれのアリバイ。
軽く目を通すがもちろん全員にアリバイがある、不可解な点は見当たらない。
「田所さん、久城さん、死体が無くなった時の結論はどうなったんですか?」
「結論ですか?」
首を傾げる両名。
やはり俺は質問が下手くそなのかもしれない。
「死体がなくなってその場を解散させた人を教えて欲しいんです。正直死体が無くなったらみなさん不安だったろうに今まで会った人達はそこまで怯えている様子がなかったので誰かしらの説明があったのかと」
この屋敷に飛ばされてからあった違和感。
それは屋敷の人たちが思ったよりも怯えていないと言うこと。
殺人があっただけでも怖いのに死体が消えるなんて怪事件、普通だったら平常心ではいられない。
田所と久城は再び顔を横に向け。
「そりゃ日笠さんがいますから。武術、医術、算術と全てを兼ね備えた超人ですからね」
日笠を褒めちぎる両人。
それに応えるように照れる日笠。
久城の褒め言葉はとまらない。
「なんと言っても日笠さんはあの東京大学法学部の出でそこで医学も専攻していたんですよ。ご当主様の事業にも一役買ってるもんで屋敷の者はみんな日笠さんを頼りにしてると思いますよ」
みんなが頼る存在か。
「すごいですね、僕なら怪事件が起きてみなさんを安心させるような言葉が思い浮かびませんよ。ちなみに日笠さんはどうやってみなさんを落ち着かせたんですか?」
日笠は笑う。
「簡単ですよ。あの名探偵 横溝 陣一さんが解決してくださると言っただけです。正直私なんかよりも貴方様の方が皆の安心財としての効果は高い」
田所、久城の顔を見ても嘘を言っているとは思えない。
正直この時代の立ち位置がわからないが名探偵と呼ばれるだけの功績はしていた様子。
「わかりました、お時間をいただきありがとうございます。また何かありましたらお願いします」
二人とは別れ部屋を出る。
「陣一先生、私も所用があるのでここまでとさせて頂きます」
「ありがとうございます、日笠さんもまた何かある時はお願いします」
日笠は頭を下げて廊下の奥へ消えていく。
恐らくだがこの事件の犯人は日笠の可能性が極めて高い。




