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山村殺人事件ー9

「それで陣一先生、話とはなんでしょうか」


「今回殺害された使用人の菅原さんとの関係について少し」


先程の話から菅原は巴の幼馴染で幼少期から仲が良かったと聞く。

今はそこまで接点はないと言っていたが同じ屋敷にいる時点であまり良い顔をされないかもしれない。

そして巴の許嫁としての立ち位置を確認しておきたい。


「菅原さんとは幼少期仲良くしていた事は事実ですか?」


「はい、学舎が同じだったのでそこで少し。それに菅原は父親も知っていたので学校ではよく話してくれました」


巴の顔は変わらない。

子供の頃によく話していた関係、それをどこに結びつけたら良いか。


「今回の事件はさぞお辛いでしょう、何か身辺で変化はありましたか?」


「特には」


やはり顔色が変わらない。

菅原に特別な感情があれば死んだという情報だけで狼狽うろたえそうなもの。

ここまで変化がないとどう見ても怪しく見える。


「菅原さんが死んだと聞いてどう思いましたか?」


「どう思うとは?」


「言葉の通りです、同じ屋敷で殺人が起きた事に対して何を思ったか。それも死体が消えるなんて」


「恐ろしいとしか、それも物怪の類が絡むなんて」


物怪もののけか、いつの時代も理解できない事を神とか霊的なものと結びつける。

伝記、神話なども自然現象の言語化ができない人間が作った話。

いわば思考停止の末に生まれた産物。


「巴さん、これが物怪の類じゃないとしたら驚きますか?」


「それは……とても驚きですね。死んだ者が人知れず消えるこの怪事件。からくりがあるなら知りたいです」


「お待たせいたしました」


背後から聞こえる声に荒城がギョッとする。

その声の主は事件進行に欠かせない執事の日笠。

本来であれば最初からついてきてほしかったが所用で少し遅れて来た。


「ちょうど良い所に、日笠さんはこの事件を物怪が絡んでいると思いますか?」


即否定されると思ったが日笠はメガネを直し少し呼吸を置く。


「ない話では無いとしか、他の国でも超常現象は確認されています。それにここ日本でも神隠しなるものがあるので無い話ではない」


「神隠しは行方不明者の遺族に説明をつけるための理由作りですよ、滝壺に落ちて死体の原型が無くなるほどに潰されたら見つけるのは至難の業。恐らく見つけれないと言うと無力を証明すると思い神のせいにしたのでしょう。罰当たりの言い訳ですね」


「そうですか、さすが陣一先生」


褒められるほどでもない。

それこそ人攫いの理由付けにでも使っていたのだろう、神の仕業といえば昔の人間は口を閉じる。

良い方便。


「では陣一先生、死体がなぜ消えるのですか。まさか死体が歩くとは言いませんよね」


同じ年のはずが少し上に見える、貫禄というか高圧的というか肝が据わっている。

時代が違うと同い年でもこう違うのか。


「断定はまだ出来ませんが情報から可能性は導き出せています。

 まず一つ。【協力者がいた】

殺した人物の他に協力者がいてそいつが監視の目を掻い潜って菅原さんを運び出した。この場合は監視役の二人がまず怪しい事になります。

 次に【まだ死んでいなかった】

死体は動かない、それが不変の事実なら消えている理由はまだ死んでいなかったと考えるのが普通でしょう。菅原さんは心臓部を人刺しと聞いていましたが実際に心臓に刺さっていたかは知らない。急所を外れ意識が途絶していた時に死亡確認、その後に気づいた菅原さんは襖から出ると犯人に気づかれると思い窓から逃走。どこかで息たえた

 最後に【死を偽装した】

これは至極簡単です。犯人はいない、菅原さんが自身の死を偽装してこの謎を作った。死の偽装は脈を弱らせたり方法はいくらでもあります。まぁ死を偽装する理由は分かりませんが。


今までの話を聞いて思いつくのはこの三つ。

まだ話を聞きたい人がいる以上穴だらけの推理だがこの場で披露する効果はある。


「陣一先生はどれが有力だとお考えですか?」


「今はなんとも、ただ一つあの現場を見て思ったのが殺人現場にしては痕跡が少なすぎる」


「痕跡ですか?」


言葉を挟むように日笠が割り込む。

現場を見ているなら誰でもわかるような事。


「心臓を刺されたにしては血の量が少ない。正面から刺されたにしては場が整いすぎている。そして何より殺す場所としては違和感がある」


菅原が殺されていたのは休憩室兼更衣室。

そんな誰がいつ来てもおかしくない場所で殺しをしようなんて理解ができない。

それに突発的な反抗なら簪を使ったのは恐らく女となるが更衣室に女を連れ込むなんて他の目につきすぎる。


「なぜ更衣室で殺されたのか、犯人はなぜあそこを選んだのか。恐らくあの部屋でしか殺せない意味があったのでしょう。まぁもう少しすれば答えが分かりますよ、後少しお待ちください」


その後奥安巴についての基本的な情報を聞き部屋を後にする。

巴は今は十六歳ながら大学の知人がいる研究室で歴史を研究しているらしい、将来は考古学者になるのが夢。

来年には東京で本格的な講義を受けたいと。


「ねぇ横溝くん、もう本当は犯人わかってんじゃないの?」


「いいや、まだ聞きたい人が3人いる」


「用心深いね」


「まぁ念には念をってやつだ」


部屋を出て10分もしないうちに次の部屋へ。

やはり何度も通ると嫌でも覚えてしまう、と言いたいところだがまだ慣れない。


「ねぇ横溝くん、私別行動しても良い?」


「良いけど、何かあったか?」


「いや少し、女の子同士でおしゃべりしたいの。もちろん危ない事はしないから」


「そうか、気をつけろよ」


何か意味ありげなら止める必要はない。

それに荒城も俺と同じここに来た人物、謎を解く鍵を探したい欲を止められるわけはない。

荒城と別れ日笠とともに訪れた部屋には大柄な男二人が座っていた。


「こちらが死体があった部屋を監視していた田所たどころ久城くじょうです」


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