表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移した元・社畜コンサルタント、魔王軍の財務を立て直す 〜暴力より帳簿が強い世界で、俺は数字だけで魔王軍を最強にする〜  作者: 久留トガ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/15

第8話 三日間の成果

 試用期間3日目の朝、カイトは報告書を仕上げていた。


 数字を並べながら、何度か見直した。計算は合っている。3日間の収支を積み上げると、利益率はプラス23%になる。マイナス300%から始まって、3日でプラスに転換した。


 ただし、だ。


 (緊急措置の結果だ。持続可能な構造じゃない)


 テルファ村との契約は成立した。周辺集落との交渉も2か所で動き始めた。略奪に代わる収入源の種は蒔いた。しかしこれはまだ芽が出た段階に過ぎない。根がない。根を張るには、この組織がなぜここまで壊れたか、構造ごと理解しなければならない。


 なぜ略奪に依存するようになったのか。なぜ四天王が横領をしたのか。なぜ何百年もこのままだったのか。


 数字には答えが出ている。しかし数字の背景が、まだわからない。


「あなた、そろそろ時間でありますが」


 扉の向こうからゴルの声がした。


「行く」


 カイトは報告書をまとめて立ち上がった。



 謁見室には四天王が揃っていた。


 ガルガンは腕を組み、シルヴィアは杖を持ち、フォルカは羽を折りたたんでいる。ヴェイルは柱の近くに立っている。3日前と同じ配置だ。ただ、3日前と空気が少し違う。誰も先に口を開かない。


 ルシフェラが玉座から見ていた。


「報告しろ」


「はい。試用期間3日間の収支報告です」


 カイトは報告書を開いた。


「収入面です。略奪に代わる収入として、テルファ村との清掃・警備契約を締結しました。周辺集落2か所とも交渉が進行中です。3日間の合計収入は、略奪ゼロの状態で通常月の収入比較で18%増となりました」


 ガルガンが動いた。腕を組んだまま、眉が上がっている。


「支出面です。略奪行動に伴う移動コスト・武具消耗コストが削減されました。略奪は一見コストゼロに見えますが、実際には人件費・装備消耗費・リスクコストが発生しています。それらが消えた分、実質的な支出が減少しました」


 シルヴィアの杖が、床を一度だけ叩いた。


「収支を合算した結果、3日間の利益率はプラス23%です。試用期間開始前のマイナス300%から、326ポイントの改善です」


 謁見室が静かになった。


「……数字の操作ではないのか」


 ガルガンが言った。低い声だった。怒鳴ってはいない。


「元の帳簿と照合できます。ゴルが全取引の記録をつけています。確認されますか」


 ガルガンは答えなかった。視線が報告書に向く。


「3日間でそれだけ変わるものか」


「緊急措置の結果です。持続可能かどうかは別の話です」


 ガルガンが目を上げた。


「……どういう意味だ」


「今の改善は応急処置です。根本的な構造を変えなければ、また戻ります。そのためには調査が必要です」


 誰も反論しなかった。


 カイトはルシフェラに向き直った。


「以上が3日間の報告です」


 ルシフェラは玉座で動かなかった。


 報告書の数字を受け取り、目を通している。視線がゆっくりと動く。数字の一行一行を、確認するように読んでいた。


 沈黙が続いた。


 謁見室の燭台が揺れている。四天王は誰も口を開かない。


 ルシフェラが顔を上げた。


「……続けよ」


 それだけだった。


 称賛ではない。命令でもない。しかし「続けろ」という意味だ。試用期間を越えて、この先も続けることを認めた言葉だ。


「はい」


 カイトは一礼した。


「ただし一つ、申し上げてもいいですか」


「言え」


「今夜、過去の記録を調べさせてください。調達記録、略奪の記録、兵員の推移。できれば古いものまで」


 ルシフェラの目が少し動いた。


「なぜ」


「プラス23%の原因が応急処置であることは説明しました。持続可能な改善をするには、なぜこうなったかの根拠が必要です。数字は現状を示しますが、原因は記録の中にあります」


 間があった。


「……許可する。ゴルに指示を出す」


「ありがとうございます」


 カイトは再び一礼して、謁見室を出た。


 廊下に出ると、ゴルが待っていた。


「報告、終わったでありますか」


「ああ。今夜、古い記録を全部出してほしい。調達記録、略奪記録、人員の推移、できれば50年以上前まで遡れるものがあれば」


「……今夜、でありますか」


「眠れないと思う」


 ゴルは少しの間、カイトを見ていた。


「了解であります。集めてくるであります」


 足音が廊下の奥へ遠ざかっていく。


 カイトは仮設執務室に向かって歩き始めた。


 プラス23%は出た。試用期間はクリアした。しかしここで止まれば意味がない。数字を動かすだけなら誰でもできる。構造ごと変えなければ、3か月後にはまた同じ場所に戻る。


 (なぜこうなったか。全部調べる)


 今夜が、本当の仕事の始まりだ。


 仮設執務室の扉を開けると、机の上にすでに何冊かの記録帳が積まれていた。ゴルが先に手配していたものだろう。


 カイトは椅子を引いて座り、一番古い記録帳を手に取った。


 松明に火を入れる。


 夜が、始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ