第68話 転職者の列
面接が続いていた。
一日三名から始まった面接スケジュールが、この週は一日五名になっていた。月曜から今日の金曜まで、毎日誰かと話している。ゴルが廊下で整理番号を配っている。書類を事前に集めて、カイトが面接の前に読む。内容を確認してから会う。事前に読むのと読まないのでは、面接の質が変わる。どういう人間が来ていて、何を期待しているかを把握してから話す方が、無駄がない。
今日で合計三十五名に会った。今日の十二人目が入ってきた。
入ってきたのは、体の大きな魔物だった。オーク系の種族で、身長は二メートルを超えている。砦の入口が少し窮屈だったかもしれない。でも今は椅子に行儀よく座っている。前足をひざの上に置いて、少し緊張した様子で正面を見ている。
「どうぞ。今日来てくれてありがとうございます」
「……ありがとうございます」
声は低いが、言葉はちゃんとしている。
「書類を確認しました。名前はブルグ。年齢は三十二歳。前職は……」
カイトが書類を読んだ。
「……料理人、ですか」
「……はい」
「どこで料理人を」
「聖王国の城下の食堂で、三年間です。その前は別の町で五年ほど」
「合計八年、料理人として働いてきた」
「……はい。ただ、最近、城下の食堂が閉まりまして。物価が上がって、お客さんが減って、店主から『来月で終わりにする』と言われました。他の食堂も同じような状況で、料理人として働ける場所が急に減ったんです。魔王領の砦は食堂があって、料理人を必要としていると聞いて、来ました。遠かったですが、来る価値があると思いました」
「なるほど。理由は分かります。では聞かせてください。得意な料理は何ですか」
ブルグが少し考えた。
「……煮込み料理が得意です。大量に作るのが得意で、野菜を無駄なく使う料理が得意です」
「大量調理の経験はありますか」
「……あります。食堂で一日に百食以上を調理していた経験があります。魔物の集団に向けた料理ではなく、人間向けの料理でしたが」
「今回、魔王軍の食堂部門への採用を希望していますね。魔物の同僚と働くことに問題はありますか。また、人間の同僚もいますが」
「……問題ありません。食堂で一緒に働けるなら、種族は関係ないと思っています。料理は誰が作っても、食べる人が美味しければいい、と思っています。ここにいる人たちと一緒に仕事をしたいから来ました」
---
カイトは書類に書き込んだ。料理人。大量調理経験あり。魔物・人間混合環境可。種族対応可。アレルギー管理経験あり。
「一点確認します。オーク族の方ですが、砦には人間以外の種族もいます。種族によって食べられないものが異なることがありますが、それに対応できますか」
「……できます。食堂で働いていた時に、お客さんの食材アレルギーや食べられないものに対応した経験があります。記録をつけて管理していました。種族の特性を事前に教えてもらえれば、対応できます」
「分かりました。それは非常に有用です。砦では今後、人員が増えるにつれて食事管理が複雑になります。管理できる調理人は重要です」
「……ありがとうございます」
「採用します。食堂部門への配属です。配属後は既存の調理担当者と相談して、体制を整えてください。給与は月7万G、住居は砦内に用意します。よろしいですか」
「……はい。ぜひよろしくお願いします」
---
ブルグが出ていった後、ゴルが書類を持って入ってきた。
「……長官、今日の面接は終わりです。お疲れ様でした」
「十二名全員と会いましたか」
「……はい。採用が七名、今日は見送りが五名です」
「見送りの理由は?」
「……二名は書類の情報と実際の話が合わなかった。一名は魔王軍での業務に適性がないと長官が判断した。残り二名は本人から辞退でした」
「分かりました。辞退は問題ありません。記録しておいてください。採用した七名の今日の配属先を教えてください」
「……戦闘部門二名、調理部門二名(ブルグを含む)、医療部門一名、研究部門一名、財務補助一名です」
「バランスよく入りました」
「……はい。特に調理部門は長官が前から言っていた重要ポストでしたので、今日二名入ったのは良かったと思います」
「食事の質が上がれば、全体の生産性が上がります。基盤の整備です」
「……長官は食事を基盤と呼びますね」
「そうですよ。机や椅子と同じです。あると当たり前に思われるが、ないと何も動かない。基盤が安定している時は誰も注目しないが、崩れると全部が止まる。だから基盤が一番重要です」
「……なるほど」
「ゴル、今日の面接の記録を明日の朝までにまとめておいてください。来週の採用報告でルシフェラ様に提出します」
「……了解しました」
---
夕方、食堂に行くと、ブルグがすでに働いていた。
大きな体で鍋をかき混ぜている。動きが手慣れている。三年・五年の経験は本物だ。エプロンをつけて、鍋を扱う手つきが落ち着いている。新しい環境に来た初日とは思えない。
隣で別の調理担当者が何かを教えてもらっている様子だった。ブルグが穏やかな声で答えていた。新人のはずだが、調理場では先輩の動きをしている。自分の得意な場所に戻ってきた、という感じがした。
カイトは食堂の壁際に立って、少し見ていた。
これが砦の未来の姿の一部だ。戦闘能力だけではなく、食事・医療・研究・財務。それぞれの専門家が揃うことで、全体が機能する。一人が百を担うのではなく、百人がそれぞれ一を担う。そのためには、一を担う場所が百必要だ。そのための組織設計が、今の自分の仕事だ。
ブルグは調理場で鍋の中に何かを加えた。香りが変わった。食堂の空気が少し豊かになった。これが「採用が正解だった」ということだ。数字ではなく、においで分かることもある。
ゴルが来た。
「……長官、今日はいつもより遅い時間に食堂にいますね」
「ブルグの仕事ぶりを確認していました」
「……どうでしたか」
「良いです。採用して正解でした」
「……それは良かったです。ゴルも今日のシチュー、一口食べましたが、先週より美味しかったです」
「すでに効果が出ている」
「……ですね」
ゴルが少し嬉しそうな顔をした。
カイトは食堂を出た。今日は採用が七名。組織が一段階大きくなった。大きくなるための制度的な整備が次の課題だ。人が増えれば、管理の仕組みが追いつかなくなる。追いつかせるための設計が必要だ。
廊下を歩きながら、次の仕事を考えた。採用管理の仕組みを強化する。配属後の研修制度を整える。配属後三十日の評価基準を作る。採用して終わりではなく、採用した後が本番だ。
ゴルが後ろからついてきた。
「……長官、今日は何時まで仕事しますか」
「就業規則上の終業時刻に終わります」
「……いつもそうですね」
「模範を見せないと意味がない」
「……はい。ゴルも帰ります」
「そうしてください」
ゴルが「……お先に失礼します」と言った。少し嬉しそうだった。定時に帰れることが、当たり前になっている。それが当たり前になったことが、ここの変化だ。カイトはそう思いながら、執務室に戻った。
机の上に、明日の面接の書類が並んでいた。次は八名の予定だ。来週はさらに増える見込みだとゴルが言っていた。面接が増えることは、来ることを選んだ人間が増えているということだ。それは、ここが選ばれる場所になっているということだ。
カイトは書類を一枚ずつ確認した。明日も面接がある。今夜は準備をする。




