第55話 転職者の第一号
フォルカから連絡が来たのは、ミア村から戻って五日後だった。
「長官、ラーゴス拠点から報告です。あの騎士二名が来たようです。しかも二名連れてきています。計四名」
「分かりました。面接します。通してください」
「……砦に来させるのですか」
「来てもらった方が話が早い。砦の場所は分かっていますか」
「……今日の夕方には着けると思います」
「了解しました。待っています」
ゴルが伝言を閉じた。カイトは書類の手を止めた。
四名。デーンとレイが、さらに二名を連れてきた。「考える」と言っていた時点で、来る可能性は高いと見ていた。ただ、追加で二名連れてきたということは、仲間に話した、ということだ。話す気になったなら、条件が刺さったということだ。
「ゴル、面接のための部屋を用意してください。四名を一人ずつ通します」
「……了解しました。応接室を使いますか」
「そこで十分です。簡単な書類も用意してください。名前、経歴、専門を書いてもらう欄があれば十分です」
「……面接の書類を作る、ということですか」
「フォーマットを一つ作っておけば今後も使えます。今日は手書きの欄を作ってもらうだけでいいです」
「……分かりました。すぐ作ります」
ゴルが動き始めた。カイトは今日の予定を組み替えた。午後の業務を押し込んで、面接の時間を夕方に確保した。四名の面接で一人あたり15分とすれば1時間あれば終わる。問題ない。
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夕方、砦の門前に四名が到着した。
デーンとレイ、それに加えて一人が若い男性で、もう一人は女性だった。女性は魔導師のような服装をしていた。四名とも荷物を背負っていた。
「一人ずつ面接する。通せ」
ゴルが「はい」と言って四名を応接室に案内した。
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最初に入ってきたのはデーンだった。
「……来ました」
「来ましたね。座ってください」
デーンが椅子に座った。カイトは書類を出した。
「経歴を聞きます。入団何年ですか」
「三年です」
「専門は何ですか」
「剣。前衛です」
「体力と持久力はどのくらいですか。自己評価で」
「平均より上だと思います。ただ、特別に強くはないです」
「正直な答えです。当軍では前衛戦力は十分にあります。別の業務に就いてもらう可能性があります。それは問題ありますか」
「……剣以外の仕事、って何ですか」
「物流の護衛、巡回、あるいは訓練補助。前衛経験があれば使える場所はあります」
「……やったことはないですけど、できると思います」
「分かりました。次に書類を書いてもらいます。紙を渡します」
「……履歴書、ですか。持ってきていないです」
「作ってもらいます。紙を渡します」
デーンが「書き方が分からない」という顔をした。
「教えます。名前、入団年数、専門、前職での主な任務。この四項目でいいです」
「……それだけでいいですか」
「最初はそれで十分です。後で追加します」
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次にレイが入ってきた。同じ手順で話を聞いた。
それから若い男性だった。名前はティムと名乗った。
「魔導師です」
「どんな魔法が使えますか」
「……攻撃系は弱いです。治癒もできますが専門じゃない。主に分析系と支援系です」
「分析系、というのは具体的に」
「物の状態や組成を読み取るものです。金属の純度とか、薬草の効能とか」
カイトは少し前に出た。
「それは使えます。具体的に採用します」
ティムが驚いた顔をした。
「……私は戦えないですけど」
「魔導技術と研究能力を聞く。戦闘は不要だ」
「……初めて言われました。魔導師は戦えないと役立たずと言われてきたので」
「それは間違っています。分析能力は財務部で必要です。来週から来てください」
ティムが少し目を潤ませた。カイトはそれに気づいたが、特に何も言わなかった。「書類を書いてください」と言って紙を渡した。
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最後は女性だった。エラと名乗った。
「聖王国の騎士ではないです」
「魔導師ですか」
「……いいえ。経理をしていました。聖王国の騎士団の経理部門で事務をしていました」
カイトが一瞬止まった。
「聖王国の騎士団の経理の担当者ですか」
「……はい。給与の計算と、装備費の管理をしていました。でも、最近給与が出なくて、自分の給与も含めて出ていないので」
「分かりました。今すぐ採用します」
「……え」
「財務部で必要な経験です。明日から来てください」
「……明日ですか」
「明日で問題ありますか」
「……荷物はここに持ってきているので、問題ないですが、急ですね」
「急ですが、経理経験者は貴重です」
エラが「……分かりました」と言った。まだ混乱している顔だったが、嬉しそうだった。
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四名の面接が終わった後、ゴルが整理をしながら言った。
「……長官、全員採用ですか」
「全員採用です。エラは即戦力です。ティムは分析に使えます。デーンとレイは物流護衛に配置します」
「……ティムさんの分析技術は、マナ貨の品質管理にも使えますか」
「使えます。封印の状態確認や、流通前の品質チェックに向いています。シルヴィアとの連携ができれば理想的だ」
「……シルヴィアさんと、うまくやれますか」
「やれるかどうかは当人次第です。仕事の内容が合えば問題はない」
「……ゴルはティムさんが面接の時、目が潤んでいたように見えました」
「見えましたか」
「……長官は気づいていましたか」
「気づいていました」
「……何も言わなかったのですか」
「業務の確認中に言う内容ではないので」
「……長官らしいです」
「どこが長官らしいのですか」
「……ちゃんと気づいているのに、言わないところが」
カイトは特に返答しなかった。
「……ガルガン統括長には話しましたか」
「まだです。今から話します」
ガルガンを呼んだ。
「人間を採用した」
「……聞いた。何人だ」
「四人です」
「……人間を雇うのか」
「採算が合う。計算書を後で渡す」
「……北方軍の配下には入れるな」
「別部門だ。財務部と物流護衛に配置する」
ガルガンが黙った。不満というより、考えている顔だった。
「……人間が砦に住むのか」
「住居を用意する必要があります。空き部屋の確認をお願いします」
「……承知した。後で確認する」
出ていった。カイトはゴルを見た。
「住居の手配、よろしくお願いします」
「……了解しました。ところで長官、ガルガン統括長は怒っていましたか」
「怒ってはいなかった。確認する、と言いました」
「……それは怒っていない、ということでよいですか」
「ガルガンが怒る時は黙らないので、あれは受け入れた状態です」
「……なるほど。では、よかったです」
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翌日から四名が砦に来た。エラが最初に仕事に入った。財務部の過去の帳簿を見て、三時間後に整理済みのレポートを出してきた。カイトは受け取って、一読した。
「……ゴル、これは」
「……ものすごく整理されています」
「聖王国の経理担当だったと言っていた」
「……仕事が早いですね」
エラを呼んだ。
「このレポート、どのくらいかかりましたか」
「三時間です。もう少し時間があれば追加の整理もできます」
「今日の業務はここまでで大丈夫です。明日以降の担当範囲を決めます」
「……ありがとうございます。魔王軍の帳簿は、聖王国とは形式が違いましたが、慣れれば問題ありませんでした」
「そうですか。問題が出たらすぐ言ってください」
「了解しました」
エラが出ていった。ゴルが呟いた。
「……頼もしい人が来ましたね」
「採用費の元は取れそうです」
この日を境に、聖王国から魔王軍への転職希望者が月に数名ずつ現れるようになった。




