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異世界転移した元・社畜コンサルタント、魔王軍の財務を立て直す 〜暴力より帳簿が強い世界で、俺は数字だけで魔王軍を最強にする〜  作者: 久留トガ


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第19話 鉱山の整理


 四天王全員の留任回答書が揃ってから、三日が経った。


 執務室に、ゴルが二冊の書類を持って入ってきた。机の上に並べる。一冊は名簿だ。もう一冊は、鉱山周辺の市場での魔石売買記録。


「名簿の照合が終わりました。……思っていたより、多うございます」


 カイトは書類を開いた。名簿の左側に、日付と取引記録の照合番号が几帳面な字で書き込まれている。ゴルが一件ずつ手作業で突き合わせた跡だ。


「何人だ」


「二十三名です。砦の外の採掘従事者が十一名、砦の内部に繋がりのある者が十二名。……ほぼ全員が、鉱脈の存在を以前から知っていた者たちであります」


 カイトは照合作業を確認した。【資産鑑定アセット・チェック】で名簿と売買記録を突き合わせる。金額と日付、取引量の整合性に問題はない。数字は正確だ。


 鉱山を計測したとき、採掘回収率は15%以下だった。組織的な採掘がないのに、市場に魔石が出回っている。その出所が盗掘によるものだと、帳簿の構造から最初から想定していた。実態は予測通りだった。


「採掘していないのに、市場に魔石が出回っている。出所がここしかない」


「……はい、長官」


「横流しの総額は」


「過去三年分で、試算約47万Gであります。市場への売却価格ベースです」


 カイトは数字を手元の紙に書き留めた。47万G。一括での回収は難しいが、鉱山が正式に稼働を始めれば月次収益から吸収できる規模だ。ただし、放置していい理由にはならない。


「処遇は書面で通知する。条件は損害額の返済と再発防止誓約、または即時の雇用終了だ。四天王と同じ手順でいい」


「承知しました。書面の準備を進めます」


「名簿は置いておいてくれ。こちらで確認する」


---


 書面の確認は夕方には終わった。


 二十三名分の通知書が揃った。ゴルが書いた下書きに誤りはなく、カイトは余白に二カ所だけ修正を書き入れた。それだけだった。


「明日の朝から通知を始める」


「砦内部の者から先でありますか」


「採掘従事者から先だ。人数が多い。砦内部の者は並行して動かす」


「……わかりました」


 ゴルが書面を束ねた。カイトは机の上に別の書類を広げた。輸送路の仮設計だ。鉱山の正式稼働には、盗掘者の処遇だけでなく輸送路の整備も必要になる。順番を考えれば、今のうちに動かしておくべき案件だった。


---


 翌日、通知の準備を終えてから、カイトはヴェイルとフォルカを執務室に呼んだ。


 二人が揃って扉から入ってきた。ヴェイルが先、フォルカが続く。


「二人に任命の話がある」


 カイトは机の上に書面を二枚置いた。


「ヴェイルさん。採掘資材管理の責任者を担ってもらいます」


 ヴェイルは書面を手に取った。しばらく読んでいた。


「……採掘管理を、俺がやるのか」


「武具の調達と採掘資材の調達は、構造が同じです。必要な種類と数量の把握、調達先の選定、入出庫の記録管理。これまでやってきたことと変わりません」


「……武具と採掘資材は、別物だろう」


「品目が違うだけです。仕入れ先との交渉、価格の比較、納期の管理。その構造はどちらも同じです。品目の知識は現場の担当が補います。あなたが持っている調達の仕組みは、そのまま使えます」


 ヴェイルはしばらく書面を見ていた。反論の言葉を探しているというより、言われた内容を確かめているような間だった。


「……できると言っているのか」


「できます」


 間を置かずに答えた。ヴェイルはわずかに目を細めた。


「……そうか」


 それだけ言って、書面を持っていった。


 カイトはフォルカに向き直った。


「フォルカさん。輸送路整備の責任者を担ってもらいます」


 フォルカは書面を受け取り、目を通した。羽が一度だけ静かに動いた。


「鉱山から砦まで、どのルートで整備を進めるつもりだ」


「仮設計を用意しています」


 カイトはもう一枚の書類を渡した。地図と距離の試算が書かれている。フォルカは路線図を広げ、指でルートをなぞっていった。しばらく何も言わなかった。次の質問を探しているのではなく、自分の中の地図と照らし合わせているような間だった。


「……ここは迂回した方が輸送コストが下がる」


 フォルカが地図の一点を指で押さえた。


「根拠を出してください」


「距離は伸びるが、地盤が安定している。重い荷を運ぶなら耐久性が優先だ。修繕コストを加算すると、直線ルートより費用が下がる計算になる」


「その数字を書面で出してもらえますか。取り込みます」


 フォルカはうなずいた。羽が、ゆっくりと落ち着いていった。


 自分が積み上げてきた輸送の知識が、正当な形で設計に組み込まれていく。その手応えが確認できれば、それで十分だったらしい。


「……明日までに出す」


 フォルカが書面を持って、出ていった。


---


 夕方、ゴルが茶を持ってきた。


「通知の第一便が終わりました。本日は砦外の者、七名に届けました。二名が即時退職を選び、五名が返済の意向を示したであります」


「記録に入れた」


「残り十六名は明日以降であります。……鉱山の正式な採掘は、その後でありますか」


「輸送路整備が先だ。フォルカさんの準備が整ってから動く。盗掘の処遇と輸送路整備完了のタイミングが揃えば、着手できる」


 ゴルは少し考えた。


「……物事が、順番に片付いていくでありますね」


「片付けているんだ。自然に片付くわけではない」


「……失礼しました」


 カイトは茶を一口飲んでから、輸送路整備の工程表を引き寄せた。


 フォルカが計算を出せば、明日中に修正案が作れる。ヴェイルが資材の見積もりを出せば、調達スケジュールに組み込める。盗掘者への通知が終われば、鉱山への正式な着手が始まる。


 どの数字も、次の数字に繋がっていた。


 松明の光の中で、ペンが動き始めた。



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