第17話 解雇状
朝、砦の廊下に静けさがあった。
四天王それぞれの執務室の扉の下に、白い封書が挟まれていた。差出人の名前はない。几帳面な筆跡で「謁見室に集まれ」とだけ書かれている。
誰が書いたか、全員が即座にわかった。
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謁見室に、四天王が揃った。
ルシフェラは玉座に座っている。何も言わない。今日は最初から無言だった。
カイトは書類束を手に、四天王の前に立った。ゴルが隣に控えている。
「財務長官より、各位への通知です。一名ずつ、順番に読み上げます」
静かな声だった。感情がない。業務の続きをやっているような口調だ。
「ガルガン北方軍司令官」
ガルガンが腕を組んだ。
「帳簿調査の結果、北方軍備品・食料費における差額19万Gの流用が確認されました。内容:条件付き留任、または即時解雇の二択です」
カイトは書類を一枚取り出した。
「条件は二点。差額19万Gの分割返済。以後、職務上の不正があれば即時解雇。これを受け入れて留まるか、解雇状を受け取って出ていくか。三日以内に文書で回答してください。口頭は受け付けません」
ガルガンは押し黙った。腕を組んだまま、何も言わない。反論しようとして、言葉が出ない顔だ。
「フォルカ南方補給長」
フォルカの羽が、一度だけ動いた。
「南方補給費における差額14万Gの流用が確認されました。条件は同様です。差額14万Gの分割返済、以後の不正は即時解雇。三日以内に文書で回答してください」
「……わかった」
フォルカが短く言った。言い訳の余地がないと自覚している顔だった。羽が揺れない。
「シルヴィア魔導部門長」
杖が一度だけ床を叩いた。それから止まった。
「魔導部門研究費における月3.2万G、年間38.4万Gの流用が確認されました。条件は同様です。三日以内に文書で回答してください」
「……」
シルヴィアは何も言わなかった。杖を持つ手が、わずかに白くなっている。
「ヴェイル武具調達長」
ヴェイルは最初から動いていなかった。壁際に立ったまま、カイトを見ていた。
「武具調達費における差額32万Gの流用が確認されました。条件は同様です。三日以内に文書で回答してください」
しばらく沈黙があった。
ガルガンは床を見ている。フォルカは羽を閉じたまま動かない。シルヴィアは杖の先を見ている。
ヴェイルだけが、口を開いた。
「留まって、返済して」
静かな声だった。
「……その先に、何がある」
謁見室が静まった。
カイトはヴェイルを見た。
「この軍が黒字になります。それだけです」
「黒字になった組織に、俺の居場所があるということか」
「役割があります。あなたの調達能力は、今の魔王軍に必要です。鉱山の採掘資材、輸送物資の調達、ラーゴスとの取引。武具以外にも動かせる数字があります。使い切れていない能力です」
ヴェイルはしばらく動かなかった。
「……それだけか」
「今のところは」
カイトは四天王を一度見渡した。
「三日以内に、文書で回答してください。口頭は受け付けません。以上です」
礼をして、書類を束ね直した。
ガルガンが最初に動いた。何も言わずに謁見室を出ていく。フォルカが続いた。シルヴィアは杖の音を立てずに退室した。ヴェイルが最後だった。扉が静かに閉まる。
謁見室に、カイトとルシフェラが残った。
ゴルが気配を消すように壁際に下がっている。
ルシフェラは玉座から動いていなかった。通知の間、一言も発しなかった。ただ静かに見ていた。
「……異論はありますか」
カイトが言った。
ルシフェラはしばらく答えなかった。
「ない」
「では回答を待ちます」
カイトは一礼して、謁見室を出た。
廊下はいつも通りだった。足音だけが石の床に響く。
ゴルが小走りに後ろから追いついてきた。
「……全員、受け取りましたか」
「受け取った。あとは三日後だ」
執務室への廊下を歩く。手元には四枚の通知書の控えが残っている。三日以内に文書が四枚届く。そうでなければ、また動く。
どちらでも、仕事は続く。




