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異世界転移した元・社畜コンサルタント、魔王軍の財務を立て直す 〜暴力より帳簿が強い世界で、俺は数字だけで魔王軍を最強にする〜  作者: 久留トガ


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第11話 魔王軍黒字化3ヶ年計画・後編

 謁見室の壁に、新しい資料が貼られていた。


 ゴルが朝のうちに準備を終えていた。縦軸に収益、横軸に年数を取った折れ線グラフ、施策の一覧表、収益構造の変化図。昨日とは違う構成だ。


「昨日の前半で、なぜこうなったかを説明しました。今日は後半です」


 四天王は昨日と同じ位置に立っている。ガルガンは腕を組んでいた。シルヴィアは杖を持ったまま動かない。フォルカは羽を閉じている。ヴェイルだけが、壁の資料に目を向けていた。


「後半のテーマは、どう変えるかです。3カ年計画を提示します」


 カイトは一番左の資料の前に立った。


「現在の利益率はマイナス300%です。第1年度末に黒字転換。第2年度末にプラス180%。第3年度末にプラス370%。これが目標です」


 謁見室が静まった。


「数字が大きすぎる」


 シルヴィアが言った。


「根拠を出します。第1年度から説明します」


 カイトは施策の一覧表を示した。


「第1年度の課題は、略奪に代わる収入源の確立です。現在試用期間中に始めた清掃業と警備業を正式に事業化します。加えて、辺境村との物流業務の拡張、および砦内での製造業の立ち上げです」


「物流と製造だと」


 ガルガンが声を上げた。


「清掃・警備で実証できた部分があります。外部から依頼が来ること、魔物側に技術的な適性があること。同じ構造を物流と製造に展開します。試用期間3日間の結果がその根拠です」


 ガルガンは何か言いかけて、止まった。


「清掃・警備・物流・製造の四事業で、第1年度末に月次収入を現在の2.8倍に押し上げます。同時に、横領が止まることで支出側の損失が消えます。この二つの効果が重なり、黒字転換の条件が揃います」


「略奪をやめて、食料はどうする」


 ガルガンが言った。


「テルファ村との契約はすでにあります。次の話です」


 短く返す。ガルガンの顔が動いた。反論が出てこない顔だ。


「第2年度の施策です」


 カイトは次の資料に移った。


「北部山岳の魔石鉱脈です。現在採掘されていません。この鉱脈を正式に開発します。同時期に、辺境を迂回した外部市場への進出を開始します。封鎖経済の外側に出るルートを複数用意します」


「外部市場など、封鎖されている」


 フォルカが言った。


「完全には封鎖されていません。聖王国と直接取引できる経路は遮断されていますが、第三の市場は存在します。ラーゴスが候補です。距離と輸送コストを計算した上で採算ラインに乗ります」


「ラーゴスか……」


 ヴェイルが初めて声を出した。何かを確かめるような口調だった。


「第2年度末でプラス180%の根拠は、鉱脈の試掘収益と外部市場への初回取引の合算です。数字の詳細は別途資料にまとめます」


「第3年度は」


 ルシフェラが言った。


「通貨信用の確立です。現在、魔王領は独自通貨の価値が低く、外部取引でほぼ使えない状態です。複数の外部市場と安定した取引実績を積み上げることで、通貨信用を段階的に回復させます。第3年度末に、対外的な経済優位を確定させます」


「……通貨信用」


「封鎖経済の中に閉じ込められていた原因の一つが通貨の弱さです。逆に言えば、通貨が強くなれば、封鎖されても経済的に戦える状態になります。これが第3年度のゴールです」


 謁見室に沈黙が満ちた。


「絵空事ではないか」


 シルヴィアの声は静かだった。しかし杖の先が、床を一度叩いた。


 カイトはシルヴィアの方を向いた。


「試用期間3日間で、利益率プラス23%を出しました。絵空事ではありません」


 杖が止まった。


「プラス23%は緊急措置の結果です。持続可能な構造ではない。そのことは理解しています。しかし構造を変えれば何が起きるか、小規模でも実証できました。これを3年かけて、組織全体に展開する計画です」


 シルヴィアは何も言わなかった。


 ガルガンが壁の資料を見ていた。数字を目で追っている。フォルカの羽が一度だけ広がり、また閉じた。ヴェイルはカイトから目を離さない。


「質問はありますか」


 誰も口を開かなかった。反論でも、承認でもない沈黙だった。


 カイトは前に出た。


「最後にまとめます。第1年度、事業の多角化で黒字転換。第2年度、鉱山開発と外部市場進出でプラス180%。第3年度、通貨信用の確立でプラス370%。封鎖経済の外に出ることで、略奪依存の構造そのものを変えます」


 一呼吸置く。


「以上です」


 玉座でルシフェラが静かに動いた。目が、壁の資料に向いている。グラフの折れ線の先端を見ているような視線だ。


 誰も話さなかった。


 四天王は数字で反論できない。しかし認めたわけでもない。その空気が、謁見室に重く残っていた。


「……続けよ」


 ルシフェラが言った。


 短い言葉だった。しかし昨日と同じ言葉で、昨日とは違う重さがあった。


 カイトは一礼した。


 四天王は沈黙したままだった。


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