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異世界転移した元・社畜コンサルタント、魔王軍の財務を立て直す 〜暴力より帳簿が強い世界で、俺は数字だけで魔王軍を最強にする〜  作者: 久留トガ


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第10話 魔王軍黒字化3ヶ年計画・前編

 謁見室に、資料が並んでいた。


 カイトが徹夜で作成した図表を、ゴルが壁に貼り付けている。数字の推移を示した表が三枚、構造図が一枚。普段の謁見室とは違う空気に、四天王は開口一番から不満そうな顔をしていた。


「なんだこれは」


 ガルガンが壁の資料を見て言った。


「プレゼンテーションの資料です。口頭だけでは伝わらない部分があるので、視覚化しました」


「プレゼン……」


「説明資料、と思っていただければ」


 ルシフェラが玉座から資料に目を向けた。何も言わない。それが「続けろ」の意味だとカイトにはわかってきていた。


「では始めます。今日は二部構成で説明します。前半が『なぜこうなったか』、後半が『どう変えるか』です。今日は前半のみ。後半は明日です」


「二日に分けるのか」


 シルヴィアが眉を上げた。


「情報量が多いため、分割したほうが理解が深まります。無理に詰め込んで意思決定が歪むより、確実に理解していただいたほうが効率的です」


 杖が床を叩く音がした。しかしシルヴィアは何も言わなかった。


 カイトは最初の資料の前に立った。



「現在の財政状況から始めます。利益率マイナス300%。これは結果です。まず原因を三層に分けて説明します」


 指で資料の上段を示す。


「第一層。収入の構造的な問題です」


 表には、80年分の略奪量の推移が数字で並んでいる。


「80年前から、略奪による収入が減少し始めています。同時期に調達コストが上昇しています。この二つが重なった結果、収支のバランスが崩れました」


「辺境の防衛が強化されたからだろう」


 ガルガンが言った。


「そうです。しかしなぜ外部調達コストがこれほど高いのかが問題です。通常の商取引であれば、もっと安く物資を買えるはずです」


 カイトは構造図の前に移動した。


「理由がこちらです。約300年前、聖王国が交易路を封鎖しました。鉱業利権の独占と宗教的な教義強化が理由です。これ以降、魔王領は外部との通常取引ができない封鎖経済の中に置かれています」


 謁見室が静かになった。


 ルシフェラの目が、構造図に向いている。


「封鎖以前の記録には、聖王国との交易記録があります。魔石と農産物の交換です。それが300年前に途絶えました。以来、外部から物資を仕入れるには、非公式の割高なルートを使うしかない。調達コストが市場価格の2倍以上になっているのはこのためです」


「……知っていた事実だが」


 ルシフェラが静かに言った。


「知っていても、財務数値として整理されたことがなかった、ということです。封鎖の影響がコストにどう出ているか、数字で見ると変わります」


 カイトは続けた。


「第二層。収入が減り続ける中で、支出の構造は変わらなかった」


 別の表を示す。


「組織の規模を維持するための人件費、武具の維持費、物資調達費。収入が減っても、この支出は固定されたままです。結果として毎年赤字が積み上がり続けた」


「それが100年続いたということか」


 フォルカが短く言った。羽は動いていない。


「正確には約80年です。その間、構造的な問題を解決する手段がなかった」


「略奪を増やせばよかっただけだ」


 ガルガンが言った。


「増やせなかったから減ったんです。聖王国側の防衛強化に対して、こちら側の略奪能力には限界がある。数字の上では、約50年前から略奪量の増加には限界が来ていました」


 ガルガンは腕を組んだ。反論が出てこない顔だ。


「第三層。横領による追加損失です」


 カイトは四天王の方を向いた。


「先日の帳簿調査で確認した数字です。四名の横領総額が約103万G。月次収入が14万Gの組織で、これだけの損失が積み上がっていた。利益率マイナス300%の三つ目の原因がこれです」


「また横領の話か」


「事実として整理が必要なので触れます。ただし今日のテーマは責任追及ではありません。なぜこうなったか、の構造分析です。動機については別の機会に確認します」


 シルヴィアの杖が止まったまま、音がしない。ヴェイルは壁に視線を向けていた。


「ここまでが三層の原因です。まとめます」


 カイトは構造図の全体を示した。


「封鎖経済により調達コストが高止まりした。略奪収入は減少した。支出は固定されたまま変わらなかった。そこに横領による損失が加わった。この四つが重なってマイナス300%になっています」


「……つまり、略奪をやめれば解決するわけではないと言いたいのか」


 ルシフェラが言った。


「その通りです。略奪をやめるだけでは構造は変わりません。封鎖経済の外に出る収入源を作らなければ、同じ場所に戻ります」


「試したことがある」


 ルシフェラの声が、一瞬だけ低くなった。


「存じています。20年前、略奪に依存しない収入を作ろうとした形跡が記録に残っています」


 謁見室が静まった。


 ルシフェラは何も言わなかった。しかし目が、かすかに動いた。


「その試みが止まった理由も、数字から読めます。代替収入が間に合わなかった。略奪をやめた時点で食料が尽きた。だから戻るしかなかった」


「……」


「今回は違います。先に代替収入を作ってから略奪をやめました。試用期間の3日間がその実証です」


 四天王は誰も話さなかった。


 ガルガンが壁の資料を見ている。シルヴィアは杖を握ったまま動かない。フォルカは羽を閉じている。ヴェイルはカイトを見ていた。


「最後に一点だけ補足します」


 カイトは構造図の下段を示した。


「聖王国も、この戦争を続けることで利益を得ている勢力があります。武器商人、宗教勢力、辺境の税を取り続けたい貴族。戦争が続く限り、彼らには収入がある。双方に戦争を続ける動機がある構造です。これを理解した上で、出口戦略を設計する必要があります」


「……共依存、か」


 ルシフェラが静かに言った。言葉を確かめるような口調だった。


「そうです。どちらか一方が変わるだけでは崩れません。経済的に出口を作ることで、共依存の構造そのものを変える必要があります」


 謁見室に沈黙が満ちた。


「前半は以上です。明日、後半の『どう変えるか』を説明します」


 ルシフェラは玉座でしばらく動かなかった。


「……続けよ」


 四天王は数字では反論できない。しかし認めたくもない。その空気が謁見室に残っていた。


 カイトは一礼して、資料を片付け始めた。


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