神の地 ユグル国
悪である、魔物。それは、人が文明を築く過程で、憎まれ、疎まれ、排斥され、生物として当たり前の感情を有した、個体の当然の帰結であり、特別最初から悪である生物など存在しなかった。
こっそりと人から隠れ生きる者、魔女と結託し人間への謀反を企むもの、そして人との共存を夢見て、今日も人との交流をはかろうとするもの………。
「おーい、レイド!」
仲間の呼ぶ声が聞こえる。
「なんだー!モルノ!」
「旅の馬車がここ通るってよ!どかすの手伝ってくれ!」
「あいよー!」
レイドは、村に住む若者であった。誰よりも率先して人の嫌がる仕事をして、揉め事が起こったときには、必ずレイドが間をもって、話を聞いていた。力仕事も何のその、人々から慕われ、愛されて、彼は近隣の民衆から多大な評判を得ていた。
ガタガタと畦道を馬車が通ろうとする。
「本当に、可哀想ですわ!!最初から、悪い人だって決めつけるのは、良くないことですのよ!!」
「そうは言っても、殴りかかられてからでは遅いではないか!魔物が道を塞いでいたら、切り捨てるのが騎士の道理だ!」
「まぁまぁ、2人とも、落ち着いて。」
馬車の中では、3人の女性が何やら話し合っている。珍しい、格好………身分の高い、貴族だろうか?俺は、余計な揉め事が起こっても嫌なので、ここは素直に通り過ぎるのを待つことにした。
ガタッ、と大きな石に車輪が乗り掛かる。彼女達の乗っている馬車が大きく傾いた。
「危ないっ!!」
俺は、馬車の側面に駆け寄り、倒れそうなところを間一髪両腕で支えた。そして、モルノを呼んで、2人で馬車を立て直す。
「も、申し訳ございません。」
御者の方が、俺たちと馬車に乗る3人に、頭を下げている。黒髪の少女は俺たちに会釈し、ペコリと頭を下げていた。金髪の女騎士は御者に向けて、鋭い目付きを放ち、強い言葉でいいつける。
「くれぐれも気を付けろ!!次はないぞ。」
それに対して、いかにも王族といった格好のおさげの少女はその態度を戒めるように言った。
「ちょっと、いくら何でも言い方が酷いんじゃありません!?見損ないましたわ!」
すると、黒髪の少女は女騎士の顔を覗き込み、心配そうに言った。
「ミレイユ、目の隈が酷いわ。ちゃんと寝てる?」
すると、ミレイユと呼ばれた騎士の女性は、首を横に振り答える。
「護衛は、昼夜問わずお守りするのが、役目だ。寝ている余裕など、ない。」
「ね、寝てなかったですの!?まさか、一度も!?」
「ミレイユ、それはダメよ。」
騎士を真っ直ぐに見据える黒髪の女性は、彼女の顔に優しく手をやり、微笑んで言った。
「ミレイユは頑張り屋さんだから、私は、しっかり休んでほしいわ。」
「わかった。休もう。」
「即答ですわ!素直なこと!」
3人のやり取りに、俺は思わず少し微笑み、声を漏らしてしまった。それが耳に入ったのか、3人はこちらに振り向く。そんな彼女たちを見て、俺は、そうだ!と提案した。
「もしよかったら、うちの村で休んでいかないか?疲れてるなら、もてなすぜ。」
3人は顔を見合わせる。
「いいんですの?」
少女は窓から顔を出して、俺に問いかけた。
「もちろん。何もねぇ、ところだけどな!」
俺は、3人ににこやかに答えた。
オークの村である。ふつうなら初めての人間は、警戒して、近寄らないものだけれど、この3人なら何だか、大丈夫な気がした。
「ミレイユ、少し休ませてもらいましょう。」
「くっ、オークの村など、信用ならん!ダメだ!」
「頑なですわ!この女!」
何だかんだで、3人は俺たちの村に少しの間留まることになった。
くぅー、くぅー………と、ミレイユは私の膝の上で寝息を立てる。チルノは村の子どもたちと楽しそうに魔法を使って遊んでいた。オークの村の人々は、嬉しそうに歓迎してくれて、ご飯まで振舞ってくれた。魔物って、怖い印象を持っていたけれど、そんなに人と変わらないんだなって、思った。
「…………これ、どうかしら?」
オークのおばちゃんが、和やかに微笑んで、クッキーのようなお菓子をバケットに入れて持ってきてくれた。ミレイユを起こさないように、おばあちゃんは、ゆっくりと、部屋に入り、私にそれを手渡してくれる。
「旅の疲れね。あんまり無理しちゃダメよ。」
「ありがとうございます。」
静かに会話をする。本当に、祖母の家に帰ったときのことを思い出す。なんだか私は安心して、段々と心地のよい気分になって、ミレイユと一緒に眠ってしまった。部屋に差す、日差しがあたたかくて、久しぶりにゆっくりと眠りにつくことができた。
レイドは静かに、声を上げる。
「魔物の討伐作戦!?」
しーっ!!とモルノは大きな声を出さないように、注意した。静かな声で話をする。
「そうだ。魔女の勢力がどうやら、大きく削られたらしい。これを好機と見て、王国は俺たち魔物ごとまとめて滅ぼそうって魂胆だ。」
「まいったな。」
「あぁ。」
レイドは、顎に手を当て、考える。
(魔女の勢力が削られた?人類がかなり劣勢だと思っていたが、ここで形勢が逆転したということか?ならば、ここで魔物が人間に加勢すれば、一気に俺たちの立場も、よくなるかもしれない。)
「…………よし。」
カンカンカンッ!と音が鳴る。
気づけばドアが開いていた。いつも食事を作ってくれているおばちゃんが顔を出して、俺たちに言った。
「ご飯だよ!あんたら!!」
おばちゃんは俺たちを急かす。
「いつも来るのが遅いんだから!いい加減、子どもの頃から変わらないのを、どうにかしてほしいね!」
「お、おばちゃん、悪い!今行くからさ。」
レイドとモルノは立ち上がり、外へ出る。
(……………ん?)
地平線に土煙が舞っている。俺は目を凝らして、遠くを見る。すると、そこには王国ユグルの旗が上がっていた。
「モルノ。」
「あぁ。」
2人は武器を取る。王国の人間は、魔物にそう優しくはないことを知っていたからだ。
ミレイユは木製スプーンで器から透明のスープをすくい、口に運ぶ。
「う、美味い。」
「ふふっ、そうかい?」
気づけば夕暮れを過ぎ、日が沈みかけていた。
「今日はもう、泊まっていきなさい。」
おじさんが優しく私たちに告げる。ミレイユはふぅ、と息をつき、返事を返した。
「………そうだな。お言葉に甘えさせて頂こう。」
オークの子どもたちがミレイユに言った。
「お姉ちゃん、今日泊まるの!?」
「明日も遊べる?」
「もちろんですの!明日もたくさん綺麗な魔法を見せてあげますの!!」
子どもたちの歓声が湧く。微笑ましく時間だ。私もスープをすくい、一口、口へ運ぶ。
「お、おいしい。」
ザッ、ザッと背後から足音が聞こえる。そこには、確かレイドとモルノという私たちを救けてくれた2人が怖い顔をして立っていた。
「今すぐ去れ。」
彼は私たちに告げる。
「ちょっと、あんたたち何を………。」
「いいからッ!!!」
尋常ではない様子に、村の人々も察して、テーブルを片付け始める。
「ど、どうしたんですの!?」
「どうしたの?お母さん?」
子どもが不安そうに尋ねる。
「早くおいで。」
母はそういうと子どもを連れ、自らの家に戻り、バタンとドアを閉める。一瞬で村を静寂が満たした。
「さぁ、早く。」
私は理由を聞く。
「一体どうし…………。」
「おや、魔物風情が人間様と仲良く晩酌ごっこか?」
私たちは振り返る。馬の嗎と共に、銀色の鎧を羽織った、騎士が現れる。そして、その後ろには、多数の兵士たちと黄金色に彩られた豪華絢爛な馬車が見えた。馬車からは、ダイヤの指輪を身につけ、赤マントを羽織った、如何にも王様と思わしき人物が降りてくる。
「おぉ、やはりそうだったか!」
その人物は、ゆっくりと此方に歩み寄る。
「ユグル王、危険です。背後の魔物共が武器を………。」
「よい。」
そういえば、モルト王国に来ていた王様のうちの一人だ。彼は私の前に来て、片膝をついた。そして、手を前にやり、粛々と言葉を述べた。
「お迎えに上がりました、英雄殿。」
村の人たちは騒ぎになる。膝をついた王が、手を差し出している。そんな光景に私は躊躇したが、手を取らないのも悪いかと考え、手を前に差し出そうとした、その時、ミレイユが横から私の手を掠め取った。
「ユグル王。久方ぶりでございます。何のご用でしょうか?」
すると、ユグル王は露骨に顔を顰め、しかし言葉は丁寧に、穏やかな声音で、言った。
「いや、近くに英雄殿がいらしていると聞いてな。せっかくなので、迎えにあがろうかと………」
「お気持ちは嬉しいですが、ご存知の通り、ガルドの地へ向かわねばならぬ遠征の最中ですので、ご遠慮いただけると嬉しく存じます。急いでおりますので。」
「……………そうか。」
王の目が影が落ちる。すると、王は背後の魔物たち、村の様子を見て、訝しむように、言った。
「しかし、随分とのんびりされているようであるな。私の見間違いかな?いよいよ魔女を討とうというときに、肝心の英雄殿をこれだけ誑かすような愚かな種族がこんなところにいたとは。」
その言葉に、ミレイユはキッと睨み、手を横に払い、村のみんなを庇うように言った。
「この者たちは、関係ありません!私たちが疲れていたところを、匿ってくれていただけです。」
「そうか………それは残念だ。」
王は背を向け、一言いう。
「やれ。」
その言葉と共に、兵士たちは松明で川葺屋の家に火をつける。
「なっ!?何を…………。」
「近頃、魔物討伐に関する役定が各国間でかわされたのだ。魔女に与する可能性のある魔物全て殲滅すべし、とな。」
まこは、大声を上げる。
「待ってください!!!この人たちはそんなことをする人たちじゃありません!!」
すると、銀騎士は前に出て、言った。
「『人』?何を言っている?」
剣を抜き、ゆっくりと歩み寄る。
「魔物に慈悲など要らん。」
ガンッ!!と音が鳴る。
槍を地面に叩きつけ、グルルルッと威嚇するように、レイドは牙をみせた。
「待つんですの!!!」
その時、重い静寂の立ちこめる中、チルノは間に立ち入って、両手を広げ、言い放った。
「わたくしは、バード王国、現国王チルノ・バードでございますの!!魔物の討伐に関する各国間で交わされたという役定、バード王国の立場として、現国王として、反対致しますの。」
すると、それを聞いた、ユグル王はニヤリと笑う。
「それは魔物に、しいては魔女に与するというということで間違いないかな?」
「そ、それは……………。」
「いい加減にして!!!!」
白く光が瞬き、辺りに旋風が吹き荒れる。まこは、変身し、鋭い眼差しでユグル王を睨んだ。
「これ以上何かをするなら私が許さない。」
ユグル王はたじろいだ後、少し考えたように、顎を摩り、それから言った。
「ならば、こうしよう。貴殿達を我が国に招待する。そして、友好の証を見せてくれれば、私としても取り計らおうじゃないか。」
明らかに何かを企んだその様子に、ミレイユは唇をかみながらも、ため息をつき言った。
「了解した。それならば、もうここは襲わんのだな。」
「あぁ、もちろんだ。」
「よ、よかったですの。」
チルノや、まこはほっと息をつく。すると、銀騎士は剣を空にあげ、呪文を唱えた。
『雨天』
すると火のかかった家屋に雨が降る様に、水が流れ、瞬く間に火は鎮火した。
「王よ、行きましょう。」
「あぁ。」
王は馬車に乗り込み、兵士たちとともに去って行く。最後に銀騎士は私達に言った。
「しばらく待っていろ。迎えを寄越す。」
村人たちは安堵から涙を流し、抱擁し合った。そして、まこたちに感謝の言葉を述べるのだった、
朝日が昇る。馬車は、3人を揺らし、ユグル王国へと旅立っていく。
「それじゃあ、行ってきますのー!!」
使者が大層な馬車で此方に乗る様にと、迎えに来たが、内部に何が仕掛けられているか分かったものではないと、ミレイユは考え、断った。それから、いつもの馬車で、ユグル国へと向かうことにした。レイドは走って馬車を少し追いかけて、手を振って、大声で言った。
「迷惑をかけてすまない!!!この恩は、いつか必ず!!!」
私たちは頷く。チルノは笑顔で手を振った。まこも、手を振る。ミレイユは腕を組み、難しそうな顔をしている。
(嫌な予感がする………それも、これまでにないくらい。)
ミレイユは覚悟をした。素直にこちらの言うことが通るとも思わない。それに、明らかに何かを企んだ様子。アビド国とおなじく、何か嫌なものが噛んでいると、そう予感した。
(上手くいけばいいのだが。)
曇天を見上げる。鳥達が反対側へと群れで飛び立っていた。
そこは、碧に苔た、ユグルの地、地下の古遺跡。
コツ、コツと足音が響く。
蒼と緋の瞳の謎の青年が、ユグル王の元へとやって来た。ユグル王は思わずニヤける。
「こ、これが魔女が賜ったという祝福の光……!」
その目的は、不死を得られるという、紫色の球体。青年が手に持ち、それをユグル王へと差し出す。
「君は、本当にこれを望むのかい?」
「もちろんだ!!早くそれをよこせ!!!」
青年の持つ紫の球体を、王は奪い取り、喰する。そしてゴクリと飲み込み、その様子を見て、青年は微笑んでいた。
「がっ………!?」
王は膝をつく。途端、王の体は痙攣し、脈打つ。そして、胃の内容物を全て吐き出した。
「ほら、頑張って。」
震え、俯く王に、視線を合わせるように、しゃがみ、青年はその様子を笑顔で眺めた。
「き、貴様………!!」
「………ダメか。じゃあ、さよなら。」
王の身体がボコボコと膨れ上がり、耐えきれなくなったようにそれは、破裂する。紫の球体がカランコロン、と地面に転がる。それを青年は拾い、齧った。
「人間はいつの時代も、儚く、愚かだよ。」
遺跡を青年は去っていく。
「もうすぐ会えるね。エバ。」
青年の背後、王の身体から、木樹が実る。
「これは………………。」
セント都市の塔の下、地下深く。レーリルは予定通り、その塔で何が行われていたのか、その実情を探っていた。辿り着いたのは、円柱のガラス張りの水槽。水が溜められていたはずそれは、ヒビ割れて、何かが逃げ出した様子が窺える。そして、辺りには、散らばる、見慣れない武器の数々。
(何、これは?)
散らばった武器のひとつを手に取る。それは、黒く長い筒。そして、中に入っていたのは、金のメッキの施された弾薬と思われる何か。手に取り眺めるが、どう扱うのか、まるで見当が付かない。
(ここは、既にもぬけのカラ。全て用済みというわけね。)
何が行われようとしているのか。嫌な予感に、額から汗を流した。
数十時間の後、
ユグル王国にて、宰相が私たちを出迎える。宰相は私たちに向かい、うやうやしく頭を下げて、言った。
「ようこそ、おいで下さいました。」
「あぁ、出迎え感謝する。」
ユグル王国の門には、巨大な木の紋章が彫られていた。門番が、ギギギッと音を鳴らして、門を開ける。そこには幻想的な光景が広がっていた。
「わぁ…………。」
「す、すごいですわ!!!」
都市の中心には、巨大な神樹。この国の全ての場所から望めるほどの、あまりにおおきな、その樹を見上げて、私たちは感動の声をあげた。
目の前には、神聖な教会が現れる。
ここは、遺跡都市ユグル。何千年も昔から、神樹を望めた、この地は、神の土地として人々に栄え、長く信仰の場として、広まっていた。王国は遺跡の真上に、建てられ、その王国地下には、特別な要人以外、立ち入ることが許されていない。
「こちらでございます。」
白く、美しい教会に、私たちは足を踏み入れた。天井には、女神と月の映し出された、巨大なステンドグラスが見える。
「わぁ………。」
「綺麗ですわ………。」
教会は暗く、ランプの灯火だけが、地上にポツポツと置かれていた。だが、ステンドグラスから映る、月の輝きが薄らと地上を照らし、女神像に、信徒は手を合わせ椅子の前で祈りを捧げていた。
騎士たちが胸の前に剣を掲げ、私たちの通る道を空けている。私とチルノは何だか申し訳なくなって、頭を少し下げる。ミレイユは真っ直ぐに前を見据え、堂々と間を通っていく。
教会を出ると、遺跡の都市らしく、伝統的なレンガの家が立ち並ぶが、そこはしかし、異様に静かで、まるで人がいないようだった。
「静かですわね。」
「そうだね。」
すると、宰相が、前を向いたままで私たちに、話しを切り出した。
「人があまり見られぬことが、気になりますかな?」
私たちは顔を見合わせて、返事をする。
「なりますわ!」
「はい!」
フォッフォッと笑い、宰相はこたえる。
「今日は、祈りの日でございます。教会に行って、祈りを捧げるか、それとも家の中で、神樹の方向に向かって、手を合わせるか。」
私たちは、顔を見合わせ、今一度目の前にある神樹を拝み、ゆっくりと手を合わせた。
ミレイユは、宰相に問いかける。
「宰相、ユグル王から何か伺ってはおりませんか?」
「いえ、それがおられぬのです。」
宰相は、ハンカチを手に取り、額の汗を拭う。そして、立ち止まり、私たちの方を向いて言った。
「昨日、帰国されてから、ほどなく地下に向かわれたようなのですが、まだ、戻られていません。」
「そうか。私達が着く時刻は目星がついているはずだが。祈りの儀式はいつもこれくらい長いのか?」
「いいえ、いつも数刻ほどで戻られます。おかしいのです。」
宰相は俯き、不安げな表情で話す。
「様子を見に伺おうとしたのですが、止められました。」
私は、誰に止められたのか聞く。
「止められたって、誰に?」
「そ、それがこの国で絶対的な権限を持つ、直属の護衛騎士ランスロット様が、王は祈りに集中しておられるから、邪魔をするな、と。」
ミレイユは眉を顰める。そして、前を向いて言った。
「…………早く向かおう。何か、嫌な予感がする。」
城門前、鎖で繋がれた巨大な橋が降りる。門が開かれ、私達は巨大な神樹の真ん前に佇む、高く聳える荘厳な城の前にたどり着いた。
ミレイユは呟く。
「銀の騎士ボールス、銀朱の騎士ガラハッド、そして黒銀の騎士ランスロット。」
「私達が出会ったのは、ボールスという騎士ですの?」
「そうだ。奴らは、この国の実権を握っている。特にランスロットは、黒騎士ベルギルスに匹敵すると言われた男だ。」
「や、やべーですの。」
「…………………。」
宰相は私たちを止めようとする。
「お、お待ちください!!この先は、チルノ様のような盟国の王女であろうと、ユグル王でなければ、祭事以外は立ち入ってはならぬことになっております!!!」
「あぁ、分かっている。だが、ユグル王がまこ、英雄が来ると分かっていて、出迎えないわけがない。」
違和感、異様に殺気立っている。それに、とんでもない魔力の残滓をこの城の下、地下遺跡から感じる。こんな状況で護衛騎士たちが動かない時点で、あり得ない。
「最悪の場合を想定しておいたほうがいい。宰相!臣下を集めろ!ランスロットに気づかれんように、早く!」
「そ、そんなに勝手をされては………畏まりました。私も、訝しんでいるのです。最近、妙に彼の様子はおかしかった。」
宰相は、俯き、私たちの元を去る。私たちは、ミレイユがその遺跡の階段までの道を知っていたようで、その場所まであっという間に辿り着いた。魔法壁で封鎖されているために、入ることはできないが、声は届くかもしれない。
「ユグル王!聞こえるか!ユグル王!!」
ミレイユは、なるべく遠くに届くように、手を前にして、大きな声を出した。しかし、反響と静寂が返ってくるばかりで、返事はなかった。
「本当に、これはまずいかもしれんな。」
ミレイユが顎に手を当てて、考え込んでいる、その時だった。
「何をしている?」
くぐもった声が後ろから聞こえる。暗く、大きな影。ドスッ、という音とともに、私たちの首筋に強烈な、衝撃が走った。
意識が遠のいていく。
顔が湿り気を帯びている。ペロ、ペロと誰かに舐められている気がした。
「うぅん…………ここは?」」
目を開けるとそこは古びた遺跡。わたしの横には、心配そうな顔をしたモコがいた。
「モコ!!」
私は体をバッと起こす。見渡すと、古びた瓦礫、その積み重なった天井の隙間から、光が溢れている。その光の先には、ミレイユが……そして、その隣にはチルノもいた。
「ミレイユ!チルノ!」
「し、しまった……………。」
「いたたたた、ですの………。」
2人も起き上がり、辺りを見渡す。
「何ですの!?ここ………。」
「ここは遺跡だ。祭事のとき、一度訪れたことがある。」
ミレイユはその場で、暫く考え込んだのち、私たちに言った。
「戻ろう。ここにいては危険だ。」
「た、確かに何か物騒なものが出てきそうで、怖いですの………。」
「そうじゃない。この状況、奴は、明らかに隠したいことがあったはずだ。それにも関わらず、あっさりとその遺跡への侵入を許している。明らかにこれは、罠だ。警戒しなければ。」
ミレイユは、あらためて辺りを見渡した。そして、暗がりの遺跡の先へと指を差す。
「あっちだ。」
ミレイユは、歩き出す。私とチルノもゴクリと息を飲みながら、それについていく。遺跡には、天使と悪魔の彫像がたたずみ、また神樹と思わしき彫刻の彫られた、巨大な石板があった。
(…………………。)
神樹の根の先には、3つの絵が描かれている。
1つは、死者が女神に祈りを捧げる姿。2つ目は、巨人が山を持ち上げ、神の脅威となる姿、3つ目は、橋を渡る神々を、女神が迎え入れる姿。
まるでそれは壮大な芸術を見せられているようで、思わず見惚れて、前を見るのが疎かになっていた。
「あいてっ!?」
立ち止まった、ミレイユの背中にぶつかる。
「ご、ごめん………。」
「…………………。」
ミレイユからの返事はない。
「な、何ですの?これ………。」
チルノとミレイユは顔を青くしている。
私は2人の向けた視線の先を、見た。
「えっ?そ、そんな…………。」
目の前に広がった凄惨な光景。
血に濡れた木。散らばる、ユグノ王の服………そして、木樹に取り込まれた彼の顔は、まるで生気を吸い取られたように、酷く青い。
「きゃあぁぁーーーーー!!!!!!」
突然、悲鳴が聞こえた。
「父様……!!父様………!!?」
ユグノの王を取り込んだ木の奥、そこには階段があった。階段の下を見ると、王女とご子息と見られる人物、そして護衛の兵士たちがいた。彼らは、声をあげて、木樹に駆け寄る。
そして、私たちを見て、血相を変え、言い放った。
「侵入者だ!!引っ捕えよ!!!」
兵士たちは、私たちを囲う。
「ち、違いますの!!私たちは…………。」
「言い訳無用だ。大人しくしろ。」
私たちは、瞬く間に手を拘束される。錠をかけられ、地面に押し付けられた。すると、ガシャ、ガシャと鎧の音と共に、めのまえに騎士が現れる。
「貴様〜〜!!!」
ミレイユは、憎しみと怒りの表情を向ける。ランスロットは何も応えず、沈黙する。兵士たちが私たちを連行しようとした、その時だった。
「な、何だ!?この獣は!!?」
「モコ!!!」
モコが兵士たちを押し退け、私たちを咥える。そして、階段を駆け上がろうとした、その時だった。
『血牙』
ランスロットが手をこちらに向ける。すると、何処からか鋭く放たれた血の斬撃は地を伝い、モコを襲った。もろにその攻撃を受けてしまい、モコは地面に、倒れる。
「モコ!!!!」
モコは、光となり、ペンダントに還る。私たちは地面に放り出され、体を打ち付けた。兵士たちが私たちに駆け寄り、再び私たちを捕える。
ランスロットは、兵士たちに告げた。
「明日、処刑を行う。」
足音が去っていく。
「牢屋に入れておけ。」
私たちは、牢屋に、無造作に、ドサッと、身体を放り投げられる。
「ぐぅっ………!?」
「痛いですわ!!」
「ぐっ………ど、どうして?」
私たち3人は冷たい牢屋の石床の上で、何とか身体を捩りあい、顔を合わせる。
「すまない。私が、無理やりにでも抵抗していれば………。」
ミレイユは、申し訳なさそうに俯く。
「そんなことしたら、余計、誤解を生みますわ!ちゃんと話して、誤解を解かないと………。」
ミレイユは、首を振って、答える。
「いいや、こういう場合、大抵は話など無駄だ。流れのまま、一方的に処刑される。」
「そ、そんな………ですの。」
「……………………。」
そう。以前、私がそうだった。問答無用で、処刑が言い渡され、あのままなら私は処刑されていただろう。一度決まってしまえば、余程のことがない限りは覆らないはずだ。
「杖を取り上げられましたわ。ミレイユも、剣を取られましたし…………。」
「私も、ペンダントを取られちゃった。本当に、どうしよう…………。」
ペンダントがなくても変身はできるか、ぎゅっと力を込めて、試したが、体は反応しなかった。ペンダントが触媒となって、私に力を与えてくれる。強い気持ちがあれば、もしかしたらあの時のように、できるのかもしれないけれど、今はできるイメージが湧かない。
(モコ……………。)
私たちを助けようとしてくれた。あの騎士の斬撃をモロに喰らってしまったけど、ペンダントから鼓動をちゃんと感じた。きっと大丈夫だと思うけれど………。
(……………あのとき。)
私はふと、思い出した。魔女と疑われて、捕えられていたとき。カラルが救けに来てくれた、あの時のことを。
その時、階段から音がした。コツ、コツと足音が房内へと響き渡り、その音は、だんだんとこちらへ、近づいてくる。
「兵士か?いや…………!?」
「あなたは!?」
「どうして?どうしてここにいますの!?」
私たちは、牢の前に現れた人物に、目を見開く。ここにいるはずのない人物、それは…………。
「お嬢、こんなところで何してるんですか?」
「ベルヒム!!!」
そう、円卓会議の時に見かけ、兵士を救出する際にも手を貸してくれた、チルノお付きの執事。ベルヒムは、頭を掻きながら言った。
「いやぁ、たまたまユグル王国に寄って来てましたね。お嬢の姿が見えたんで、こっそり城の前まではついてきてたんです。流石に、中までは入れないので、外でお嬢を待って、出てきたら驚かしてやろうと思ってたんですが…………城の中が妙に騒がしく見えましてね。お嬢がまた何かやらかしたのかと心配になって、来てみたんですよ。」
彼は懐から何処からか取ってきた鍵を取り出す。そして、私たちの牢屋を開けた。
「よかったです。案の定、やらかしたようですね。」
私たちは表情を明るくして、牢屋から飛び出した。チルノはベルヒムに言う。
「私じゃありませんの!!!完全な、誤解よ!!ベルヒム!!罪を着せられましたの!!」
「そうですか。」
すると、ベルヒムは出口の方を向いて言った。
「ともかく脱出しましょう。」
階段から足音が響く。誰か来たようだ。
ベルヒムは、指を鳴らす。すると、降りてきた兵士は、キョロキョロと辺りを見渡すが、目の前の私たちに気づいていない様子だった。
それから、ベルヒムはその兵士の目の前にいき、その額にひとつ指をトンと当てると、兵士はゆっくりと眠るように崩れ落ちた。それを優しく受け止めて、ベルヒムは私たちに言った。
「さぁ、行きましょうか。」
ランスロットは、金縁の椅子からゆっくりと立ち上がり、訝しむように耳を澄ませた。そして、剣を抜き、死体を踏み、部屋から出る。
「鼠が紛れ込んだようだな。」
部屋には血飛沫が飛んでいる。ユグルの宰相は、声をあげる寸前、血の刃に喉を貫かれた。白い鳩が青空へと飛び立っている。
ベルヒムは曲がり角で、壁際から顔を覗かせる。
「よし。行けそうですね。」
城内の廊下、壁際に沿いながら姿を隠して、静かに私たちは移動する。王が亡くなった直後だと言うのに、警戒が薄い。兵士達の姿が、ほとんど見当たらないのだ。
「不気味だな。」
「杖、探さなきゃですの。」
「先ずは、まこのペンダントだ。杖はまた取り替えが利くだろう。わたしの剣もな。ペンダントの奪還と、脱出、それが最優先だ。」
「違うんですの。あれはお父様からもらった、大切な杖なんですの。あれがなければ私………。」
「………あぁ、もう分かった。杖も一緒に、探そう。」
「あ、ありがとうですの!!」
「ミレイユの剣も探すよ。見つけて、早くこの城から脱出しましょう。」
ベルヒムは人差し指を立て、静かに呟く。
「しーっ、兵士たちが来ます。」
ゾロゾロと城の兵士たちが廊下を歩いてくる。その足取りは、まるで酔っているようで、フラフラとしていて、隊列を乱しながら、生気の宿らぬ目で、前方を見つめている。
「なんだ?様子が変だぞ。」
「不気味ですの。」
「そうね。」
ベルヒムは、その兵士たちの様子を見て、ゴクリと息を呑む。そうして、私たちに言った。
「一旦退いて、身を隠しましょう。」
そうして、私たちが後ろに振り返えり、戻ろうてしたそのときだった。
天井から影が落ちる。
『雨突』
天井から降りおりた、影はその落下とともに剣をベルヒムに向かって突き刺し、それを間一髪ベルヒムは床を転がってかわす。
「ほう、躱すとは。」
「お前は…………。」
「あの時の騎士ですの!!」
そう、銀騎士ボールス。刃に露を滴らせ、振り払う。露は地面に触れると、冷たい蒸気を上がった。
「ここからは逃がさん。」
「くっ!?剣さえあれば………。」
ミレイユは拳をぎゅっと握る。不甲斐なさに眉間を寄せ、背後から迫る兵士達に額から汗を浮かべる。
『神飛』
とたん、ベルヒムが手に持った短剣で、ボールスへと切り掛かる。そして、その勢いのまま、壁際へと彼女、ボールスを押し退けた。
「行ってください!早く!」
「すまない………!」
ミレイユと私達は駆ける。
「ベルヒム!!!」
「大丈夫です。お嬢、お任せ下さい。」
3人が通り過ぎた後、ボールスとベルヒムは剣を弾き合い、間合いを取る。
「中々、やるようだな。」
「ハァ、普段戦闘は滅多に行わないのですが…………。」
ベルヒムは姿勢を低くして構える。
「手早く終わらせます。」
ボールスはフッと余裕の笑みを浮かべる。
「できるものならやってみろ。」
私たちは階段を上る。1階から2階へ。兵士とは出会さず、話し声の聞こえる客間の部屋の前へと辿り着くことができた。耳を澄ませると、どうやら他国からの使者が来ているようで、わはははっ、と大きな笑い声が響いていた。
「約定は果たされましたな!兵士などもはや、ゾンビかというように、倒れても倒れても、立ち上がる、ほぼ不死身の存在に。これでユグル国も安泰だ。」
「邪魔な王や宰相が消え、物事の滞りもなくなった。無限に復活する兵士、外界より取り入れた近代兵器。これにより、この世界に我々に楯突けるものは、もはやいなくなる。」
あははははっ!!と高笑いし、もはや声が漏れることなど気にしないとばかりに、話を続ける。
(兵士が不死?キンダイ…‥兵器?重要な情報が手に入った。しかし、裏でここまで世界を支配しようとするものが蠢いているとは………。)
チョンチョンと、最後尾にいたチルノは何者かに肩を叩かれていることに気がつく。恐るおそる後ろを振り返ると、そこには遺跡で見かけた、ユグル王国の王妃がいた。
チルノは思わず声をあげそうになるが、その様子に焦った王妃は、チルノの口を押さえる。
「………………っ!!」
ミレイユは、チルノを助けようとするが、相手がこの国の妃であったことから、その手を止める。妃は、人差し指を立て、静かにするようにと、合図をした。
そして、王妃は、足跡を立てないよう、ゆっくりと私達3人を、自室へと案内した。
部屋の中で、妃と私達3人が向かい合って、座る。
「まずは、ごめんなさい。」
妃は深々と頭を下げる。
「あなたたちじゃないのは、分かっていたの。ただ、あの場でそれを言ったら、わたしや息子まで殺されてしまう気がして。」
妃は俯いて、悔しそうな表情をする。
「一体、この国で何が起こっているんですか?」
わたしは妃に問いかけた。妃は言う。
「この国だけじゃないわ。」
妃は真っ直ぐに私たちを見据えて言った。
「今、起こっていること、私の知る限りのことをお教えします。」
ゴクリと唾を飲み込む。
「ガラル国は、魔女の手に落ちていました。」
私たちは、妃の言葉に顔を見合わせ、コクリと頷いた。
「知っていますの。だから、国のみんなが力を合わせて、今向かっているんですの。」
「違うのです。」
妃は言った。それは思いもよらぬ言葉だった。
「最初から、魔女の手に落ちていた。とうの昔に、乗っ取られていたのです。そして、各国の主戦力がガラル国へと向かい、国の戦力が落ちていることも、英雄のあなたがこうして、掴まり、ペンダントを奪われ、力を失ったこともすべて。」
妃は、私たちを見据えた。
「奴等の計画の内なのです。」
ミレイユは、唾を飲み込み、しかし動揺せずに、尋ねた。
「計画とは、一体何だ。まさか各国の中枢が既に魔女の手に落ちていたとでも言うのか。」
「えぇ。その通り。」
妃は毅然とした態度で、言った。
「各国には既に軍隊が攻め入っているはず。ほぼ不死身の部隊、それも、未知の武器を携えて。」
「死は救済である。」
アダムは、遺跡の崩れた上階の足場に腰をかけ、天井に差し込む光を見て言った。
「そうだろ?アイリア。」
微かな笑みを浮かべる。彼は、立ち上がり、遺跡の奥へと向かった。影が彼を包んでいく。
「間違っているとは思わない。僕は、人の選択を最後まで見届けるよ。」
「何だ貴様ら。」
オークの村に立ち入る、兵士達。川葺屋は火炎放射器で焼かれ、村は火の海に落ちていた。
兵士の1人は前に出て言った。
「安心しろ。皆、死ぬのだ。」
「いいや。」
レイドは長槍を構える。そして言った。
「誰一人死なせやしない。」
兵士はニヤリとほくそ笑んだ。
モルト国、ベルトは城の庭に咲く花々に水をやる。突然、鳥たちが飛び立つ姿に、目を細めた。
ドン
と、街で爆発を起こる。街一帯が火に包まれる。人々から上がる悲鳴が街を染めた。
「我が主よ、どうか力をお貸し下さい。」
どうして、世は争いを望むのか。ベルトは己の拳に力を込め、駆けた。英雄もいない、ワーラット老も先日から用件があると言い、まだ戻ってきてはいない。ここには、自分しかいないのだ。老体の力を、限界まで、絞り出せ。ここがきっとわたしの死に場所だ。
機械の街セントにて、ワーラット老は、地平線、その境を埋め尽くす、武装兵の集団に目を細める。
「やはり、来たか。」
未知の武装、未知の戦力。おそらく、レーリルだけでは対処ができない。ここを片付けて、いち早く、モルト国に戻らねば。
「先生。」
「あぁ、レーリル。」
2人は杖をとり、構える。銃声が鳴った。
「いやぁっ!助けて!!」
「お母さん!!」
小さな町の外れ、母は兵士に腕を掴まれ、銃口を向けられていた。近くの街は焼かれ、森も火に包まれ、動物達は逃げ惑っていた。
大気を包み込むような羽の音が聞こえる。地面が震えるほどの鳴き声と共に、竜が降り立った。
「な、何だっ!?」
竜は母親の腕を掴んでいた、兵士を咥え、遠方に放り投げた。
「うわぁーーーっっ!!!!!」
竜は戸惑う兵士たちに、怒りの咆哮を向ける。
遺跡の光がアダムを照らす。
(至る所から人の悲鳴と、苦痛の声が聞こえる。だが、何故だ?人は抗い、諦めていない。)
「……………………。」
(昔、そういえばこの世界に来たばかりの頃、エバは人として生きることを選んだ。だから死んだ。)
ふいに声が聞こえる。
『アダム。私はね、人を愛しているの。』
彼はその声にハッと顔を上げた。
しかし、目の前にいない。
聞こえた声に、彼はゆっくりと目を閉じた。
「………………エバ。僕もだよ。」
アダムは、胸に右手を添える。すると、彼の身体は神樹とともに光を帯びた。彼は言う。
「聖霊よ、力を貸しておくれ。」
「ぐぅ………み、みんな。」
レイドは血に染まった身体を何とか起こし、辺りを見渡す。モルノは既に倒れ、息を切らしている。見たこともない、武具を携えた兵士たちは、俺たちに、とどめを刺そうと、その銃口の矛先を向けていた。
「死ね。」
兵士が、その武器のトリガーに指をかけようとしたその時だった。
「な、なんだっ!?」
兵士たちがとつぜん、怯えた声を上げる。俺は恐る恐る、閉じていた瞼を開くと、兵士たちが手にしていた武器のそれは、光を帯び、段々とうねうねと形を変えて、小さな天使の姿となっていた。
「う、うわぁぁぁっーーー!!!!」
天使は、微笑みを向けて、兵士たちを抱擁する。すると、彼らはその場で瞬く間に、気を失いバタバタと倒れていった。天使たちは微笑み、俺たちの元へ近づく。そして、体に優しく触れた。
「こ、これは………っ!」
傷が、みるみると回復していく。瞬く間に力が溢れ、立ち上がれるようになった。
「あ、ありがとう!!」
礼を言うと、天使は、空へと還って行った。
「お母さん!!」
「えぇ、神様が来てくださったのね。」
2人は抱きしめ合う。天使が空に昇っていく。
竜は、傷を癒え、静かに休んでいた。
機械の街セント。
月老のワーラット、魔術師レーリルが襲撃に際し、対処にあたる。
「いかに未知の武具とて、極まりし魔術の前に敵はなし。」
兵士達は地に伏せる。幾万の兵は無力され、武器の数々も全て使い物にならなくなっていた。
「先生、大人げないですよ。たかが、武器を持った兵士に、月の魔術まで使うなんて。」
「油断は禁物じゃ。レーリル。使える術はすべて使う。それが、魔術師たるものの努めじゃ。」
「ウフフッ、先生らしくていいわ。昔の授業を思い出します。」
ワーラットは、モルト国へと意識を向ける。既に、戦火が上がっている。向かわねば。
「レーリル、後は頼んだぞ。」
「はい、先生。」
モルト王国、血を流した城の騎士たちが、突如現れた光に、不思議な表情をして立ち上がる。侵入してきた、兵士たちは、その光に包まれ、倒れていった。
「むぅ、これは神の御技か。」
ベルトは、傷を負った己の肩に天使がそっと触れるのを、見た。すると、瞬く間に傷は治癒し、力と気力が身体に戻っていくのを感じた。
「………あの時といい、神は我々を見捨ててなどいない。着実に、平和へと歩みを進めておりますぞ。我が主よ。」
兵士たちは歓喜の声を上げる。空は太陽の光が瞬き、地上を明るく照らしている。カラルと、リベルトは、安堵の笑みを浮かべ、抱きしめあっていた。荒れた城にはしかし、人々の希望が溢れている。
アダムは、人々の声に、胸を撫で下ろした。そして、遺跡の階下、訪れた人物を見下ろす。
「やぁ、久しぶりだね。」
そこには、魔女、そしてガルド王の姿。
「アダム。貴様………ッ!!」
「僕は、人類に味方するよ。」
魔女はその言葉を聞いた瞬間、爪を鋭く伸ばす。
「ならば、死ね。」
「このユグルの地は、神の地。その根は、巨人の国、死者の国、神の国へと通じています。魔女の目的は、恐らく死者の国へと至り、魂を呼び戻すこと。」
妃は私たちに言った。
「死者の国?ですの?」
「えぇ。亡くなった安らぎの魂達が、憩う場所。きっと愛するものの魂がそこにあると、考えているのでしょう。」
「それよりも、早くモルトに戻らなきゃ!!みんなが!!!」
ミレイユは、立ちあがろうとするまこを手で止め言った。
「いや、大丈夫だ。」
「えっ?」
ミレイユは懐から結晶石を2つ、取り出す。
「護衛騎士として、祖国に危険が迫った場合、主を一時的に国から遠ざけるために、持つ代物だ。先ほどロイド王国と、モルト国に酷く魔力が揺らめいていたが、今は安定している。失われてもいない。きっと、何とかなったのだろう。」
「で、でも……………。」
「今は、とにかくペンダントを取り戻すこと。話はそれからだ。………それにしても、ランスロット。忠誠高く、誉ある騎士だと聞いていたが、まさか謀反を起こすとは。」
「……………想い人が、死んでしまった。多分、そのせいだと思います。」
私は、俯き暗い表情をする妃に尋ねた。
「想い人、ですか?」
妃は頷く。
「えぇ、とても明るい人でした。この国の王女です。ガルドから来た私を、誰よりも暖かく迎え入れてくれた。本当に優しかった。」
「ガルドから………?」
「そうなんです。私は、いわば政略結婚であの人と結ばれました。………でも、良い人だったんです。あの日までは。」
「……………あの日。」
「そう、あの日。彼女が、何者かに攫われ、亡くなってしまった、あの日。あの日から、ランスロットも、あの人もおかしくなってしまった。」
「…………先ずは、まこのペンダントだな。この国の事情はあるにせよ、ガルドへの出征が何者かに仕組まれていたのであれば、一度モルト国に戻らねばならない………だが。」
ミレイユは眉を顰める。
「…………どうしましたの?」
「禍々しい魔力を近くから感じる。これは………。」
「…………あなた方の所持品なのですが、杖と剣は大きくて持ち出すことができませんでした。しかし、これを。」
すると、妃は懐から取り出す。
「ペンダントを何とか持ち出す事には成功しました。」
一瞬の静寂、その後うおぉーーー!!!と3人は声をあげた。
「や、やりましたの!!!」
「えっ、そ、そんなにすごいものだったんですか?」
ミレイユは、まこの顔を見る。
「まこ。」
「えぇ、あとは、任せて。」
まこは、ペンダントを受け取り、自身に身につける。
「ランスロットも、この城で起こっていることも、私が何とかする。」
まこは、胸にさげたペンダントを握り、光に包まれる。
「さぁ、行きましょう。」
「ハァ、ハァ……………」
「もう、息も辛かろう。」
辺りには氷の蒸気が漂っている。それは凍てつき、ベルヒムは身体機能が著しく損なわれていることに、気づいた。
(この蒸気、魔力が込められているのか。)
体が鉛のように重い。兵士達は妙にタフだ。斬っても、斬っても立ち上がって来る。ボールス自身の純粋な高い戦闘能力に加えて、無限に湧く兵士達を、この身体の状態で凌ぐのは至難の業だった。
(お嬢は、無事なのだろうか?)
すぐに向かうつもりが、情けない。俺が、守ってやらなきゃ…………こんな時くらい、俺が守ってやらなきゃ。お嬢はそれを信じてるんだから。
(「お嬢、ちょっとは修行したほうが良いんじゃないですか?」
「…………どうして?」
「どうしてって、敵が来た時に狙われるでしょ。王女様なんだから。いざという時のために、強くなっておいて損はないですよ。」
「問題ありませんの。」
「問題ありますよ。だって…………」
私が振り向くと、お嬢は私の前に立っていた。そして、とびきりの笑顔で言ったんだ。
「いざという時は、あなたに任せますの。私は、戦いよりも、人を笑顔にする魔法が好き。だから、わたしは世界中の人を笑顔にする旅に出るんですの。」)
本当は身体に火がつきそうなほど、ずっとそばにいたい。だけど、勝手に抜け出していなくなるし、気づけば国に覚えの無い、感謝状が届いていたりする。それもこれも、全部あなたが人を笑顔にしてきたから、自由奔放で、それでいて誰よりも人のことを考えている。誰よりも王様らしい、王様だから。
低く姿勢を構える。
『神飛』
「その技はもう見切った。」
(既に身体も限界。身体機能も地まで落ちている。その状態で繰り出される技など、たがが知れている。)
ボールスは迎え撃つ構えを取った。
(………………は?)
だが、既に刃はその鎧を貫いていた。
「……………お嬢。今、向かいます。」
背後で、ボールスが片膝をつくのを確認する。ベルヒムは、階上へ意識を向ける。恐らく、階上にお嬢達はいるはず。兵士達をまいて、さっさと駆けつけなければ…………。
「終わったと思ったか?」
背後に悪寒を感じる。振り返り、短剣を盾にするが、凄まじい衝撃と共に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
(な、なんだ………?)
ベルヒムは霞む目を、その相手に向ける。黒い霧が纏わりつき、先ほどまでとは明らかに違う、邪悪な魔力を感じる。
「なるほどな。いい力だ。」
ボールスは手を握りしめて、その力に酔いしれるように、笑い出す。
(まずいな。意識が朦朧とする。)
ベルヒムは立ちあがろうとするが、よろけて膝をつく。見上げるとすでに、ボールスは剣を掲げ、とどめの構えへと移っていた。
「くっ……………。」
「安心しろ。間も無く、皆平等に死を迎える。ほんの少し早いかどうかだけだ。」
「なんだと!?」
剣が振りおろされる。ベルヒムは眼を瞑り、死を覚悟した。だが……………
ドゴンッ!!!!!
とてつもない衝撃音と共に、目の前からボールスは消えていた。かわりに立っていたのは…………
「また、救われましたね。」
頼もしい、英雄の立ち姿だった。
ダッ、と走る音が聞こえる。
「ベルヒム!!!ベルヒム!!大丈夫ですの!!?」
お嬢が泣きそうな顔をして、私を抱き抱えた。
「お嬢、すみません。わたしは…………」
「無理をしないで欲しいですの。」
ガラッと、音がして瓦礫のなかから、ボールスが立ち上がる。
「マキア。どうやら、力を取り戻したらしいな。」
「えぇ、おかげさまでね。」
ボールスは、手を空に掲げた。
『氷星』
パキパキと、地面が凍っていく。ボールスの手の上には巨大な碧の魔力に覆われた、星のような氷の塊が、現れていた。
「凍るがいい。」
手を振り翳し、放たれたそれは敵の兵士をも巻き込み、通過した場所を氷らせていく。
(後ろにはみんながいる。)
私は走り出す。そして、思い切り拳を振りかぶって、巨大な氷の球体にぶつけた。
「……………なるほどな。」
ボールスの目の前には、自身の最大の魔術をいともたやすく押し除けた、英雄、マキアの姿があった。
「まだ、やる?」
マキアの問いかけに、ボールスは答える。
「いいや、もう、いい。」
ボールスは背を向け去っていく。
「また、会うだろう。」
玉座にて、銀の鎧に朱の紋章が刻まれた騎士は、ゆっくりと腰を上げる。目の前には、父、ランスロットの姿があった。
「今から、遺跡へと向かう。」
ランスロットの言葉に、ガラハッドは疑念を投げかける。
「何故だ?」
「用ができた。ガラハッド、腕輪を取れ。」
ガラハッドは、ため息をついた。
「それで?英雄の相手をしろと?」
「あぁ。」
「仕方ないな。」
部屋の奥、壁に立て付けられた、黄金の腕輪を手に取り、ガラハッドは部屋を出る。
「ベルギルスを討ち取った英雄。悪くない、か。」
鎧の奥に不気味な笑みを浮かばせる。ドラウプニルの腕輪が暗闇に光る。
「ちょっと、まずいですの〜〜!!!」
「くそっ!!数が多すぎる!!!」
「こっちです!!」
私たちは、妃の案内する部屋に逃げ込む。兵士達は気づけば、数を増し、私たちに襲いかかってきていた。妃はバタンッと、ドアを閉め、私たちを部屋に入れると、鍵をかける。すると、思いの外頑丈なのか、ドンドンと音はなっても、兵士たちは入ってこれない。そこは、古びた教会。ステンドグラスから光が差し込み、私たちを明るく照らしている。
「ここは古くからある教会。」
妃は向き直り、私たちに言った。
「避難場所として、用意されていましたから、生半なことでは入ってこれません。しばらくは安静でしょう。」
「そ、そうなんですね。」
私たちは、ホッとして、胸を撫で下ろす。
「ぐっ………。」
ベルヒムは床に、体をもたげた。
「大丈夫ですの!?」
「すいません、少し、休ませてもらいます。」
王妃は言った。
「ここなら心配ありません。ゆっくりとおやすみください。」
私たちは、教会の椅子に座り、休息を取る。兵に追われて、随分と城の中を駆け回った。
「ここからどうしますの?」
「そうだな。一旦、この城から出たいところだが、おそらく外は囲まれているだろう。」
「私が、何とかしないと。」
そう、今戦えるのは私。でも、相手が一般の兵士となると、力加減が上手く効くかわからない。万が一、それを誤ってしまえば、冗談抜きで、相手が命を落としかねない。だから、戦えない。
ミレイユは、深く考え込んでいる様子の私を見て、ふぅっとため息をついて言った。
「私が囮になろう。」
その言葉に、私はミレイユの目をまっすぐにみて、言う。
「ダメ。それだけは。」
「囮なんて冗談じゃありませんの!!みんなで一緒に逃げるんですの!!」
ミレイユは、その言葉にフゥ、と優しくため息をつき、微笑み、言った。
「私は、護衛騎士だ。いざという時には、守るべき者のために動かねばならない。それは私の使命なのだ。いや…………。」
ミレイユは私たち2人を見つめる。
「どうか無事でこの城から抜け出してくれ。まこ、チルノ。」
カランコロン
と、教会の床に、何かが転がり落ちる。
「えっ?」
みると、それはチルノの杖だった。
「こんなところにあったんですの?どうして………」
チルノがそれを拾おうとする。
「「危ない!!!」」
ガラガラと崩れ落ちる天井付近の壁、そこから一人の騎士が降り立つと同時に、剣を振るう。間一髪、ベルヒムそれを受け止めるが、あまりの衝撃に、身体ごと吹き飛ばされる。ミレイユがチルノの前に立ち、両手を広げ、立ち塞がった。
「ミレイユ!!!」
「…………すまない、まこ。」
グサッ、と聞きたくない音が聞こえた。
騎士は言った。
「チッ、邪魔が入ったか。」
血がポタポタと、地面に滴り落ちる。ミレイユは地面に膝をつき、ゆっくりと倒れた。
「ミレイユ…………?」
私は目の前視界が揺らぐ、グワングワンと、まるで現実のことでないように、頭が回る。
「逃がさんぞ。バード王国の女王。」
「ひっ………!?」
躊躇いなく、剣が振りおろされる。
バゴッ!!!!!
鈍く、激しい音が鳴る。
「……………………。」
まこの放った拳は、騎士の顔面を捉え、地面に、強烈に叩きつけた。教会全体が揺らぐ程の衝撃。まこはただ騎士を見下ろした。
「…………流石だ。」
騎士はじんわりと黄金の光に包まれると、その姿がまるで幻影であったかのように、教会の前方、壇上へと姿を移す。
「この腕輪が無ければ、死んでいた。…………いや、かろうじて生きてはいたか。甘いのだな、マキアよ。」
「…………………。」
キッ、とまこは、睨む。そして、ミレイユの方へと目を向けた。…………息がある。だが、この傷では。
「大丈夫。致命傷を外してあります。」
ブワンッ、と淡い光が王妃の手に現れる。すると、ミレイユの傷は段々と塞がり、次第に表情は、安らいでいった。
「ガラハッド。見損ないましたよ。」
王妃は、ガラハッドを睨む。
「……………………。」
ガラハッドは無言で、腕輪を胸の前に掲げ、光を帯びさせる。そして、わたしを見て言った。
「貴様の力、父や、あのベルギルスに匹敵するのだろう。だが…………。」
光は形をなし、騎士の前に現れる。
「これは、どうだ?」
「そ、そんな………ですの!?」
チルノは驚愕の表情を浮かべる。わたしは目を細め、それを見た。
『……………………。』
現れたそれは、写し身。これまで困難を乗り越えてきた、英雄、マキアの姿。しかし、眼は赤く、意思は希薄にみえる。
ガラハッドは言う。
「さぁ、始めようか。」
強烈な一閃、ガラハッドの斬撃が地を抉った。まこは、跳び退いてかわすが、すかさず写し身のマキアが追撃を仕掛けて来る。
「ぐっ…………!!」
『……………………。』
まこは、空中で腕を掴まれ、地面に馬乗りの状態に押し付けられる。
ぐぐっと、力を込めて押し込まれるが、身を横に翻して、まこは躱す。ズドン!と写し身の拳が地表へと突き刺さる。
「……………………。」
まこは、流れ落ちてきた汗を拭う。やりにくい。自分と戦うのは、何だか不思議な感じだ。
「逃げてばかりで、仲間はいいのか?」
ガラハッドの視線が、ミレイユとチルノの方へと向かう。私は、一瞬気を取られ、態勢が崩れる。その瞬間、ガラハッドの姿は光を帯び、気づけば、まこの背後へと移動していた。
「油断したな。」
ガラハッドは横に一閃を振るう。まこは、上に跳んで何とか避けた。だが…………。
「………………くっ!?」
目の前には拳を振りかぶる、写し身のマキアの姿があった。私は手をクロスさせ、防御の構えを取る。
ガッ
一瞬何が起こったのか、分からなかった。腕の痛みと共に、遠方の地面に強く、強く叩きつけられた。目の前には、小さくなった、城が見える。飛ばされた距離は、おおよそ500メートルくらいだろうか?
「いつつ……………」
私は、頭を掻きながらなんとか起き上がる。ここは、城に来るときに通った、大きな中央道路だ。人々が、何事かと家から顔を覗かせて、出てきた。
「ダメ!!!出てこないで!!!」
スタッ
と、少し離れた場所に彼女は降り立つ。まずい。周囲には人がいる。何とかしないと。
しかし、写し身の彼女は、お構いなしに、私に右の拳を横に振り抜きてきた。私はその手を取り、背負い投げる。
「えっ!?」
しかし、彼女は、背負い投げの最中、空中で上手く体勢を立て直し、逆に私が腕を掴まれ、放り投げられた。
「……………ぐっ!?」
私も空中で態勢を立て直し、何とか地面に足をつける。
(強い………………。)
まるでもう一人の私と戦ってるみたいだ。………いや、実際、そうなんだけど。
間髪いれず、彼女は迫りくる。
(やるしかない………!!)
ガシッ!!!と、私たちは正面から両手を掴み合い、ぶつかり合う。衝撃が辺りに広がり、大気が揺れる。レンガ屋根が崩れ落ち、人々の悲鳴があがる。
(いけない…………っ!!)
何とかしようと、目の前の私に目を向けた時、ふと視線が重なった。
(かわいそうに…………。)
その目は、何も映していない。戦うためだけに生み出されたのだ。
「…………………………」
私は、手から力を抜く。すると、『私』は私を押し倒して、ふたたび、馬乗りになる。そして、その拳を構え、振り下ろそうとした。
『……………………』
しかし、その拳は止まる。
ポタ………ポタッ………、と涙がその頬からこぼれ落ちた。
「そうだよ。無抵抗な相手をどうにかできるほど、わたしは強くないもん。」
そして、わたしは彼女をぎゅっと抱きしめた。
「それに、本当はこんなことしたくないんだよね。ごめんね。大丈夫。戻っておいで。」
すると、彼女は光に包まれる。光は、私の中に収まった。
ザッ、と目の前にはガラハッドが現れる。
「見事だ。」
わたしはガラハッドに、キッ、と睨むような眼差しを向ける。彼は胡座をかいて座り込み、剣を地面に置いて、言った。
「幼い頃、母が亡くなった。」
彼は続けていう。
「バード王国の騎士団長によって、殺されたのだ。」
ダダダッと走る音が聞こえる。
「大丈夫ですのー!!?」
「えぇ!大丈夫!………ミレイユ!!」
まこは懸命に走ってきたミレイユに抱きついた。
「わわっ………まこ、無事だったか?」
「えぇ!ミレイユも、もう大丈夫なの?」
まこはミレイユの身体を隈なく、見渡す。
「あぁ、この通りだ。心配ない。」
「よかった。」
まこは、とびっきりの笑顔で、ミレイユにもう一度抱擁する。
「フフッ、まこ。………ちょ、ちょっと力を緩めてくれないか?」
「あっ!ごめん!!」
変身後なのを忘れて、力加減を誤ってしまっていた。
「まこ、ありがとう。」
「えへへっ、どういたしまして。」
「ちょっと、2人とも!!敵が目の前にいますの!!」
私たちはガラハッドへと目を向ける。
「そろそろか、一体どうなるか。」
ガラハッドはボソッと呟いた。
「どうなるか………だと?」
ミレイユは眉間に皺を寄せる。もうこの男には敵意を感じない。だが、何かを企んでいることは分かる。一刻も早く、ここから立ち去らねば。
「な、なにっ!?」
ゴゴゴゴゴゴッ………………と地響きが鳴り、地面が揺れる。
「言い残すことはあるかい?」
遺跡地下、跪く様に額から汗を流し、唖然とし、俯くのは、大魔女の姿。そして、憐れむように見下ろすのは、アダムの姿であった。アダムはいう。
「僕なら君を死なせてあげられる。」
「黙れ…………。」
魔女は力を入れ、何とか起きあがろうとする。アダムは少し寂しそうな顔をして言った。
「…………死なせてあげられると言っても、君が望むような物にはならないけれど。残念ながらね。」
彼は神樹を見上げる。背後で、呻き声を上げる、男がひとり。
「ば、馬鹿な………。」
男は光の無数の小槍で、両手を貫かれており、地面に拘束されている。そして、その後方では1人の騎士が佇んでいた。
「君は?」
「…………………。」
騎士は無言で状況を見据えている。
「…………まぁいい。それじゃあ、終わりにしようか。」
「待て。私は、わたしは会うまで………ふたたび家族に会うまでは…………。」
アダムは俯き、慰めるように言った。
「君は既にこの世に在るべきではない生命だ。よく頑張ったよ。僕は君をずっと見ていた。」
「うるさい。私は……………」
魔女は魔力を込める。
「私は、『災禍の大魔女』だ。」
「…………そうかい。」
ゴゴゴゴゴッ、と地面が揺れる。魔女の下半身から木樹が生え、地面を貫いていく。
「最後の戦いだ。アダム。」
「あぁ、終わりにしよう。これまでの悲劇を、そして、これからの運命を。」
私たちは目を見張る。
ズガァンッ!!と地面が割れ、地中から巨大な木樹が這い出た。私がこの世界に来たあの時の光景とおなじ。そう、大魔女。私の宿敵。アレンの仇。…………………いや、違う。
『お願い、お母さんを、助けてあげて。』
『本当は、誰も傷つけたくない、優しいお母さんなの。』
たくさんの人を殺した。決して許されない程の、罪を犯した。それでも、私は、止める。
止めるんだ。止めて、救う!!!!!
「させんぞ。」
いつの間にかガラハッドの後ろには、ランスロットが立っていた。剣を抜き、気迫のこもったその立ち姿には、何としてでも成し遂げんとする意思が宿っていた。
「父上、もうやめましょう。」
ガラハッドは、座った姿勢のまま背後にいる父に言った。哀愁漂うその姿は、父を想う気持ちの表れだろうか。
「民を想う気持ちも、母に会いたいと想う気持ちもわかる。だが、どう考えても間違えている。魔女に、あいつらに汲みするなどやはり、母への裏切りに他ならない。」
「黙れ!!!お前に何が分かる。」
ランスロットは、剣を構える。
「リーリアが待っている。死んでもらうぞ、モルトの英雄。」
「邪魔をするなら、いいわ!!目を覚まさせてあげる!!」
私は、構えを取る。目の前の、どこか悲壮感の漂う、ランスロットのその姿には、同じく想い人を亡くした、ベルギルスが重なった。
昔のことだ。私の国は、魔女の襲撃を受けた。分厚いレンガの壁に向こうに、いるように母に言われ、隠れていた。すると、感じたことのない衝撃が走る。鼓膜の破れる程の大きな音の後、壁の向こうを覗くと、家族は灰となっていた。
何もない街を歩く。呻き声と、泣き声と、悲痛な叫びが今でも耳に残るように響いた。身体中に焼けるような痛みを感じながら、目の前に見える家族の面影を見て、歩き続ける。
「みんな……………」
その時だった。ふと、母親の姿が見えた。私を抱きしめる母親の姿が。
「もう大丈夫よ。恐かったね。辛かったね。」
身体から力が抜け、ただ身を預ける。そのぬくもりと、優しい言葉が私の不安を拭ってくれた。意識が、ふと途切れる。
次に目が覚めた時、私は病院のベッドの上にいた。
「あら、おはよう。」
目の前には、知らない女性。すると、扉がバンッ!と開き、開いた扉の奥から声がした。
「リーリア様!!またこんな所に来て!!」
すると、目の前の女性は、反発するように、大きな声を上げて言った。
「マノル!こんな所とは何ですか!!怪我をした子どもの様子を見にきて、何が悪いのです!!」
「お嬢様が、お城から離れる度に、私がどやされるのです!どうか、ご勘弁下さい!」
「それはお父様に言っておきます!何もおかしなことはしておりません。城のみんなが頑固なのよ!!」
私は、目の前の女性に、声をかけようとしたが、なかなか声が出なかった。喉が焼けているようだった。彼女は、私を見て、無理に声を出さなくていいと言った。しかし、私は絞るように何とか声を出して、伝えた。
「あ、り………あり、がと、う。」
彼女は、涙を流し、また抱きしめてくれた。そう、あの時私を救ってくれたのは、抱きしめてくれたのは彼女だったのだ。リーリア姫、現在のユグル国、妃の若き日であった。
その後、私は戦争孤児の兵士として、国に雇われることとなった。周囲には、自分のおなじ境遇のものも多く、思いのほか心安らぐ日々を過ごすことができた。勿論、戦場に駆り出されることも、多かったが、その分戦果を上げれば、褒美がもらえる。悪くない生活だった。
「もう、また怪我をして!!」
怪我を負い、病院に運ばれると、必ずリーリア様がわたしの様子を見に来てくれた。その度に、彼女の悲しそうな表情と、不安の募る声が私の胸を締め付けた。
(…………………。)
強くならねばならない。そう決心した。
それからしばらく時が経ち、
「こんなところでなにしてるの?」
「あぁ、この子の羽が、傷ついていたから手当をしてるんだ。………って、リーリア様!?」
「久しぶりね。ランスロット。」
魔女の配下の魔物とのヒグノの地での防衛戦。その佳境を終え、久方ぶりにユグル国に帰ってきていた。羽の傷ついた小鳥を治療していると、リーリア様が私を見つけ、城から降りてきた。
「また、怪我をしてる。」
大したこともない切り傷だったので、放置していたが、リーリア様は私の身体を見て、不満気な表情で、そう言った。
「この程度、どうということもございません。」
「見せて。」
彼女は、私の腕をとる。
「……………っ!?」
「ほら、痛がってるじゃない。」
リーリア様は持ってきていた、包帯を私の腕に巻き、パンッ!とひと叩きして、笑顔で言った。
「これからは、あなたが怪我をしたら、私が手当します。」
「えっ!?ど、どうして…………?」
「どうしても何も、あなたのことが心配だからよ。」
「治療は、医務室でできます。わざわざ、リーリア様の手を煩わせずとも………」
「あぁ!もう!ほんと、鈍感ね!」
リーリアは、目を背けながら、恥ずかしそうにして言った。
「好きなのよ!あなたの事が!!」
「……………ええっ!!??」
幼い頃からそう言ったことを経験してきていない私は、酷く狼狽えた。そもそも、孤児でこの国に拾われた私が、彼女に贔屓目にされていること自体、周囲からの目は必ずしも良いものではなかった。それが、そのような関係を持つともなれば、それはきっと許されることではないのだろうと、思った。
(リーリア様…………。)
しかし、それとは裏腹に彼女への想いの丈は日に日に募っていく。いつしか人目を盗み、2人で遠出をし、蜜月のときを重ねるようになった。
「えへへっ、これ。」
「……………………」
花畑、リーリアは私の頭に花の冠をつけ、微笑みかける。
「大好きよ、ランスロット。」
「……………私もです。」
この時から、私は彼女を、愛することを決めた。たとえそれが、許されぬ罪であったとしても。
パンッ!と、城内に響く鈍い、音が鳴る。
「おやめ下さい!!!」
マノルが、王とリーリアの間に入る。
「この!馬鹿娘め!!異国の兵士などに誑かされおって!!!」
王は激怒した。噂が広まり、とうとう王の耳に入ってしまったのだ。しかし、リーリアはその言葉に、キッと王を睨みつけて、言い返した。
「異国の兵士?訂正してください!!!ランスロットは、我が国のために命をかけて戦った、立派な騎士です!!!我がユグル国の、かけがえのない民の1人、そして、わたしの恋人です。」
「……………二度と会うことを禁ずる。」
王は、そう言って去っていった。リーリアは自室へと篭り、三日三晩、涙を流し続けた。
そんなある日のこと。
コンコンッ、と窓のそとから音が鳴る。リーリアが目を向けると、そこには窓辺に手を掛ける、彼がいた。リーリアの表情は明るくなり、彼女は走って、窓の扉を開ける。すると、バッと、その窓を開けた勢いで彼は上階から落ちそうになったが、リーリアが手を繋いで、引き止め、2人は、ひしと窓辺で、抱きしめ合った。
「これ。」
ランスロットは、指輪を、彼女に渡す。だが、リーリアはその指輪を暫く眺めてから、ランスロットに返した。
「や、やっぱりダメかな。」
彼は、俯き表情を暗くする。しかし、リーリアは、少し怒った様子で、彼に告げた。
「何言ってるの!指輪はね、運命の相手がそっと慈しむように付けてくれるものなの!一生に一度のことなんだから。窓際でそんなポンと渡されたって、納得できません!やり直し!!」
その言葉に、ランスロットの表情は明るさを取り戻し、彼はしっかりと、部屋に入り、彼女の前で膝をついて、彼女の目を見て、言った。
「僕と共に人生を歩んでほしい。」
「はい。」
「愛してる。」
「私もよ。」
「ずっと一緒にいよう。」
「えぇ。ランスロット。」
指輪を指にそっと優しくつけ、2人は影を重ねるりそして、しばらくの後、彼女は、微笑み、指輪を嬉しそうに眺めて言った。
「攫ってくれる?」
ランスロットは少し驚いた顔をしてから、安堵したように言った。
「えぇ、勿論。」
それから幾日かが経ち、嵐の日、城を抜け出して、2人は外へと駆け出した。
「リーリア!絶対離さないで!!」
「うん!分かってる!!」
氾濫した川に掛かる橋を越え、道を塞ぐ土砂を越えて、何度も転びそうになりながらも、諦めず、その手を離さないよう、握りしめ、懸命に走り続けた。そして、ようやく、国を抜け、大きな湖の前、嵐の晴れた空を見る。
「綺麗ね。」
「あぁ。本当に。」
そうして、私たちは共に人生を歩む覚悟を持って、前に進み、2度と国には帰らぬつもりだった。
あの光景を見るまでは。
その日の夜、山頂から見下ろした城の景色。それは、忘れたくても、忘れられぬ、幼き頃、あの時の悪夢そのものだった。
「あぁ、そんな。」
火に焼かれる。魔女の襲撃。そして、阿鼻叫喚の都市の様子を、俺は、ただ眺めていることなどできなかった。
「リーリア、俺、戻るよ。」
「ダメ!!待って!ランスロット!!」
「アハハハハッ!!!」
魔女の高笑いが空に響く。すでに国は炎に包まれ、死者は数えきれぬほどに多く、どの兵士も満身創痍となっていた。
蛇のようにうねり襲い来る木樹を、俺は、叩き斬る。しかし、魔女は私に一瞥をくれただけで、気にも止めず、その身体を鞭のようにしならせ、俺の身体を吹き飛ばした。
「ぐぅ……………っ!?」
打ち付けられ、身体に痛みが走るが、何かがおかしかった。それどころではない身体の異変に、戸惑う。
(体が焼けるように熱い。一体何だというのだ?)
思うように体が動かない。こんな時だというのに。俺がこうして倒れている間にも、魔女は、街を炎に焦がし、人々を苦しめていく。
「俺に、もっと力があれば…………」
もっと力があれば、あの時、俺の家族は死なずに済んだのだろうか。街の人々の笑顔が、日常が、消えずに済んだのだろうか。次々と暖かな、優しい想い出が、炎に消えていく。
(いやだ、俺は……………)
魔女の高笑いが、脳裏に響く。
「うおあぁぁぁぁーーーーー!!!!!!」
力を振り絞り、俺は、魔女に斬りかかった。
ドスッ………と鈍い音が下で響く。
「もう諦めなさい。」
「が、あぁっ……………。」
魔女の一撃は、俺の腹部を貫通し、体の真ん中に大きな穴が空いた。先程とは違う、炎に包まれるような熱さが、身体の内側から広がる。
(また、失うのか…………。)
ずっと家族が欲しかった。あの日から、家族を失ったあの日から、喪失感に苛まれていた。だが、俺の心にぽっかりと空いた穴は、少なくともここで過ごした仲間たちが、癒してくれた。だが、俺はその仲間たちを裏切り、リーリアと共に、この国を出た。
(その、罰か…………。)
「ランスロット……………?」
声が聞こえる。リーリアの声だ。リーリアは俺に駆け寄って、身体を抱き抱える。身体に負った負傷をみて、リーリアは青ざめる。
「嘘よ。………ねぇ、お願い。」
(何故、逃げなかった。殺される。)
すると、リーリアは私を抱きしめて、耳元でこう囁いた。
「ねぇ、ランスロット。これから2人で生きていくって、約束したよね?愛してるって、ずっと一緒にいようって…………。」
リーリアの涙が、倒れた俺の頬に伝う。
(…………そうだ。俺は、リーリアを愛すると、人生を共に生きると、誓った。)
「………………何故、立ち上がる?」
魔女は俺に問うた。
剣を地面に突き立て、半ば倒れる身体を支えるようにして、俺は立ち上がる。身体の感覚はもう、ほとんどない。視界もほとんど。
「やめて!!!もう立ち上がらなくていい!!お願い。もう頑張らないで。」
リーリアが俺を止める。しかし、ここで倒れれば、そのまま魔女の刃はリーリアに向くだろう。
血が夥しく、地面に溢れている。
(血………?そうだ。血だ。血に、魔力を通わせれば、ここから動けずとも、出来ることがあるんじゃないか?)
「いい加減、くたばれっ!!!!」
魔女の鋭利な木樹の攻撃が迫る。俺は、血に魔力を注ぎ込む。すると、血は自分の体の一部のように、まるで切れ味のいい刃のように、木樹を両断した。
「な、なにっ!?」
俺は、手を前に向け、魔女に向かい全ての力を注ぎ込んだ。
『血牙』
血は、魔女の腹部を穿つ。魔女は身体を折り曲げ、口から夥しい血が流れ出る。
「……………ば、馬鹿、なっ!?」
魔女は地面に伏し、こちらを睨んだ。互いに一歩も動けない状況。しかし、魔女の身体は突如、光を帯びる。空を見ると、魔術師と思われる者が、杖を振り翳していた。
俺は、手を前に翳し、構えを取った。そして、魔術師を強く睨みつける。すると、魔術師は焦った様に、魔女を光で手元へと呼び寄せ、ユグルの地から去っていった。
(まぁ、これ以上俺に何もできる力は残っていないんだけどな。)
何とか虚勢を張ったことが、功を奏した。こうして、俺たちは何とか、魔女の襲撃を退けた。だが……………。
「ランスロット!!!!」
「悪い。リーリア、俺はもうダメみたいだ。」
リーリアが俺を抱きかかえ、大粒の涙を流す。
「ま、魔女が退却した…………。」
すると、一連の流れを見ていた兵士たちが、声を上げる。
「ランスロットが………ランスロットが魔女を撃退したぞ!!!」
瞬く間にその声は広がっていき、程なくして、街は、歓喜に包まれた。それと共に、人々は俺に駆け寄り、何とか生かそうと治癒の魔術を持つものを集める。………とはいえ、こんな体に空いた大穴を埋めるほどの、技術を持つものは、どこにもいない。
「ランスロット、諦めちゃダメ。」
リーリアは俺の手を握り、魔力を込める。すると、それまで塞がらなかった腹部の傷がみるみると塞がっていく。リーリアは、俺が怪我をした様子をよく見て、心配していた。そして、リーリアは必死になって治癒の魔術に取り組み、気付けば誰よりも優れた力を身に付けていたのだった。
「リーリア、愛してる。」
「私もよ、ランスロット。」
人々は、湧く。こうして、この時から、俺はユグルの地の英雄と呼ばれるようになった。
暗闇のなか、影なる王たちは声を荒げる。
「ちっ!?余計なことをしてくれた!!」
「まさか魔女が、あのような兵士に敗れるとは。」
「………まぁ、良いではないか。力を持つ者は、我らが手の内に、駒として持っておければよい。」
影なる王たちは、次の議題へと移る。
「して、あれはどうなった?」
「なかなか、順調でございます。しかし、少なく見積もって、あと十数年は掛かるかと……。」
「…………まぁ、よい。しばらくして、完成する。予言の時は近い。」
「すべては、理想郷へと至るために。」
部屋の最奥に座す者は、暗闇を見据え、言った。
「ランスロット、上手く使えば、計画を早めることもできる。利用せぬ手はないだろう。」
「貴公を、栄誉騎士に任ずる。」
「ありがたき幸せ。」
城内に拍手が響き渡る。王国の栄えある勲章。騎士にとっての、名誉。代々続く、栄誉ある騎士の1人に俺も名を連られることができた。心底、誇らしかった。そして、何より…………
「おーい、ランスロット、愛しの姫様がお呼びだぞー!!」
「おい、やめてくれよ。分かったから。今行くよ。」
城門前に赴くと、リーリアは、パァッと明るくなり、駆け寄ってきて、私に抱きつく。
「ねぇ、聞いて!!父様が、許してくれたの!」
「許してくれたって、何を?」
リーリアは無言で、私の胸に顔を埋めた。
「何だと思う?」
彼女は頬を赤く染め、少し離れて、指輪をさすった。
「まさか……………」
「その、まさかよっ!!」
ふたたび、リーリアは俺に強く抱きついた。俺はそれを受け止めて、その勢いのままぐるっとその場を回った。
「やっとね。」
「あぁ、やっとだ。」
ついに、想いが実ったのだ。これほど幸せな瞬間は、人生で二度と訪れないだろうと、わたしは思った。そして、この幸せをどこまでも、いつまでも、2人で運んでいけるように、わたしたちは城内の広い教会で、永遠の誓いを立てた。
ある日のことだ。突然王に呼ばれ、俺は暗がりの地下室。見たことも聞いたこともない、不気味な場所へと赴いた。
「見ろ。これを。」
「これは?」
王が差し出してきたものは、うねうねと動く、目の玉。王はわたしの耳元で囁く。
「力をやろう。私に手を貸せ。」
王の言葉に、私は耳を疑った。王は、目が血走り、涎が垂れている。そして、何より前妃の指輪がその手からなくなっていたのを見て、私は、酷く狼狽えた。
(こ、これは…………)
王妃は、病により、早くに亡くなっていた。私は、ゴクリと唾を飲み込む。
「話を、伺いましょう。」
すると、王は言った。
「よい。話など。力さえあれば、全ては思うまま。他には何も要らぬ。」
そして、王は再び不気味な目玉を私に差し出す。しかし、それを私はそっと押し退け、王の目を見据えて言った。
「同意致しかねます。王よ、正気を取り戻してください。あなたは、王妃を愛していた。王妃はこのようなことを望まぬはずです。あなたと王妃の愛こそが、この国を平和たらしめていた。」
「………タニアは死んだ。」
「いいえ、生きておられます。殿下の心の内に。」
「世迷いごとを。もう良い。下がれ。」
王は、それ以上何もいうことはなく、俯いたまま、立ち尽くしていた。そう、妃が亡くなって、半ば平静でいられるはずがなかったのだ。見落としていた。王も人である。これからは私がお支えしなければ。
王室の一間、リーリアは準備に急く、私に問うた。
「今日も、出掛けるの?」
「あぁ、しばらく空ける。2週間ほどだろうか。すまない。」
「えぇ、いいわ。でも、無理はしないで。」
「あぁ。隣国バードへと伺う。寂しい思いをさせるだろうが、少しの間我慢してくれ。」
「えぇ、頑張って。この子も頑張ってる。」
リーリアのお腹は膨らみ、新たな命が宿っていた。いっときでも、側にいたい気持ちは募っていたが、国の平和はそう容易くはなかった。交渉を持ち掛けるため、私は、バード王国へと向かった。
「アーサー。久しいな。」
「あぁ、ランスロット。久しぶり。」
バード王国、王宮の間、2人は言葉をかわす。近年、ヒグノの地で再び、不穏な動きが見られ、偵察に赴くことになった。
「何か妙な予感がする。一応覚悟はしておいた方がいい。」
アーサーは、紅茶を啜り、神妙な面持ちで私に告げた。
「覚悟って………そんなに大事なのか?」
「あぁ。多分、戦闘になる。それも、嫌な予感がするんだ。…………ランスロット、もうすぐ子どもが生まれるだろう。何なら、俺だけでも…………」
「馬鹿を言うな。お前が心配だ。」
若い兵士の頃から知っていたアーサーは、数少ない気の知れる友人だった。アーサーは戦闘面では言うことはないが、どこか抜けているところがあり、誰かが隣にいないとうっかり、敵方に捕まってしまいそうな危うさがあった。
「いつも迷惑をかけるな。」
「構わない。さっさと済ませよう。俺たちなら、すぐに終わるだろう。」
「あぁ、そうだな。」
アーサーは、微笑む。この時俺たちは、まだ甘く見ていたんだ。踏み込もうとしている事態、決して踏み入れてはならぬパンドラの箱を開けようとしていたことを。
「な、何だこれは?」
アーサーは額から汗を流した。目の前の、人物に、問いかける。
「い、いやぁ、これはそのぉ…………」
ヒグノの宰相が、オロオロと、狼狽えている。
(惨いな…………)
俺はその光景に思わず顔を顰める。凄惨な光景。水の中に浮かぶ無数の死体。その中に何百、何千の人間が異形となって発見された。さらに、その体内からは木樹が生えている。
「あ、あれを見てください。」
「うん?なんだ?」
アーサーは宰相が指差した方向に視線を向ける。
「危ないっ!?」
咄嗟に、私はアーサーに覆い被さる。間一髪、その上を蒼い火矢が通り過ぎた。
「ちっ!?」
宰相はその場から駆けて、去っていった。矢の放たれた方向を見ると、そこには、あまりに巨大な体躯。頭のない騎士の鎧。鋭く光る大剣。噂でしか聞かぬ、伝説の騎士の姿がそこにあった。
死霊の騎士デュラハン。
かつて、幾万の兵士を屠り、その度に姿を消した、魔女の手下にして、筆頭の魔物。
「やはり、魔女の手に落ちていたか!?」
「たが、アーサー。これでハッキリした。」
2人は剣を構える。
「取り返すぞ。ヒグノの地を。」
「あぁ!!ランスロット!!!」
デュラハンは不気味な声を響かせる。デュラハンは矢よりも速く、地上を駆けた。2人に襲いかかり、アーサーとランスロットはそれぞれの剣でそれを弾きながら、左右に別れ、合図を取った。
「アーサー!!!」
「あぁ!!!!」
ランスロットは駆けていき、剣を振り上げる。デュラハンは大剣でそれを受け止めるが、その背後からアーサーは跳び上がり、死霊の騎士デュラハンに上空から斬りかかった。
ズザン
デュラハンの身体は斜めに両断される。その身体が崩れ落ち、2人は拳を合わせた。
「負ける気がしないな。ランスロット。」
「油断は禁物だ。宰相を追うぞ。アーサー。」
カチカチと、背後から鎧の音が鳴る。背後を振り返ると、そこには碧の光に包まれ、両断された身体を修復する、デュラハンの姿があった。
「なるほどな。簡単にはいかない様だ。」
「アーサー、先に行け。ここは俺が相手をする。」
「だ、だが…………!?」
デュラハンは、剣を地面に突き刺すと、ドロッと溢れ出した、暗闇が、俺たちに向かって襲い掛かる。
『アロンダイト』
ランスロットの剣に邪気が溢れ、纏うオーラとなって立ち登る。ランスロットは、横に剣を一振りすると、暗闇は一気に掻き消される。ランスロットは、頭鎧の隙間から鋭い眼光を覗かせる。
「行くぞ。」
「ひ、ひぇぇっ!?どうかご勘弁を。」
アーサーは、宰相を追い、ヒグノの地下施設へと足を踏み入れていた。そこは見たこともない様な鉄の塊に囲まれ、ピッ、ピッ………音が鳴り、光が点滅する。そして、溶液の満たされたガラスの中には、裸体の女性の姿があった。
アーサーは気を取り直して、宰相に問い詰める。
「全て洗いざらい話してもらうぞ。」
「え、えぇ、もちろん。少々お待ちを。」
そう言いながら、宰相はおそるおそると、後退り、その手をレバーにそっと掛けた。
「ま、待て!?それは何だ!?」
アーサーは、宰相の手を取るが、間に合わない。レバーは下ろされ、溶液の入ったガラスにヒビが入り、中から女性が崩れ落ちて来る。女性はゆっくりと立ち上がり、辺りを見渡した。
「お、お願いします、どうか助け………ビャッッ!?」
宰相の身体が真っ二つに両断される。その女性は、一瞬でアーサーの目の前に移動し、その首を絞め、持ち上げた。
(な、なんて、力だ!?)
「ぐっ、がっ…………!?」
さらにその手に力を込められる。アーサーが抵抗しようと、剣に手をかけたその時だった。
「待ちなさい、レインゼイム。」
コツ、コツ、と足音が響く。姿は見えないが、その声には聞き覚えがあった。こいつは確か…………。
「ゴーサック…………。予定より早く目覚めた。修復を頼む。」
女性は静かにそう、話した。ゴーサックは、いう。
「あぁ、だが一旦その手を離しなさい。アーサー、これには深い事情があるのです。」
レインゼイムは、眉を顰めながらも、その手を離し、コホッ、コホッとアーサーは咳き込んだ。息を落ち着かせてから、アーサーはゴーサックに問いただした。
「あれはお前の仕業か!?一体何をした!?」
「あぁ、大したことではありません。誤解をなさらずに。あれは、囚人のなかでも特に罪の重いものを。死罪となり、もはや言い逃れのできぬものたちです。それを、研究の対象としているだけですよ。」
「……………研究の対象だと?」
「えぇ、やがて間も無くこの世界は崩壊します。幾ばくかの猶予もあるか分からない。ですから、来たるべき時のための準備を進めているのです。」
「世界が崩壊する?魔女が滅ぼそうとしているからではないのか?」
「いいえ、魔女様が如何するにせよ、変わらず世界は滅びを迎えます。予言の通りに。古の王達の目的は、人間に贄として捧げ、自分たちが神の国へと至ること。そして、魔女様の目的は、『死』そのものを、世界から消し去り、この世界の構造を変えることなのです。」
「な、何だと…………!?」
そんな荒唐無稽な話がありえるのだろうか?アーサーは、ゴクリと唾を飲み込む。ゴーサックは続けて言った。
「私は、魔女様に救われた。ゆえに、魔女様の願いを叶えるべく、動いている。ですから、犠牲が多少あったとして、やむなしと考えるのです。」
「たとえば…………」と、ゴーサックは天井を見上げる。
「あなたのご友人の騎士は、どうでしょうな?」
「……………っ!?」
アーサーは、その言葉に身体を翻し、階段を駆け上がる。ランスロット、頼む、無事でいてくれ!!!!
眩しい日の光が隙間から差す、扉を開け、その光景を見た。
「そ、そんな……………。」.
天高く木樹に刺し貫かれ、ランスロットの手はダランとぶら下がっている。地上からは無数の木樹が重なり、埋め尽くされている。全身が血に染まり、もはやランスロットに、息があるかどうかも分からない。
「今なら、まだ間に合う。」
背後から、囁くような声が聞こえた。
「契約を致しましょう。そうすれば、ご友人の命は助けて差し上げます。」
「………………ッ!!」
怒りに手が震える。差し出される手に、アーサーは、震える手を差し出す。だが、アーサーは手を握る直前で、その手をパチンと振り払った。
「断る。俺も、ランスロットもそんなことは望まない。」
「残念です。…………また、新しき世界で会いましょう。」
後ろから幾重もの鋭い木樹が迫る。アーサーの身体をそれが貫こうとしたその時。
『神血』
血の刃が無数に駆け巡り、全ての木樹を切断する。背後の陽の光が、宙に浮くランスロットを照らし、神々しく、その身を現にした。
「おぉ…………!!」
感嘆とその光景を、見上げるゴーサックは、血の刃に、その身を刺し貫かれる。
「ランスロット!!」
ゆっくりと降りてくる、ランスロットにアーサーは急いで、駆け寄る。ランスロットはふと気を失ったかのように身をもたれさせ、アーサーはそれを受け止める。
「すまない、もう動けそうにない。」
「あぁ、よくやった。」
アーサーに肩を借り、ヒグノの地を去る。
(ともかく状況報告だ。ゴーサック、あまりにも未知数だ。あれは本体ではない。それに、地下の桁違いのパワーを秘めた、あれはレインゼイムと言っていた。長年姿を現さぬとされていたが、あんなところにいたとは……………。)
「死者の世界に、神の国…………。」
(色々調べねばならない。ランスロットには無理をさせてしまった。これからは俺が…………。)
ランスロットの帰国後、ユグル王が亡くなった。死因は、自決。倒れた王の傍には、家族の写真、そして、手には王妃とお揃いの指輪が嵌められていた。その後、後継のヴァンセルがユグルの王となり、ふたたびユグル国には暫しの平穏の時が流れる。
赤子の鳴き声が聞こえる。
「あー、よしよし。大丈夫でちゅよー。」
抱きかかえる、リーリア。そして、それを心底優しい眼差しを向け、側で見守る、ランスロット。国は、ヴァンセルが後継につき、安定を取り戻していた。そして、ガラル国からローラという名の女性を、王妃として迎え入れた。
「ヴァンセル!ランスロットにばかり頼らないの!子どもが生まれたばかりなんだから。」
「わかってるよ。ローラ。ごめんよ。」
あたふたした2人の様子を見ていると、自然とランスロットとリーリアには笑みが溢れ出した。ランスロットはヴァンセルの付き人として、書類を漁る。すると、ある項目に目が止まった。
「ヴァンセル王、これは?」
「あぁ、それか。…………捨てておいてくれ。」
正体不明の差出人から送られてきた、何らかの手紙。訝しみ念のため、ランスロットはそれを懐にしまった。
「ランスロット!これ、見て!」
「…………あぁ。それか。」
「あなたが受け取った、名誉勲章のバッジ。この子ったら、なかなか離さないのよ。」
「いいじゃないか。………でも、それって、大きさ的に口に入ったりしないかな?危なくないか?」
「確かに!喉に詰まらせたら大変ね。離しておかないと。」
グッと手から離そうとするが、赤ん坊はそれでも頑なにそれを離さない。
「フフッ、よっぽどお父さんの勲章が誇らしいのね。きっと。」
「また、大きくなったらいくらでも好きにするといい。ただ、今は危ないからだめ。」
ランスロットは、赤ん坊から取り上げる。すると、赤ん坊は声をあげて泣き、ランスロットはそれを見て慌てて優しく抱きかかえ、よしよしと頭をさすった。すると、すぐにウトウトと目を閉じて、赤ん坊は眠ってしまった。
「お父さんが好きなのね。」
「いいや、君のことが好きだと思うよ。………少なくとも僕よりかは。」
「きっと優しい子に育つわ。貴方みたいな。」
「…………あぁ、そうだと、いいね。」
静かで愛おしい時間。何ものにも変え難いこの瞬間をいつまでも留めておきたい。しかしその願いは、程なくして、失われていく。
夜の闇のなか、王宮の一間に灯がともる。
「ランスロット、少し席を離してくれないか?」
「…………何用で?」
「大したことはない、旧友との語らいだよ。」
パーティへの招待状。ガルド王国。にこやかに挨拶を交わす王族や、貴族の面々。一見、何も問題はない、いつものパーティのように思えた。
(しかし、この胸騒ぎは何だ?)
ランスロットは、こっそりとヴァンセルの後をつける。すると、裏手には黒づくめの男。そして、その男から何かを受け取る、ヴァンセルの姿があった。
「ヴァンセル!!!」
思わず、叫んでしまう。黒づくめの男は異様な身のこなしで、その場から一瞬で去った。暗闇とはいえ、俺が見失うほどの速さ。只者ではなかった。俺は、駆け寄り、ヴァンセルが受け取ったものを、目にする。
「そ、それは………!?」
「ははっ、ランスロット。」
その表情は、見たことがある。力に溺れ、愛を見失う、おぞましい者の表情。ヴァンセルの手にあったのは、うねうねと動く目の玉。
「俺はね、力がないんだよ。だから、仕方がないんだ。」
「…………………」
俺は、彼からその目の玉を手に取り、握り潰した。
「許さん。」
「ヒ、ヒィ!?や、やめろ!!!うわぁぁーーー!!!!!」
俺は剣を振るう。血が飛び散り、鎧が赤に染まる。ヴァンセルを貶めようとした犯人、それは、よく見知った兵士時代からの旧友だった。感情のこもらない刃は、そいつの首を刎ねた。
「……………………」
これで元は絶てたか。いや、裏で糸を引いたものがいたはずだ。探し出さなければ。
「ランスロット…………すまない。」
「……………あぁ。」
王室の間。ヴァンセルは頭を抱えて、机に突っ伏す。国を守る為には、汚い事にも手を染めなければならない。俺にその番がやってきた。ただそれだけのはなしだ。
「いやだっ!!いやだぁ!!!お母さん!!!」
悪党どもの暗殺。一族の抹消。小さな子どもが泣き声をあげる。それはガラハッドの姿と重なった。剣を振り下ろす直前、手が止まる。
背後から、走って来る音が聞こえる。
「死ねぇぇぇーーーーーー!!!!」
後ろから斬りかかろうとする残党の首をとばす。血飛沫が、子どもの顔に振りかかった。
「ア、ハハ………アハハハハハ……………お父さん。」
子どもは壊れたように笑った。もはや生かしたところで、この先幸せに生きていけるかもわからない。やはり、ここで介錯するべきか。
「可哀想に。」
バッと、後ろに振り返るとそこには、驚くべき人物がいた。
「…………ゴーサック。」
あの時、ゴーサックは死んだはず。ゴーサックは杖を振ると、子どもは安心したような安らかな表情に変わり、声を溢す。
「お父さん、お母さん…………」
何もない場所に、子どもは目を向ける。そして、数歩進んだところで、バシャッ、とその身体は水が弾けたように飛び散った。
ゴーサックは言う。
「…………少し、話がございます。」
燃え盛る街のなかで、2人は歩く。
前を歩くゴーサックは俺に告げる。
「罪のないものもいた。」
「…………………」
「しかし、そうせざるを得なかった。」
「…………いや。」
「責めませんよ。あなたはよき人だ。」
ゴーサックは振り返り、俯く俺の顔を見る。
「魔女様もそうだった。」
その言葉に、俺は思わず激昂する。
「黙れ!!!!」
自分と魔女が重なった。
だが、自分の言葉とは裏腹にゴーサックの言っていることが、間違っていないことも理解していた。
「ここにいては、あれでしょう。少し場所を移しましょう。」
ゴーサックは杖を取り出すと、それを振るう。すると、少しの無重力の後、景色は変わっていた。
「ここは、私の研究施設。」
ピコン、ピコン………と機械音が鳴る。
無機質な一室だ。見たこともない機器の類が、並ぶ。座ることを促されたが拒絶すると、ならば歩きながら話しましょうと、部屋を出て案内された。
しばらく歩いていると、円柱の液体の満たされた、ガラスの中に、魔族と人の混合種のような姿の生物が数百、数千と並べられ、異様な光景が広がっていた。
「この者たちは死刑が決まった先のない、囚人たち。自ら志願したもののみ、未来の為に、ここに生かされているのです。」
ゴーサックは続けて言う。
「安心してください。急に、動き出したりはいたしませんよ。」
「……………何を企んでいる。」
すると、ゴーサックは足を止めて言った。
「死して人は、芸術となり、美しき影を残す。」
彼は、ガラスを撫で、その中の者を慈しむようにして言った。
「しかし、それは人生においてその者が歩んだ足跡…………それを後世の人間が愛し、語り継ぐ。その過程にこそ、人の美しさは宿ります。」
「…………何が言いたい。」
「いずれ、人は滅びる。」
ゴーサックは、言う。しばらく歩いていると、巨大な石板の前に辿り着いた。そして、ゴーサックは指を差しながら、話す。
「この世界は、外界と天界との狭間。アダムによって管理されています。魔女様の目的は、死者の国へ赴くこと。そのための、女神ヘラ、かの者への供物。そして、死者との邂逅。」
「…………………」
「かつて、魔女様の故郷、そこに隠された文書にはこうありました。」
『神を信奉し、神に愛されんがため。
神に供物を捧げれば、神の愛を得られん。
止まらぬ狂気。
愛する者を捧げ、臣下を捧げ、市民を捧げ、
時々降る雨に神を感じ、何かを捧げることで、
人の原罪が洗われる感覚を得た。
全てを捧げたとき、神は我々をどう思われるのか。人類のすべてを捧げ、我らは神に認められん。我ら、神の国へと至る。』
「神の国…………」
「魔女様は、死者の扉をひらけば、この地に、生者、死者の分け目が無くなり、己が殺したものもみな蘇ると仰っています。………しかし、それは本当なのか。」
「…………………」
「私は来たるべき日の時のために、準備しています。」
「危うく思うのならば、最初から、魔女を止めればいい。何故、止めない?」
「………それは、私が、魔女様を愛しているからです。」
「愛して………いる?」
「えぇ、一目惚れかも知れません。幼き日、私のいる街を襲った魔女様に私は救われた。奴隷だったんです、私は。生まれた時からね。」
「…………………」
「死者の扉を開けば、自らが望んだ死者に会うことは、確かに、できる。だから、私は魔女様の望みを叶えたい。魔女様は不死ですから。このままでは魔女様は永遠に家族と会うことはできません。」
「………お前が、愛しているならば、今に目を向けるべきだ。お前が寄り添ってやればいい。止めるんだ。こんな愚かな行いを。」
「私では代わりにはなれない。魔女様は家族と過ごしたあの日を永遠に追い求めているのです。………それに、不思議なもので。奴隷だった、私はまだ、何処か人を、まだ恨んでいるのでしょうね。人を愛している、世を守りたい。しかし、滅びればいいとも考えている。」
「………………」
「私なりに出した、結論。それが、これです。」
ゴーサックは、ガラスの中の囚人に目をやる。
「……………哀れだな。」
「えぇ。」
その後、俺はユグル国へと転移で送り届けられた。別れの際にひとつ忠告を受ける。
「『古の王』たちが、近頃ユグル国とバード国の近辺を動き回っています。恐らく、何か企んでいる。お気をつけて。」
「…………あぁ、分かった。」
数日後、臣下達から報告を受ける。
「ランスロット様!!!大変です!!リーリア様が!!!」
「…………っ!!?」
ヴァンセルと国の警備の増兵について、話を進めている最中の出来事だった。何者かの襲来。護衛騎士のうち1人が殺害され、リーリアは、誘拐された。一瞬の出来事。油断していた。俺は、城を出て、リーリアを追う。
「リーリアーーーー!!!!!」
雨のそぼ降る中、臣下から報告を受けた場所へと赴く。臣下の死体、そして、その人物の傍には、リーリアの姿があった。俺は、その人物の名前を叫ぶ。
「アーサーッ!!!!!!」
アーサーは、赤く濁った眼差しを向け、剣を握る。雄叫びを上げ、俺たちは刃を激しく交えた。
「何故、なぜだアーサーッ!!!」
「…………………。」
アーサーは無言を貫く。その時の俺は、冷静ではなかった。アーサーが操られていると言うことも、頭では理解していても、心が冷静でいられなかった。
ガキィン
と、両者の刃がぶつかり合う。お互いに跳び退き、2人に距離ができる。アーサーの剣に、光の魔力が宿った。それを見て、俺は睨み、同じく、刃に己の魔力を乗せる。
『アロンダイト』
『エクスカリバー』
光と闇の刃の魔力が交錯する。そして、それが互いの胴体を貫こうとした、そのときだった。
「ダメよ、ランスロット。」
「………………リーリア?」
アロンダイトの剣は、リーリアの体を差し貫き、エクスカリバーの剣は俺の眼前で止まっていた。
「ラ、ランスロット……………。」
アーサーは、絶望の表情に染まる。俺は、何が起こったかわからないまま、ただ目の前の血塗れの、リーリアを見据えていた。
小さな呟き。リーリアはこう言った。
「ランスロット、愛してる。」
ガタッと、リーリアは地面に倒れる。俺は立ち尽くし、目は虚ろに染まっていた。
その後、リーリアの葬儀が行われた。リーリアは俺が殺したのだと、みんなに告げた。しかし、誰もが憐れみの目を向け、それを信じてはくれなかった。
リーリアは、俺のすべてだった。
ずっと、彼女と一緒にいたかった。
ゴーサックの言葉が、甦る。
『死者の扉を開けば、自らが望んだ死者に会うことは確かに、できる。だから、私は魔女様の望みを叶えたい。』
「……………………。」
俺は…………俺は、リーリアにもう一度逢いたい。どんな手を使ってでも、もう一度。たとえ悪魔に身を堕とそうとも。
「リーリア、待っていてくれ。」
ランスロットは、マキア、まこと相対する。己の望みを叶える為に、リーリアにもう一度逢うために。
「父上!!母は望んでいない!!そうだろう!?母が望むのは、平穏なこの国で、あなたが幸せに暮らすことだ!!!」
「黙れ!!!リーリアには、もうすぐ逢える。あと、少しなんだ!!だから、邪魔をするな!!!」
まこは、拳を握りしめて構える。
(何があったのかは知らない。でも…………)
「バカね。本当に。………お疲れさま。よく頑張ったね。」
「トーレ!!………トーレっ!!!」
「でもね、ミレアと出会って変わったの。守ってくれた。いつも、僕を庇ってくれたんだ。」
「さぁ、行きましょう。」
この世界で、愛し合う、2人を見ていて思う。
人が人を愛することは、苦しいことなのかもしれない。それでも、人は愛を抱えてる。私は、そんな人達を支えたい。私がマキアとして、いいえ、ただ人として、私として、目の前のこの人に、あなたを愛している人が、きっと伝えたいことを、伝えたいの。この拳に込めて、思いっきり。私は、ただあなたに幸せになって欲しい。
「ウオォオオォォォーーーー!!!!!!!!」
「…………………っ!!」
迫り来るマキアの姿。しかしそれは、何処か愛する人の面影を感じ、ランスロットは思わずそれを、無防備に、受けとめてしまった。
「何言ってるの!指輪はね、運命の相手がそっと慈しむように付けてくれるものなの!やり直し!」
「綺麗ね。」 「あぁ。本当に。」
「やっとね。」
「あぁ、やっとだ。」
「きっと優しい子に育つわ。貴方みたいな。」
「あぁ、そうだと、いいね。」
「ランスロット、愛してる。」
ハッ、とランスロットは目を覚ます。見上げれば、神樹の元、そのあたたかな木樹の光に包まれていた。声が聞こえる。
『あの子を、守ってあげて。』
幾重にも重なる木樹の頂きで、魔女は手を上に掲げ、巨大な火球を上空に形成していた。魔女は忌々しげにアダムに言う。
「消えろッ!!」
アダムは、その火球に余裕の笑みを浮かべる。
「無駄だよ。」
宙に浮くアダムは、上空の火球に向けて、手を掲げると、一瞬でそれは消失した。
「なっ!?」
「もう、終わりにしよう。」
アダムが左手を横に振り翳すと、後ろの神樹から一直線に何かが飛来し、アダムはそれを掴んだ。
『神槍・グングニル』
そして、アダムは、右の手を魔女に向ける。
『磔刑』
すると、魔女の手は無数の小さな光の槍に貫かれる。両手を拘束された、魔女は、力が抜けたように、ダランとぶらさがる。
「君の魂は、罪を犯しすぎた。何か、言い残す事はあるかい?」
魔女は、強い眼差しで、アダムを睨む。アダムは、少し後悔の滲むような、悲しい表情をして、それから覚悟を決めたように、まっすぐに魔女を見つめた。
「さよならだ。」
槍を、グングニルを投擲する。それは一直線に、魔女に目掛け、向かっていく。魔女は目を閉じて、何処か安堵の表情を浮かべていた。
『抜切』
ガキィンッ!!!とけたたましく、音が鳴り響く。魔女と神槍の間に入り、それを弾かんとするのは、『死病』のレインゼイム。
「ぐっ………!?」
剣で弾こうとするが、押し込まれ、何とか方向を逸らすに留まる。レインゼイムは肩で息をする。
「ハァ、ハァ………ッ!!」
「君は……………。」
先日の傷がまだ残った様子のレインゼイムは、魔女を捉えた光槍を砕き、地上に魔女を抱え、降り立った。ガクッと、膝を折り、口から血の塊を吐いた。
「グッ………っ!?」
アダムはそれを見るが、情け容赦なく、地上に手を向ける。
「さぁ、終わりにしよう。」
アダムが再び、光の槍を放とうとした、その時だった。
「……………………。」
アダムは眉を顰め、地上を窺う。
「これは………………。」
ゴゴゴゴゴッ………と、大地全体が揺れる。地下深く、その主が目覚めようとしていた。
「アグッ!?グ、ガッ……………ッ!!!」
ガルド王は、光の槍で貫かれていた身体が、闇に溶けていくのを感じる。意識が途切れる狭間で、彼は言った。
「あぁっ!!光が、光が見えるッ!!!!」
溶けた闇は、遺跡に全体に拡がり、その中からズプズプと音を立て、かの者は姿を現した。
「……………………。」
上空を、見上げる。そして、羽をはばたかせ、遺跡の外、その上空へと飛び立った。
影なる王たちは息を潜め、言った。
「既に姿は割れているが、致し方あるまい。」
「時は満ちた。」
暗闇の中から姿を現すのは、古なる王たち。
「今、我ら、神の国へと至らん。」
「どうやら、簡単にはいかないようだね。」
アダムは、目の前の、主を見据える。
「アバドン。奈落の王よ。」
深淵の主。白翼に、蠍の尾を持ち、手に持つ長剣は螺旋の構造を描いている。黒鎧を身につけ、影が表情を覆う。
「…………なるほどね。」
都市外城門、国の外縁から巨大な音と、熱波が走った。人々の悲鳴が上がる。国に侵入するのは、外界の武器を携えた、幾多の兵士たち。
「………………聖霊たちよ。」
アダムは、顔を顰め、背後の神樹に、手をやる。
「がっ…………!?」
しかし、アダムの手は螺旋の剣に貫かれる。怯んだアダムを見て、アバドンはその首元に手を掛けようとする。しかし、アダムは、ほくそ笑み、人差し指を上に持ち上げる。すると、後方から飛来した神槍が、アバドンの手を貫いた。
「…………………。」
アバドンは、無言で、螺旋の剣を手放すと、不意に地上に手を向けた。
『滅界』
「…………なっ!?」
アダムは、瞬時に放たれたそれに、反応し、手を向ける。すると、瞬く間に、『滅界』は消滅したが、背中の違和感に顔を酷く、歪めた。
「これは……………。」
アダムが背後を振り返ると、身体には、アバドンの背から伸びた蠍の尾が、突き刺さっていた。
「………………エバ。」
アダムは、意識が薄れていき、体をもたげる。すると、上空から、2体の山羊頭の悪魔が飛来し、アダムの両腕を持ち上げた。そして、上空の闇の中へと、運んで行く。
「……………………。」
アバドンは、地上にいる、魔女へと眼を向けた。
「何よ………何よ、これ?」
焼け焦げる臭い。火だるまとなった人々が向こう側から、悲鳴と叫びをあげて、やってくる。しかし、逃げようとする住民に、背後から容赦無い銃弾が浴びせられる。血が、広く地面を染め上げ、死体の山が積まれ、兵士たちがその上を歩く。
(これまでにも、倒れた人や、苦しんでいる人を見たことはあった。でもこれは………)
腹の中から熱いものが込み上げてくる。思わず口を抑え、まこは、蹲った。
「まこ!!危ない!!!」
ダダダッ、と銃音が鳴り響き、まこがいた場所の地面が抉れた。間一髪で、ミレイユが救け出した。
「くそっ!?何が、一体どうなっている!?」
ミレイユは街の異変を察すると、いち早く市民に避難を促し、声を張り上げていた。しかし、戦火は瞬く間に人々を飲み込んだ。
「お嬢、隠れていてください。」
「ベルヒム!!ここから離れないでくださいまし。何だか嫌な予感がするの。」
「…………大丈夫ですよ。」
ベルヒムは壁の奥で、お嬢の頭を撫でた。
「また、帰ったら美味しいコーヒーでも一緒に飲みましょう。」
ベルヒムはそう言い残し、壁の外へと出た。銃声が鳴り響く。
「誰か………誰か、たすけてですの。」
チルノは頭を抱える。兵士たちが持つ武器は、軽く、王宮の優れた1級魔術師の、それを凌駕していた。それは、スピード、殺傷能力とともに、人を殺す為に特化された、悍ましい武器であると、彼女は理解することができた。
(私が出ていったところで、殺される選択肢しかありませんわ。それでも…………)
ただ、黙って隠れているなんて嫌。私は、私の出来ることを致しますの。
「こんな事になるなんてな。」
ガラハッドは燃える街をただ見据える。ここにだけは、手を出さぬ約束だった。しかし、当然奴らがそんなものを守るはずもなく、案の定この有り様だ。
「母上…………。」
首に下げられたペンダントのケースを開ける。そこには、記憶にはない母の姿があった。ペンダントを握りしめ、そして、前を向く。
「見ていて下さい。」
ガラハッドは駆け出し、外界の武器を持つ兵士たちの元へ向かう。既にマキアとの戦いで、魔力の大部分は、消失していた。この数の敵に、今の、自分が叶うことはないと知りながらも、しかし、向かわねばならなかった。母のいない自分を支えてくれた、面倒を見てくれた、みんなを。この街を、守る為に。
「アリア!!!」
レインゼイムは、魔女を受け止め、意識を失った彼女を揺らす。じき、ここも戦火に包まれる。死なないとはいえ、痛みによる精神的苦痛と、障害は残る。それに……………。
バサッ、と目の前に飛来する。
その者の名は、アバドン。
「くそっ…………!?」
レインゼイムはやけくその一太刀を振る。しかし、それはあっさりと手に掴まれ、アバドンの持つ螺旋の剣が、レインゼイムの肩を貫いた。螺旋の剣に突き刺された彼女は、そのまま上に持ち上げられる。
「あぐっ…………!?」
足掻くも逃げられない状況に、半ば諦めの眼を向ける。アバドンはその彼女に向け、手に光を集約させ、瞬かせる。
(ここまでか…………。)
『太陽の灼光』
ドンッ
強烈な光が、熱が、紅蓮を巻いて、上空へと激しく立ち昇る。
「遅れましたな。」
スタッ、と宙から降り立つのは、老練の魔術師。激しい光の熱によって、アバドンの身体は焼け爛れ、螺旋の剣が地に落ち、しばらくの間、動きが止まる。
「ゴーサック………。」
「早く逃げなされ。野望が達せられるのは、今でなくともよい。まだ、時間はある。」
「…………あぁ。」
レインゼイムは魔女を連れ、その場から立ち去る。2人が去ったのを見届けて、ゴーサックはアバドンを見据えた。
「貴様らが姿を現すのを、ずっと伺っていた。そこにいるのだろう?古の王よ。」
『…………………』
「裏切りは見逃そう。だが、その代わり今度こそ協力してもらうぞ。」
『…………目的は間も無く達する。』
「いいや、達せられんよ。何故なら、ここには。」
後方から飛び上がる影。
「でぇやぁぁぁーーーー!!!!!!!!」
アバドン目掛けて、拳が振るわれる。地面が割れ、衝撃が空を駆け抜けた。
「予言の救世主、マキアがいる。」
アバドンは鎧を砕かれ、沈黙する。ふと、まこは、背後のゴーサックに気がつき、声を掛ける。
「あなた、ここは、危ないから、はやく逃げて!!」
その言葉を聞き、ゴーサックは高笑いをした。それから、まこを見据えて言う。
「マキアよ。君は魔女をも救えると、思うか?」
その問いに、マキアは驚いたように反応し、それから勢いよく答えた。
「もちろん!!!!!」
ゴーサックは、その言葉にハッとし、それから柔らかく笑った。
「そうか。」
ゴーサックは後ろを振り返ると、杖を上空へと向ける。すると、都市中央の上空に巨大な魔法陣が出現し、その中から魔物とも人とも取れるような異形の者たちが降り注いだ。
「………………ッ!!」
まこは、驚くが、ゴーサックは言った。
「警戒しなくともよい。あれは、人だよ。罪を認め、己を戒め、自ら志願した者たち。」
ゴーサックは杖をアバドンに向ける。
「今回ばかりは協力しよう。」
「…………えぇ!!」
アバドンが立ち上がり、咆哮を上げる。
「なんだ、あれは!?」
ミレイユは上空を見上げる。巨大な魔法陣。その中からは、幾多もの魔物が降り注いだ。
(ここで増援か!?くそっ、何だというんだ!?)
魔物たちは地面に降り立つと、一瞬こちらへと目を向けた。しかし、その目に敵意は感じられなかった。
(なんだ………?)
敵意はないというのか?
降り立った魔物たちは、すぐさま兵士達の元へと向かっていく。魔物達の急襲に、兵士たちは戸惑っている。銃声が鳴り響くが、魔物たちは怯まず、兵士たちの悲鳴が聞こえる。
「……………チルノは!?」
はっ!?と辺りを見渡す。こんな状況だ。ベルヒムがいるとはいえ、危険に変わりはない。早く、見つけなければ。
「いたぞ!!!」
壁の隙間から兵士たちに、見つかる。
「くっ!?」
私はその場から跳び退き、ダダダッ!と響き渡る銃声を回避するが、壁を抜けた先には、兵士達が待ち構えていた。火を操る武器の銃口をこちらに向けられている。無言で、容赦無くそれは、私に発射される。反応が遅れた。広範囲だ。私に、逃げ場はない。
『ベリュグナード』
水龍が、宙を駆ける。それは、私を守るように前方に飛来し、壁をつくり、火を遮った。
「今ですの!!!」
チルノの声が聞こえる。私は、フッと笑い返事をする。
「あぁ!!」
(これまで私は、仲間に情を持つことなどなかった。日々、死線を潜り抜ける中で馴れ合いなど不要だと思っていた。だが、まこと出会い、チルノと出会い、少しずつ私も変わってきている。)
「チルノ、ありがとう。」
「………!えぇ!!」
チルノの技によって、次第に、火の勢いが弱まり、兵士達に、隙ができる。私は火炎の下を潜り抜け、炎を放射する機械を、両断した。そして、兵士たちに一太刀を浴びせる。
「……………よし。」
兵士たちは倒れ、気を失った。
「お嬢っ!!」
ベルヒムがチルノの元へと駆け寄る。
「お嬢、隠れておいてくださいって言ったじゃないですか。」
「そんなことを言われたって、こんなにみんなが必死に頑張っているのに、私だけ隠れて見ているなんて、できませんわ。私も戦いますの。」
「はぁ、全く。」
ベルヒムは、やれやれと首を振る。戦況は、未知の魔物の加勢により、多少は持ち直したが、しかし、まだ足りない。あまりにも数と武器による圧倒的な力に、押されている。
遠くで稲光が瞬いた。まこの向かった場所だ。まこは、セント街で見た、あの化け物を見るなり、向かっていった。確かに、あれに対処できるのは、まこしかいないだろう。しかし…………。
(本当に、大丈夫なのか?まこ。)
ミレイユは、心配の眼差しを向ける。
螺旋の剣を掲げると、稲光が宙から降り注ぐ。しかし、それを前に進みながら、かわす。そして、ガラ空きになった懐に、一発を叩き込んだ。
『………………ッ!!』
アバドンはズザザザッ、と地面を後退りながら、膝をつき、こちらを睨む。
「力になれればと考えましたが、これでは私が何をしたところでかえって、邪魔になる。私は、私ができる事を致しましょう。」
ゴーサックは、杖を地面にトントンと叩く。すると小さな魔法陣が現れ、それは瞬く間拡がっていく。
「私の魔力を全て使い、住民を避難させます。どうか、思いっきり戦ってくだされ。」
「えぇ!!任しといて!!!」
法陣の光と共に、ゴーサックは消える。それと共に、街から人々の悲鳴が消えた。私は、グッと拳を握りしめる。
「さぁ、始めましょう。」
『…………………。』
(何だ、あれは?)
ミレイユは上空に、不思議な影を見つける。それはゆっくりと降り立ち、ミレイユ達の前に佇むそれは、山羊頭の悪魔。アバドンの眷属の2体。明らかに雰囲気の違う、それに、ミレイユは、直感した。逃げねばならぬと。
「チルノ!!ベルヒム!!」
2人が振り返る。しかしその時にはもう手遅れだった。眷属の内の一体がすぐ背後まで迫り、その強爪を3人に向かって、突き立てた。
『神光』
光が瞬き、それはミレイユ達と眷属の間に割って入る。そして、強爪の一撃を受け止めた。
「お、お前は…………!?」
それは、一時は私達に、牙を剥いた騎士。何の因果か、今度は明らかに、私たちを守ろうとしている。
「さっきはすまなかった。憎しみにとらわれていては、傷を増やすばかりだ。…………父を見て、気付いたのだ。私は、前に進まねばならぬと。」
爪と剣の鍔迫り合いは、火花を起こし、そして弾き合い、両者に距離ができる。
『氷星』
巨大な星を模した、氷の塊が、山羊頭の悪魔を襲う。ザッと、現れたのは、銀色の騎士。
「ガラハッド。終わらせるぞ。」
「あぁ。」
2人は剣を構える。しかし、山羊頭の悪魔は地面の影から、鋭い長鎌を取り出す。それは、ドス黒く、まるで命を刈り取る形をしているようで、私達は思わず息を呑んだ。
「でえぇヤァァァーーー!!!!!!」
まこは、上空からの拳の一撃をアバドンに放つ。大地が大きく割れ、アバドンはその場から飛び立つ。すると、まこもすぐさまその場から跳び立ち、アバドンの目の前に現れ、渾身の蹴りを入れた。
『…………………。』
アバドンの身体は折り曲がり、とんでもない速度で吹き飛び、落下していく。壁を幾重にもぶち破り、瓦礫の中に埋もれる。しかし、すぐさまその中から飛び立ち、上空から手を翳し、光が瞬いた。
「させるかァッッ!!!!」
一瞬でアバドンの元へと跳躍し、その手を取り、体を捻り、背負い投げの要領で、巨大なクレーターができるほどに、アバドンを地面に投げ放った。
『…………………。』
土煙の中から、光が立ち昇る。
『滅界』
空中の身動きの取れない私に向かって、それは放たれた。まこは、ペンダントを握る。
「ごめん!!モコ!!お願い!!!」
負傷しているモコを呼び出すのは心苦しいが、致し方ない。モコが、ペンダントから現れる。モコの背を借り、蹴って、螺旋の光線をお互い上下へと避けた。
「ありがとう、モコ!!」
ペンダントにモコを戻す。束の間、アバドンは上空へと跳んでいた。両腕をハンマーのように握り、まこに地上に向かって、叩き付ける。まこは腕をクロスして、防ぐが、地上に勢い良く落下する。
「ぐっ…………。」
土煙の中から、何ということはなしに、まこが現れる。それを見た、アバドンは目を細め、上空の暗闇から螺旋の剣を取り出し、再び落雷の雨を降らせる。まこは、それに反応すると、ひとつ、ふたつと素早くジグザグに避けていき、アバドンの目の前へと拳を振りかぶって現れる。
『………………ッ!!』
爆破するような衝撃音とともに勢い良く、吹き飛び、アバドンは地上に衝突する。地中に埋もれ、静寂が訪れる。まこは、地上へと降り立った。
「(……………終わった?)」
まこが、そう考えたその時、地中から、巨大な光の柱が立ち昇る。そして、上空に再び、アバドンが現れた。螺旋の剣を空に掲げると、炎の渦が街の空全体を覆い、その炎は数瞬の内に、螺旋の剣へと集約する。業火に包まれた、その刀身を振り払うと、街が瞬く間に赤い炎に焼かれた。
(あんまり時間をかけていられなさそうね。)
まこは、覚悟を決める。
『千剣』
ガラハッドの上空に幾千の剣が並び、照射される。それは地響きを起こす程に、激しく2体の悪魔を呑み込み、土埃が空高くまで舞った。
「……………グッ!?」
ガラハッドは、膝を付き、血を吐く。
「無理をするな!ガラハッド!」
ボールスは声を荒げる。既に彼女も、満身創痍で、片腕を負傷し、押さえている。
(やりすぎたな…………。)
神の力などそう易々と扱えるはずも無く、それ相応の代償がある。マキアの複製をつくった時点ですでに魔力のほとんどは失われていた。体力ももうほとんど残っていない。土煙が晴れていく。
(………………ば、馬鹿な!?)
土埃のなかから現れる、悪魔達。
『『…………………。』』
多少の傷はついている。だが、平然とその場から動くこともなく、立っていた。
「…………無念。」
ガラハッドは倒れる。ボールスは、拙い足取りで彼の前に出た。
「もう、やめろ!!逃げるんだ!!!」
ミレイユは彼女たちに向かって叫ぶ。
「私たちを、庇わなくていいんですの!!!お逃げになって!!!」
すると、ボールスは振り返り、こう言った。
「随分と、迷惑をかけた。あのオークの村の件から、すまなかったな。あとは任せて、ここから逃げろ。」
ボールスは剣を構える。悪魔達は、地面を蹴って、ボールスとガラハッドの元へと向かった。
「ボールス、逃げろ。」
「死ぬときは一緒だ。最後まで抗おう。」
『神血』
鋭い血の刃が、悪魔を刻む。ランスロットが、姿を現した。
「ランスロット!!」
「父上…………。」
ランスロットは、剣を構えて、言った。
「よく頑張ったな、お前達。あとは任せろ。」
ランスロットはその言葉と共に、地を踏み出す。目のも止まらぬ速さで、悪魔達の懐に潜り込み、剣を地上から、切り上げた。それは、悪魔達の身体を切り裂き、仰け反らせた。
『血牙』
仰け反った体勢に、追い討ちをかけるように、血が激しく上から降り注ぐ。悪魔は倒れ、その内の一匹に馬乗りになったランスロットは、胸に剣を突き立てた。
『ギャアァァァーー!!』
悪魔は断末魔をあげ、ドロドロに溶け黒い塊となる。悪魔のもう一対は、起き上がりランスロットに襲い掛かるが、ランスロットはその悪魔に視線すら向けず、素早く剣を横にやり、その悪魔の胸に刺し貫いた。ドロドロと、悪魔の身体が溶けていく。一瞬でランスロットは、二体の悪魔を撃破した。
「つ、強いですの。」
「あぁ……………。」
ミレイユは、依然、目を細め警戒する。何か、嫌な予感がする。
「流石だ。ランスロット。」
「父上。」
2人は安堵する。ランスロットも安堵し、振り返る。そんな時。
『…………………。』
ドロドロと溶けた悪魔の残骸から、黒い塊がうねうねと、動き出す。すると、その黒い塊は形を為して、人を造り上げた。
「なっ!?」
ランスロットは目を見開く。ガラハッドも、手をワナワナと震えさせた。それもそのはず、その人物とは。
「は、母上………?」
ガラハッドがペンダントの中で見た姿、そのもの。母の姿、そしてその人物は微笑み、此方に誘うように手を開く。
「リーリア…………リーリアッ!!!」
ランスロットは駆ける。しかし、ガラハッドは違和感を覚える。
「ち、父上!!ダメだ!!!」
ガラハッドは、グレイプニルの腕輪を光らせた。そして、母上の姿をした何かと、父上との間に身体を割って入らせる。
グサッ
『あれ?おかしいなぁ。』
刹那、後方から突き出された剣は、リーリアの姿をしたそれと、ガラハッドを諸共貫いていた。
「………………は?」
『ランスロットォ、惨めだなぁ。お前は。』
ガラハッドが膝をつく、リーリアの姿をした何かはドロドロした液体に崩れ去り、その後方からその人物は姿を現した。
『ばぁ。』
瞬間、ランスロットの身体は切り刻まれ、吹き飛ばされる。ボールスはランスロットの身体を受け止め、ガラハッドを救出しようとするが、ガラハッドの身体は、影へと沈んでいく。
「ガラハッド!!!」
『楽しかったよ。』
男は、顔を手で覆い、大口で笑い、倒れているランスロットに向かって、言った。
『僕はゼノン。最初の王のひとり。ジジイ共が、あんまり動き出すのが遅いんで、シビレを切らして出てきちゃった。』
その男は、剣の血を振り払い、言う。
『いやぁ、本当に見ていて愉快だったよ。』
男は、ゆっくりと告げた。
『どう?楽しんでくれた?ユグルの前の王様にけしかけたのも、君に旧友を差し向けたのも、ヴァンセル王をけしかけて殺したのも………あっ、君の愛するリーリアを攫ったのも、元を辿れば、ぜんぶ僕なんだけど…………。』
「…………………」
『いーい筋書きだったろう?まぁ、アーサーが僕たちの居場所を突き止めかけていたから、拠点を変えなくちゃいけなくて、その八つ当たりで『あれ』を思いついたんだけど、存外、悪くなかっただろう?』
「…………………」
沸々と、ランスロットから流れ出た血液が、沸点を通り過ぎたかのようにブクブクと湧き上がる。そして、それは、ランスロットの重い駆け出しと共に、白長髪の男に襲来し、ランスロットは剣に渾身の力を込めて振るった。
「…………死ね。」
血の襲撃に、振り下ろす渾身の一撃。しかし、男はその場から、動かない。
『…………………。』
振り下ろしの一撃と、血の襲撃を、男は、何事もなく、受け止めた。身体には傷ひとつ、つかなかった。刃は男の肩の上で、ギギギッ、と音を立て、止まっている。男はランスロットのその剣を手にとり、ゆっくりと立ち上がった。
「まぁ、爺いたちが、念には念をって煩さかったんだけど、必要ないよね。だって………」
ランスロットの腹部を黒剣が差し貫き、身体が切り刻まれ、吹き飛ばされる。男の黒剣が、振るわれていた。
「僕たちのほうが、圧倒的に強いもの。」
(私の魔力を全て使い、住民を避難させます。どうか、思いっきり戦ってくだされ。)
ゴーサックの言葉が思い起こされる。
そうだ。思いっきりやれば良い。街はまたみんなの力できっと直せる。だから、今は目の前の戦いに集中するんだ。
螺旋の剣が振るわれる。あまりの熱に、私は跳んで避けそうになる。しかし先ほどの光景が、脳裏に過ぎって、私は腕で受け止める。
「………………っ!!!」
腕が焼けるように熱い。私は、螺旋の剣を振り払って、渾身の一撃を、拳を振りかぶって放つ。それは、アバドンの胸に当たり、吹き飛んでいく。
「ハァ、ハァ…………っ。」
腕が痛い。喉も、焼けるように熱くなっている。アバドンは瓦礫から身体を起こし、此方を見据えている。
「………………来なさいよ。」
アバドンは地面を蹴って、此方に駆ける。剣を振るうたびに、腕が、肺が、内臓が焼かれるように熱を帯びていく。視界が霞む。
(私は……………。)
倒れる身体を、私は足を踏ん張ってこらえようとする。しかし、身体は無情にも力を失い、変身が解けた。
「みんな…………ごめ、ん。」
「まこが、謝る必要は無い。」
身体が支えられる。見知った声、安心する仲間の、大切な友人の声。
「さぁ、もう一踏ん張りだ。まこ。」
「ミレ、イユ…………。」
業火に肌を焼かれながらも、片目を開け、正面からミレイユは、アバドンを睨みつける。
「まこは、私の大切な友人は、負けない。必ず勝つ、何故なら。」
ミレイユは倒れながら、言った。
「誰よりも、まこは、優しいからだ。」
私は、拳を振りかぶる。全部、これまでの全部を、私のこの拳にかける。私は、大切な仲間を、友人を、そして平穏に暮らすことを願う、すべての人たちの想いを、背負っている。
聞こえる。みんなの声が、想いが。
(お願い、どうか私たちの故郷を。)
(どれだけメチャクチャになっても良い。だから、お願いだ。どうか、勝ってくれ。)
(ママ、僕たち、どうなるの?)
(大丈夫よ。今、私たちを守ろうと英雄さんたちが一生懸命戦ってくれているわ。朝日が昇るころには、きっと、元の日常が戻ってくる。大丈夫。幸せは、必ず帰ってくるから。)
「うおぁァァァァァァー!!!!!!!!」
私は、拳に全てを想いを込めて、ぶつける。それは、アバドンの胸に直撃し、その時、朝日が昇る。ゆっくりと差した光に、アバドンの身体はサラサラと、細かく散り、空に昇っていく。そして、その姿をゆっくりと消していった。
私は、身体を地面にもたげる。そして、倒れたミレイユに顔を向けた。
「ミレイユ………。」
「まこ、お疲れさま。」
ミレイユは晴れやかな笑顔を向ける。私達は、手を繋ぎ、眠る様に意識を失った。
眩しい光が、街をあたたかく染める。この街の最後の命運は、誇り高き騎士達に託された。
瞬間、その男の首は飛んだ。
「はっ?」
男は飛んだ首から視線を巡らせて、その剣の主をその眼の中に捉える。男は顔に青筋を立て、憎しみを込めてその人物の名を、叫んだ。
「アーサーーーッッ!!!!!!!」
剣を振るった、アーサーは歯を強く噛み締めて、男を睨んだ。
「すまない。遅れた。我が友、ランスロット。この国の悲鳴は、確かに宰相から受け取った。」
白き鳩。宰相が、最後の力を振り絞って、託した希望の鳥は確かにアーサーの元へと辿り着いた。
「この国の誰も、本当は悲劇を望んでなどいない!!!!」
アーサーは、剣を血が滲むほどに握り締めた。
「終わらせる!!!!!この悲劇に、全てに、終止符を打つ!!!!!!!!」
暗闇のなか水中を漂うように、ガラハッドは意識を微睡ませ、微かに聞こえる声に耳を傾けていた。
『ガラハッド………ガラハッド、目を覚ましなさい。』
どこか懐かしい声に、目を開ける。暗闇のなかの、微かな光。その向こうにいる人物に、思わず彼は涙を流した。彼女は言う。
『大丈夫。ずっと見守っていましたよ。』
優しい温もりに包まれる。昔に感じた、懐かしい温もり。ガラハッドは、涙を流して、抱きしめ返した。
「母上…………。」
『ガラハッド、たくさん生きて、たくさん人生を楽しんで、ゆっくりとこっちにいらっしゃい。ずっと待っていますからね。愛しい、ガラハッド。』
「……………はい。」
空に瞬きが溢れる。闇は、晴れていった。
「ランスロット!!!!」
「あぁ!!!」
アーサーが上空から振り下ろした斬撃は、地面を穿ち、古の王、ゼノンは跳んでかわす。しかし、ランスロットはアーサーと阿吽の呼吸で間髪入れず、かわす術の無いゼノンへと一撃を見舞った。ゼノンの身体が上下へと分断される。
「この、下級市民どもがァァァッーー!!!!」
ゼノンは下半身を黒い液体にすると、それは瞬く間に上半身の元へと集まり、身体は再生した。だが、アーサーが首を裂き、そして直後にランスロットは頭を潰す。何もさせない。圧倒的な連携を前に、ボールスは息を呑んで見つめる。
「こ、これは…………。」
下半身に泥のように這いずり、それは集まった。ゼノンの身体が痙攣し、頭が再生する。
「ハァ、ハァ………………」
「ランスロットッ!!!大丈夫か!?」
「あぁ、問題無い。」
身体を切り刻まれた、ランスロットはゼェゼェと肩で息をしていた。何とか、気力で支えられているその身体は、今にも崩れ落ちそうだ。
(たのむ、もう少し持ってくれ………。)
ランスロットは、ゆっくりとゼノンの元へと歩を進める。ゼノンの身体は、完全に再生し、目の前の2人を睨んでいた。
「侮っていた。悔しいが爺いどもの言う通りだったらしい。」
ゼノンは、黒剣を影の中に浸し、地面に手をつき、笑みを浮かべていた。
『贄剣』
ブクブクと地面が湧き立ち、ヒトの骸骨が纏わりつき、怨嗟の声を放つまがまがしい剣が姿を現す。ゼノンは言う。
「この世に生きるすべての生きとし生ける、生物は、我の贄となる。悦び、讃え、感謝せよ。我は原初の王。ゼノン。世を統べるものなり。」
ランスロットは、剣を向け言い放つ。
「王とは、民を守り敬い、そして心から、愛される者のことをいう。貴様は決して王などでは無い。」
アーサーは剣を構える。
「全て、終わらせよう。後悔も過ちも、全て。この命、これまでの全てを懸けて。覚悟しろ、偽りの王よ。」
ゼノンは、高笑いし、そして剣を地上へと突き刺した。
「望むところだ。」
無数の怨念による斬撃が宙を駆ける。辺りは一帯一瞬で、更地と化し、あまりにも絶え間ないその斬撃に、2人の身体が立ち止まる。アーサーと、ランスロットは、無言で対となる、構えを取った。
『アロンダイト』
『エクスカリバー』
2人は、共に駆ける。斬撃に身体を切り刻まれながら、決して速度を緩めず、ゼノンの懐へと辿り着いた。
「…………やるではないか。」
2人のその一撃は、ゼノンの身体を完全に引き裂き、光と闇の奔流は、今度こそ目に見えぬまで、その存在を消し去った。
「……………惜しかったな。」
暗闇が収束し、形を成していく。
「我は、魔女と同じ、不死だ。」
ゼノンは剣を2人に向け、上に掲げる。
「何人たりとも、我を殺すことはできん。」
「…………………なっ!?」
ゼノンは、身体の焼かれる感覚に、目を見開く。そして、自身を刺し貫くそれに、目をやった。
「終わりだ。」
背後には、神の槍に手を焼かれそれでも握りしめ、手を離さないガラハッド、そしてそれを支えるリーリアの姿があった。
刺し貫くは、神槍。不死すら屠る、その神の光は、瞬く間にゼノンを焼き尽くし、欠片も残さず、その断末魔と共に、全ての終わりを告げた。
ランスロットは、既にほとんど見えていない、その視界で、愛する人の姿を見た。
「リー、リア………?」
「よく頑張ったね、ランスロット。」
ランスロットは、リーリアに抱き寄せられる、
それは、最初に出会った頃のように荒廃とした景色の中の、2人の光景。空からはあたたかく、光が差し、温もりに包まれた2人の魂は、光とともに、空へとゆっくりと、昇っていった。瞬く光が、ガラハッドをやさしく照らした。




