行動計画2
「まずこのプロジェクトを止めさせるにあたって、どこから攻めるのかということになりますが、ここは既にフェロちゃんと進めてあります。基本的には計画は2段階に分かれます。まずはフェロちゃんに介入しているインターフェースをこちらで掌握。次は固定されている状態を解除して、その後固定している装置を暴走させて破壊します」
「簡単そうに言うけど、そんなに巧くいくの?」
アナが不信感を顔に出す。
「インターフェースの回路図は既に手に入れてあるので、技術的な問題は解決済みです。そこで必要になるのがそのインターフェースがどこに設置されているのか確認することなんです」
「回路図なんてどこから手に入れたんだ」
「基本的に、デジタルデータでサーバに上がっていれば、フェロちゃんが探し出してきてくれるんです。今回の回路図はプロジェクトの企画書に入っていたものだそうです」
優雨丞が呆れたような顔をして頭を振った。
「それってかなり面倒よね。それよりさっきの名簿の政治家とか官僚を襲って、止めさせた方が早いと思うんだけど」
「それで終わればいいんだけど、それじゃ現場が納得しないでしょ。企業にしてみればお金が動いているから止めたくないし、途中で潰したら面目が立たない。技術者にしてみれば目の前に研究成果がぶら下がって居るわけでしょ。もう完成が目の前にあって結果を見たくてうずうずしている段階よ。動かしちゃえばこっちの勝ちって、絶対にスイッチ入れちゃうわよ」
「ああ、確かにね。あたしがその立場だったら、きっとそうしちゃうと思うわ」
アナが苦笑いをする。
「最終的にこのプロジェクト自体が無理だったって、全員が思わないと終わらないのよ。可能性を残しておけば、後で同じ事やろうとする人が出てきちゃうから」
「ひとの性ってやすっかね」
何故か大地がまとめてくれる。
「先に細かい話をしておくと、プロジェクトの企画書から、プロジェクトの根幹を担っているインターフェースを開発したのが、わたしが仕事を受けている第三興商と山代工業大学の共同研究プロジェクトだということが判りました」
おお、と言葉にならない声で皆が感心する。
「理論自体は、5年ほど前に発表されたアメリカの学者の論文を起点にしているんですが、その内容というのが『ネットワーク空間上のエネルギー現象』というもので、今のプロジェクトの内容そのものなんです。論文の方は、実証実験段階で失敗したので注目もされなかったようですが、その実験の際に行ったのがプログラムを用いた手法だったので、フェロちゃんが握りつぶしたんだそうです。くすぐったいことをされたって言ってました」
「くすぐったかったんだ…」
ボソッと大地が呟く。
「ですが今回のプロジェクトでは、新たにインターフェースを開発して接続したようです。残念ですがフェロちゃんからそのインターフェースには手が出せないそうなんです」
「それではどうするつもりなんだ」
「まずはその回路図をフェロちゃんが動かないものに差し替えました。これで予防は出来たんですが、ハードコピーがどこかにある筈なのでこれを廃棄したいんです」
「それを俺たちでやればいいんだな」
「そうです、次は使用しているインターフェースなんですが、これがどこにどう置かれているのかの記録が全く無いんです。大学と第三興商にあるのは間違いないんですが、他にもあるかもしれません。それでそれを見つけてフェロちゃんが介入できるように回路に割り込みを入れます。それが完了すれば、後はフェロちゃんが巧くやってくれるそうです」
「簡単そうに言うけど、それってかなり難しい事じゃないのか?」
「正直、難しいと思っていますけど、これが一番確実だという結論になってます」
「まあいい。それで具体的にはどうするつもりなんだ」
「回路図のハードコピーとインタフェースの設置場所の確認です。名簿の中でこれを確実に知っていそうなのが第三興商の渡辺明子常務と中田真司部長、山代工業大学の柳原孝太郎教授です。なのでこの3名から確認しようと思っています。職場と自宅の場所は確認済みです。後は誰がどう動くかを決めるだけです」
「あのね、2人とも勘違いしてそうなんで、あたしから補足しておくわよ」
話しの重要な部分になった所で、突然アナが割って入った。
「ミチルって冷静そうに見えるかもしれないけど、荒事の経験全然無いのよ。サキュバスの経験も浅くて、実際には頼りないんだから、あんたたちサポートしっかりしてあげないと絶対に失敗するわよ」
「ええええ!」
大地の表情が驚きに変わり、優雨丞は目を見開いてミチルの顔を見直す。
「仕方ないのよ。ミチルはすべてが特殊なんだから。この際だから言っておくわ。ミチル、いいわよね」
「…任せます」
「面倒な話だから、途中で質問なんてしないでよね。実はミチルはサキュバスになったばかりなの。実の母親とは死に別れで、西糖家に預けられて育ったのよ。普通の人間としてね。ところが急にサキュバス化したのがつい最近。それでうちのギルドで預かることになったの。あんたたちに捕まった時がギルドに行く途中だったのよ。それでうちに来てから普通のサキュバスと違ってたってことも判ったわけ。だから狩りの仕方もへたくそだし、飛行経験もあんまりなくて頼りないのよ。でもね、そのおかげでプログラムの仕事も出来ていたわけだし、今回の問題も解ったのよ。彼女の経験があったから、今みたいな計画も立てられたの。ミチルでなきゃ出来ないこと沢山あるんだから。えーっと、だからしっかりサポートしなさいってことなのよ」
ミチルはちょっと興奮気味になってきたアナの肩に手を置いた。
「アナ、ありがとう」
「うぉー、ミチルさんすごいっすね。俺たち絶対守りますから、頼りにしてください」
「そういうことだったのか。道理で…。いままで変だと思っていたことの理由がすべて解ったよ。サキュバスに普通の人間の家族とかあり得ないしな。妙な違和感はそういうことだったんだな」
しかしまぁ、アナは咄嗟によくもでっち上げたものだとミチルは感心した。やはりこういう時のアナの回転の速さは特筆ものと言えた。
「はい、あたしの話は終わり…。喉乾いちゃったわ」
「ああ、コーヒーお代わり持ってこようか…」
「いいわよ、自分で出来るから。それよりあんたはもう少し話進めておきなさいよ。はい、あんたたちもいるんでしょ…」
「ああ、すまない…」
アナはお盆に全員のカップを乗せ、キッチンに運ぶ。
「お腹空いてませんか? カップ麺か、お菓子になっちゃいますけど」
「ミチル、甘やかさない方がいいわよ」
アナがコーヒーを淹れながら口を挟むと、優雨丞がニヤリと口元をゆがめた。
「俺はカップ麺がいいな」
「俺もカップ麺で頼みます」
「何言ってるのよ。頼むんじゃなくてここにあるから自分でやりなさいよ、ミチルはどうするの?」
「あ、あたしは昨日買ってきたクッキー、出しておくわね」
そう言ってミチルも腰を上げた。
狼男の2人がカップ麵を食べている間がいい感じの休憩になった。重い話が続いた後で雑談に話が弾む。
「ミチルさんは一人でここに住んでるんすか?」
「いいえ。さっきアナ言ってたように、最近はずっとギルドでお世話になってるから。そろそろここは引き上げようかと思ってたところ」
「もったいないっすね。俺たちなんて全員住み込みだから、うらやましいっす」
「そうだな、もう少し自由が有ってもいい気はするな」
優雨丞は食べ終わったカップを手に台所に向かった。
「あらそうだったの。ちょっと息苦しそうね」
「サキュバスはみんな、そこんとこ自由なんすか?」
「基本的には自由よ。みんなどこかに部屋借りて適当に住んでるわね」
「うらやましいっすねぇ。俺たちも何とかならないんっすかね」
「何を言っている。お前が一人暮らししたらどうなるか考えてみろ」
「いやぁ、本当だ。否定できないっす」




