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サキュバスは狼男の夢を見ない  作者: 無沙


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作戦行動1

  まずは技術部分の確認を優先するということで、山代やましろ工業大学の柳原やなぎはら甲次郎こうじろう教授の確認から始めることになった。


 優雨丞ゆうすけの運転するバンはミチルとアナ、そして大地たいちの4人を乗せ、山代工業大学へ向かっていた。本来であれば、今回の行動に大地は不要なのだが、今後の確認のために同行することになった。

 既に陽は沈んでおり、サキュバスが行動できる時間だ。

 優雨丞が入り口で連絡済みであることを伝えると、警備員はすんなりゲートを上げた。警備室の画面にはミチルたちが来校する予定になっていることが表示されている。事前にフェロちゃんが入力していたもので、今晩中にはその記録自体が抹消される手筈になっていた。


 優雨丞はキャンパス内の奥にある研究棟まで車を進め、目立たない位置に車を止めた。未千流がフェロちゃんインターフェースをつなげたノートパソコンの画面を確認する。

「教授のパソコンに入力があるので研究室には居るようです。ただ他のパソコンにも入力があるので、教授1人では無さそうですね」


「それじゃ先に行って確認してくるわよ」

 既にサキュバス化しているアナはバンのドアを開け、ふわりと浮かび上がった。事前に外から研究室内の様子を確認しようというのだ。


 未千流のスマホにすぐに着信があった。

「部屋の中には3人、教授以外に学生っぽい男女が1名ずつ、ミチルも準備しておいてね」

「解ったわ」

 教授と男子学生はアナが、女子学生はミチルが担当するという意味だ。


「研究室には教授の他に2名学生が居るようです。手筈通り2人に先導してもらって、入室後に私とアナで押さえます」

「了解した」

 優雨丞はミチルの肩を安心しろというように、ポンと叩いてから車のドアを開けた。すかさずアナが飛び込んで来るので、コートを手渡す。翼を閉じると認識阻害の効果が無くなるので、サキュバス化を解くのは車の中で行なう方が安心なのである。


 作業服に工具箱を手にした狼男2人が先導する後を、アナとミチルが膝より長いコートを纏って続く。コートの内側はミチルもサキュバス用の戦闘服。この後何が起こるのかは解らない。

 研究棟のドアは、事前に用意しておいたセキュリティーカードでロックを解除。難なく建物に入ることができた。建物内は研究棟という名前の通り、担当教授に任されているようで、通路に荷物が置き去りになったまま放置されていたりと、この辺はミチルの大学でも同じようなものだった。


 優雨丞が3階の『柳原研究室』と名札が掛かっている部屋のドアをノックし、そのドアを開けて中に入る。建物自体のセキュリティーに頼っているため、研究室のドアはロックされてていない。こういう点はどこの大学も似たようなものだ。まあ、廊下に出入りする度に一々ドアロックなどしたくはない気持ちは理解できる。


「こちらの部屋で漏電があったということで確認に来ました」

 優雨丞と大地が先行し、その後からミチルとアナが研究室に入る。最後のアナは何食わぬ顔で入り口のドアをロックした。


 2人の学生は作業着姿の狼男を見ると怪訝そうな表情で、教授の方に目をやった。

「柳原先生~」

 教授が後ろを向いたまま気が付いた様子が無いので、女子学生が声を掛けた。


 アナが先に立ち、ミチルが続く。アナの髪の毛がピンク色に染まり、ミチルの髪も小麦色に変化している。

「あんた達には刺激が強いから、目を逸らしておきなさい…」


 ミチルがフェロモンを女子学生に向けて放つと、女子学生の目が一瞬見開き、直後にとろんとした目付きに変化した。頬が上気し身体の力が抜けている。

 ミチルがチラリとアナの方をうかがうと、アナは既に男子学生の方に向かっていたが、教授の方もすでに掌握済みのようで、教授がだらしない表情で視線をアナの身体に泳がせている。

 ミチルは素早く女子学生のもとに移動すると、彼女の襟元のボタンを緩めた。首筋の下に精魂の流れが見える。彼女の唇がピンク色に輝いてミチルを誘うが、ミチルは首筋の方に唇を当てて精魂を吸い出す。ミチルの身体にエネルギーが満ちてくる。どこまでも吸ってしまいたい欲求にかられるが、そこは最小限に我慢して唇を離した。

 服をめくり、これもまた()()()()()()腹部を露出させる。ここから先も、既に慣れた作業になっていた。左手を当てると、最小限の長さの槍を出して腹部に差し込む。流れ出るこのエネルギーは何なのだろう? 正体は解らないが、これを注入することによって彼女を自由に制御できることをミチルは知っていた。


 女子学生の処置を終えたミチルがアナを振り返ると、アナは教授の処置をしている最中だった。ブツリという既に聞きなれた音とともに、アナの尻尾が教授の腹に差し込まれる。


 しかしこの()()()という音は何なのだろう。実際に腹部に穴が開くわけではなく跡も残らない。ただそういう『音』が聞こえるのだ。


「そのまま作業していてね。わたしたちの事は気にしなくていいから」

 ミチルが女子学生にそう伝えると、彼女は何事も無かったように先ほどまでの作業に戻った。ミチルの仕事はこれで完了である。


「教授はもう大丈夫よね」

「ミチルは好きなだけ質問していいわよ。優雨丞は狼男視点で確認しておいた方がいいから、横に居てもらった方がいいかもね。大地君はドアの外を警戒しておいてちょうだい」

 アナはサキュバス化を解くと、少し離れたところで机に寄り掛かった。ミチルもサキュバス化を解いて近くの椅子に腰を下ろす。


「教授、FLFプロジェクトは解りますね?」

「ああ、今もそのチェックをしていたところだからな。それがどうかしたのか?」

「まずはプロジェクトの進捗状況を教えてもらえるかしら」

 優雨丞はミチルと教授の横に位置取ると、スマホの録音アプリを立ち上げた。


「そうだな。実験段階としては、小規模の電力供給を確認できたところだ。今の装置の規模としては1千kWhだが、来月には1万千kWhの設備が稼働を始める事になっているよ。いや順調でうれしいよ」

 これは優雨丞が想定していた尋問ではない。教授がただ嬉々と機密情報を語っているだけだった。


「プロジェクト上、何か問題は起きてるんですか?」

「問題か…、いつものことだが人材だな。全く重要なことを理解していない…」

 教授は語りだすと止まらなくなるタイプのようだ。

「教授、今はあなたの苦労話を聞く時間じゃないのよ」

 アナがじろりと教授を睨んだ。


 ミチルは柳原教授から必要なことを聞き出した後、男子学生に研究室のインターフェースを用意してもらった。ケースを開け、回路の実装状態を確認して写真を撮影する。また研究室内には回路図のハードコピーが無いこと、回路は第三興商が制作したことを確認した。


「これ以上聞き出せることは無さそうね」

「それじゃ長居は無用ってことで帰りましょ」

 既に1時間近い時間が経過していた。潮時と言ってよいだろう。


 4人は車に戻り、大地の運転で急いで大学を離れた。

「想像していた通りなんですけど、大学は理論の提供だけで実践部分には係わってないみたいです」

 戻りの道中、ミチルが柳原研究史で確認出来た内容をまとめる。

「それと、思っていたよりは時間的な余裕がありそうです。次の段階としては中規模の実験に入るようなんですけど、その稼働が来月。しかもその制御プログラムの開発をわたしがやることになっているようなんです」


 全員がミチルの言葉の意味を理解するのに、一瞬の時間を要した。

「どういうこと?」

「…そんな都合のいい話になっているのか」


「教授の話からすると、ほぼ確実だと思います。そもそも今回この話を持ってきたのが第三興商なんですよ。年末にアナと一緒に行ったあの時の内容が、この発電プロジェクトだったんです」

「ああ、そう言う事だったのね」

 アナが納得したように頷いた。


「おそらく第三興商内部でプログラム開発が難航してるんで、わたしに回してきたんだと思います」

「ということは、ミチルさんが旨くいかないと言えば遅らすことができると…」

「そういうことになりますね」

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