2日目17:34:09/民宿「ひまわり」/前田千尋
「・・・」
「大丈夫?」
私は右腕を抑えながら椅子に座る。
恵美が少し心配そうな顔をして言った。
私は手をひらひらと振って答える。
「大丈夫」
流石に、動きの遅い子を庇いながらの探索は厳しいものがある。
気づかれぬように行動しても、何回かは奴らに気づかれた。
銃を撃てばいいのだろうが、銃声で周囲の異形に感づかれて囲まれるのが見えたので、仕方がなく殴り殺しているのだが・・・
何発かは喰らうものだ。
一般人風情なら、一発ももらわずに殺せるのだが・・・
彼らは人間じゃない。
人間とは思えない速さと力で体を動かす。
何度か顔と腹部を殴られ、危うく馬乗りにされたが、何とか乗り切ってこれた。
ついさっきも、刃物を持った異形に右腕を切られた。
血を止めて、包帯を巻く。
徐々に体温が上がって熱いので、上着のジッパーを開けて、袖も折って捲って風通しを良くした。
腹部に喰らった銃弾の部分の巻いた包帯と、右腕の包帯が見え、そこが赤く染まっている。
私は少しだけ体を休めると、すぐに立ち上がって恵美の手を取った。
「行こう・・・」
「何処に・・・?」
「彼は武器を持ってない。だから目的を果たせばどこかに隠れてるんでしょうきっと」
私は旅館の扉を開けて周囲を見回す。
刻一刻と深くなっていく霧のせいで遠くがよく見えないが・・・周囲には何もなさそうだ。
「いい?恵美だけは生きて・・・ここを出るの」
「・・・・・・」
何度も何度も彼女に言い聞かせるように言う。
彼女はそのたびに頷く。
これは私への言葉でもあるんだ。
恵美だけは、ここから必ず生きて返す・・・それがいま私にできる最低限の事だから。
私は切られた右手の痛みを感じながら、足を踏み出した。
腹部も歩くたびに痛むがもう慣れた。
一先ず学校へ行こう・・・・
彼の行き先がどこかは知らないが・・・行きそうな場所をつぶしていくしかない。
もう、家にも神社にも、役場にも行ったんだ。
あとは学校か、教会だ・・・
私は痛みを発する体に鞭を打って足を踏み出す。
そして、体を赤い霧の中へと溶かしていった。




