初日19:57:33/元川家/前田千尋
「由紀子の家は安全といってもよ、何で目と鼻の先の家に戻らなかったんだ?その、弾の補充とかもあるだろ?」
「・・・いい質問だよ。浩司。貴方時代が時代なら私の居た組織でもやってけるんじゃない?」
私達は、ついこの前引っ越して行った由紀子の家に入り込んでいた。
まだ、家主が出ていって日が浅いから、未だに人の気配が残っている。
廃墟のように変貌した町の建物の中でも、ここは比較的ダメージが少ないのも、それに拍車をかけていた。
「私の部屋の窓から、誰かの人影が見えた。それだけ」
私は、由紀子の部屋のベッドに腰かけながら言う。
私の家に戻る・・・あと少しというところで、私は自分の部屋に人の影が見えることに気が付いた。
それは、異形の人間のようなフラフラとして挙動ではなく、生きている人間らしい動きをしていた。
きっと生存者だ。
だが、何故か合流してはならないような気がした。
「それって生きてるやつじゃないよな?」
「いや。分からなけど・・・今はとにかく家からその影が出ていくまで待つつもり」
私は、そういってM1を軽く点検した。
「あの影次第では、公民館まで大分かかる・・・弾も・・・あと1弾倉分じゃ心もとない」
「・・・ああ、あの場はきっと破られないよな?」
「恐らく・・・大分固い壁だった。何で作ったの?」
「そこら辺の棚だの机だのをドアの前に置いてるだけだよ」
「そう・・・なら、撃たないほうが良かったかもね」
私は由紀子のベッドに倒れながら言った。
かすかに残る、由紀子の感覚が私の疲れを取ってくれる。
浩司は、少しだけ不思議そうな顔をすると、私に続きを促した。
「義昭や、加奈みたいに・・・一度倒れた彼らは、もっと酷い姿になって甦るの・・・あの周辺の者は皆今頃ああなってるでしょうね・・・、ま、商店街までは引き付けられたから良いけれど・・・ん?」
私は、ベッドに横になったまま地鳴りのような音が鳴るのを感じ取る。
「何?」
「千尋、外だ外!」
「え?」
窓の外を見た浩司は血相を変えて私の方へと飛び込んでくる。
津波の轟音だと気づいたのは、それからすぐのことだった。
「津波だ!」
その言葉とともに、浩司は私に覆いかぶさるように飛びかかってきた。
そして、抱きしめられると同時に、壁が壊された音が耳に入る。
直ぐに破片や水が私達に襲い掛かる。
私も、彼も、大した準備もできずに襲われた津波に、成す術もなく意識を手放した。




