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光の魔法使いクララ・パドヴァールの放浪記 阿鼻叫喚シースルー

 側から見たクララの図

 瞳を開ければぽこぽこと、吐いた息が上へと昇ってゆく。外を見るといつも通り同族が気ままに泳いでる。


 『暇だなぁ』

 特にやることの無い退屈な日々。ここまで落ちる光は明るいが、きっと空はもっと明るい。

 尽き果てぬ好奇心。危険があるのは分かっている。己の立場も、もし私が何かあったときに多大な迷惑を掛けることも。


 それで納得出来たらこの世界など存在するだろうか?


 えぇ、つまり今度こそ私は海面に出る。やるのよ、ルルレア。貴方なら出来る!


 息抜きで少し出る為だけに巡回の穴を抜けて、コソコソと抜き足、差し足、忍び足。足ないけど。


 『…………案外ザルなのね』

 そもそも私が抜けることを想定してないだろう巡回の網を抜けて、上へ、上へとヒレを動かす。


 (あと少し、あと少しで…………)

 海から差し出す光に向けて手を伸ばす。




*****


 海上の世界は壮大で、荘厳な蒼の世界だった。一面見渡して圧倒される程の広さと、透き通った蒼空。


 「あ……、あー、あー」

 声も問題なく出るようだ。さて、どうしよう。取り敢えず見に来ただけだから、何しようとか考えてなかった。…………どうせだし、少し流されよう。




*****


 『…………うむ?』

 波に揺られて少し寝てしまった。身体もいつの間にか沈んで、海面が少し遠くにある。


 しばらく海面を見てると、何かがこちらに流れてきた。


 (何だろう? 少し見てみようか)

 また海面に顔を出すと、銀髪の少女が器用に樽の上で項垂れていた。…………問題があるとしたら聞いていた話より布面積が少ないというか、あれって下着なのでは?


 確か巡回の足がある者がそう教えてくれた気がする。でも、下着って言うからには上に何か着るのではなかろうか? その巡回の者だって、霓裳羽衣(げいしょううい)を纏っていたし、下着よりは露出の少ない服を着ていた。


 (……面白そう、少し様子を見てみよう)


 少女の様子を見てると、様々なことが分かった。

 まずこの少女が魔法使いということ。項垂れながらぐちぐちと漏れる愚痴から聞いた。

 また、周りの様子に気付いてないことから完全に暑さにやられたようだ。

 あと、何故流れてきたのか。信じられない話だけど、お爺さんに流されたらしい。…………本当に何があったのか聞いてみたい、そう思った。


 見てると、魔法を使い始めた。空中に水が浮かび始めて、一つに集まり、目に見えるほどの冷気を発した。なんて美しい光景なんだろう。

 そう思った意識は彼女の奇行で打ち消される。


 「うひゃぁ! 冷たい、冷たいよぉ」

 彼女は服を纏わせた氷に引っ付いて、嬌声を上げた。

 何というか、今ここにいてごめんなさい。

 気まずい気分になりながらも、ここまで来たらこの変態さんのことを時間の許す限り見たくなった。



 しばらくすると冷静になったようで、顔を赤く染めつつまた魔法を紡いでいた。

 良かった、生粋の変態さんではなかったんだね。


 「ふふっ! 勝った、勝ったわ、この世界に!」


 今度はまさに有頂天と言った感じで、世界に何かを叫んでいる。少なくとも変人だと、私の中の順位で決定した瞬間だった。


 「へぇー、世界に勝つなんて凄いね」

 ぷかぷかと波に気持ち良く揺られながら、称賛の言葉を口にする。


 「ええ、これでジジイの魔法を………………」

 どんな反応するだろう? 楽しみだ。


 「貝、だとっ!」

 えっ! そっちが目を惹くの?


 「えぇ、普通触れるならこっちじゃないの?」

 外に出たら凄く驚かれて、攫われちゃって、不老不死の薬にでもしようと手を伸ばして来たら…………面白いなぁ、と思ったのだけど。


 「エラね、…………それより貝!」

 全く相手は私に興味を示さなかった。

 貝の方が興味深いのか…………

 ラフな格好でここまで来たのは正解だったのか、間違いだったのか。


 「ねぇ、おぉーい。聞いてる? 聞いてないね……」

 ずっと相手は私の胸元から視線を外さない。手振り身振りも意に返さず、ただ見てるだけ。なのに、何で冷や汗が止まらないんだろう…………



 「うん、ぱっちり観察したわ! メモメモ」

 そう言って、少し丸まった紙を取り出して、懐のペンで何かをメモし始める。


 「それは?」

 「……ジジイの手紙…………、ん?」

 ちらっとこっちを空よりも蒼い目が覗く。


 「…………いつからいた?」

 「貴方が氷に嬌声を上げて、身を捩らせる所から」

 赤くなったかと思ったら、青くなっていく少女。

 少し相手に意趣返し出来たので口がにまにまする。


 「ち、ちょっと忘れてくれると…………」

 「そうね、私の願いを一つ聞いてくれればいいわ」

 ごくりと息を呑む少女に笑いながら、私はもし運命の出会いがあると言うのならこの事だと確信めいたものを感じていた。

 この海は結構透明度の高い海。

 でも、海の底は深いと思う。

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