針は悠久を刻まず、未だ盤を離れること叶わぬ
時計といえば懐中時計!
明治か、大正あたりの紳士たちの姿に魅力を感じる作者です
興味が散らばりすぎて、好きなものを全て集めようと思ったら、いくらかかるのか……
蒼い、蒼い炎が目の前で燃え盛る。かつての自分を、かつての家族を燃やしていく。
木造の家はまるで棺桶のようだった。幾つもの視線がその棺桶を見つめて、自分には気づかなかった。
自分は走った。言葉も分からず、何故あんなことが起きたのかさえ分からぬまま、ただ恐怖感を抱えて走った。
いつの頃からか子供たちには除け者にされ、大人たちは眉間に皺を寄せて、自分を害虫が何かのように煙たがる。
家は町のはずれ、少し開けた場所にぽつんと一軒だけ置かれていた。
父はいつも顔に笑顔を貼り付ける人だった。病に伏せ、歩くこともままならない。母の介護なしでは口にご飯を運ぶことさえ難しかった。
でも、父は引き攣った無理矢理の笑みを浮かべながらも、頭をよく撫でてくれた。
母は優しくて、温かな人だった。弱音を吐かず、父を支えながら自分をよく抱きしめていた。森から木の実を取ってきたら褒められて、自分は嬉しかったのだと思う。
『妹』もいた。小さくて、弱い存在だから、『兄』だから守らねばと思っていた。
全てが蒼炎に纏われて、上へと昇っていく。小さな木の椀も、父が元気だった頃にくれた些細な宝箱も、団欒の場であった食卓すらも覆い尽くして消えてゆく。
『自分』の去る背は小さくなってゆく。
『拙者』はそんな彼から再度家に目を移す。
蒼い炎は『死者の魂』とはどこで聞いた言葉だっただろうか。近くに取り込む空気がない時、炎は赤い。しかし、取り込む濃度が十分の時、炎は青く燃える。
この炎は拙者を死後の世界に連れ去ってはくれないのだろう。
かつての自分はこの時に家族と一緒に死んだのだ。
だから、これは拙者の自己満足で…………自分が自分であった頃の贖罪だ。
父が生きていれば、平穏な日常は続いてた。
自分が死んでいれば…………
もう既に叶わぬことは分かっている。ユラを悲しませることは出来ない。
正直、煮え切らないのだ。昔よりも今が大事で、ただ気になってるだけ。拙者が調べる必要はない。誰が真相を知っても、結果は変わらぬのだから。
今になっては、父も母もその顔を思い出せない。復讐をしようと思うほど、激情に駆られているわけでもない。ある種の惰性的な部分も確かに存在するのだ。
ここには失ったもの以上に得たものが多い。今はこの手にあるものを零さないようにするだけで十分。
調べるのは少しの気掛かりと、惰性の使命感。振り払えるのなら、振り払いたい。
しかし、それで今を失うというのなら…………
◇
からからからと車輪が回る音、人々の喧騒は一本の道を囲む。
少し外れた場所から、
「これは何ですか?」
「花魁道中と言うやつだ、次の店にはここから行く方が近い」
「そうなんですね、ところで花魁って何ですか?」
「あぁ、花魁というのはこの街の…………」
「わぁ、わぁっ! わぁっ!! あれだよ、この街で一番人気の看板娘だよっ!」
純粋な疑問を答える声はさらに大きな声で遮られるが、それすらも喧騒の前では掻き消される。
「ふむ、確かにあの先頭にいる人は美人だね。顔のバランスが…………」
黄金比、白銀比の話が始まり、困惑する一同。
「帰り道らしいから、彼女らが去ったら行くぞ」
「あ、うん。それで良いです…………、それにしても先頭に立つ彼女が花魁だってことは分かるけど、後ろにいる子も…………もう、花魁なんですか?」
さっきから比率について呟く少女を置いといて、もう一人の少女が車夫に訊く。
「いや、あれは禿だ。花魁の見習いで、小さい時から教育を受けて立派な花魁になる」
少女は感嘆の声を漏らし、店に帰ってゆく花魁たちを見送った。
「それにしても、狐? の獣人が花魁に多いのかしら。後ろの子も、殆どがそうだったし」
「ああ、多い。妖狐は昔からこの仕事をしてるしな」
車夫は再度、車を動かし始める。
「どうしたん?」
花魁は店の外を見つめる禿に問いかける。
「外国の方がちらりと見えて、…………珍しいなと」
「へえ、男だったんか?」
「いえ、女性だったかと思います」
その言葉を聞き、花魁は興味を失った。
「ふーん、準備するから先にお行き。アカツキも」
禿たちは言われた通りに動き始める。
アカツキもその言葉に従い、先程までのことを頭の片隅に追いやった。
◇
結局、覚悟は定まらぬままいつも通り見回りの時間がやってくる。
幾ら懐かしい夢を見ても、水面に浮かぶ月は掴めない。
夢はいつも揺らいでいる。世界を欺き、空間を歪める妖術のように。
夢の最後はいつも妹の寝顔だ。守れなかった、家に残してしまった彼女の寝顔を。
刑部さんはこれに手をつければ、引き返せずユラを守れない。今度こそ守ると決めたのだ。
寝る前に読んでいた資料を最初のページに戻す。
このいつもが永遠に続くのならば…………どんな存在にも果たせなかったことを願いながら、時間になっても目が覚めない先輩の目の前で手を打ち、仕事が始まる。
銀髪少女「次の店は楽しみね!」
紅髪少女「ふふ、そうね。ララは何に興味あるの?」
銀髪少女「どんなものでも面白いと思うけど……、どうせなら何か記念になるものにしようかな」
・海底
???「ルルレア様が帰ってきた時にどんな祭りを開きましょうか、嗚呼待ち遠しいですね。……おい、遅れてるぞ!
その程度で、ルルレア様を守れると思うなよ!!」
海の戦士たち「はいっ!!!」




