光の魔法使いクララ・パドヴァールの放浪記 赤熱と陰
小さい頃、よく車で酔いました。
今では完全に克服し、車で本を読めます。
でも、あの頃を思い出すと……
がらがらと車輪の回る音、お腹はぽたぽた、車が揺れないことが幸いだった。
「で、次は工房で良かったのか?」
「ええ。…………ルル、少し見てみたいのよね?」
「うん、だって今素手だからね!」
背中のクッションに深く沈んだ体を持ち上げて、しゅっ、しゅっと突く形で素振りをする。
「そう、…………うっ。揺らさないで……」
込み上げてくるものに口を塞いでしまった。
*****
カァァンカァン、金属特有の甲高い音があたりに響き、煤特有の臭いが充満する。
「俺はここにいる」
「そうですか、では少し待ってて下さい」
案内人さんに待機をしてもらい、私たちは工房の中を伺う。
「すみません、誰かいませんか?」
「あん? 何だ、嬢ちゃんたちがくるようなところじゃねえぞ」
背は低いが、筋肉が盛り上がった男が炉から目を逸らして、こちらを見ている。中には他にも同じような体つきをした人たちがいるが、全員があちらこちらで作業に集中している。
「実は、ルル…………彼女は武芸を嗜んでるようなのですが獲物を持ってないようで。少し話を伺いたいのですが」
「ふむ、その嬢ちゃんはどこにいる?」
男は視線を左右に動かすが、もう一度私を捕らえた。
「ああ、彼女はここに」
背中に背負った樽を下ろして、ぐったりした彼女を見せる。
「……暑い、体が火照るどころか焼き魚にぃ……」
「うん? このへばってる嬢ちゃんか、……本当に扱えるのか?」
「えっと、とりあえず外に来てもらっても?」
*****
「はぁ、流石に中はきついわね。熱風で死にそうだったわ」
樽の淵を掴み、こちらを見つめるルルレア。
「これも海族の特性? まあ、今はいいや」
復活したルルレアの様子をもう少し観察したい気持ちを抑えて、視線を男に向ける。
「ほれ、貸出用の鉄槍だ。重さは結構軽い方だから、これを持てんと話にならんぞ」
ルルレアはそれを受け取り、くるくると槍を体を中心に回す。途中からペンを回すように指だけで回していた。
「はい、このぐらいならあと二倍くらい重くても大丈夫だと思うわ」
「…………そうか、で店に並べてるやつにするか? それとも、オーダーメイド? まあ、オーダーメイドは時間も金もかかる場合もあるから外の客にはお勧めしないが」
男の言葉に口に手を当てて考えるルルレア。後に答えが出たのか、口から手を離して、
「うーん、じゃあ既製品の方を見せてほしいです」
その言葉に男は頷き、店の方を指差し、
「あそこに並べてるから見てくると良い、掘り出し物もあるかもしれんしな。そろそろ、俺は仕事に戻る。ああ、俺のことは気にするな。ただ火の様子を見てただけだからな」
「「ありがとうございました」」
感謝の言葉を言うと、彼は背後に手を振りながら去っていった。
*****
「ルル、ところで何でオーダーメイドにしなかったの?」
「ああいうのは時間がとにかくかかるし、急ぐ旅でもないけどそんな長くここにいないでしょ?」
確かに、今はウロさんたちの厚意に甘えてるけど、いつまでもいるわけにはいかない。
「それにそこまで拘りもないし、…………作る必要性も今は感じないから」
次々に並べられた武具を見て、少し棒が太く、装飾のあしらわれた槍を手に取った。
「これで良いかな、お兄さんお会計」
黒いフードを被り、店のカウンターに座る男が手を出す。
ルルレアはお金を払い、私たちはまた馬車に戻る。
ルルレアが武器を持っていかなかったのは、海のものを陸で使ってもしょうがないと思ったから。
クララよりは武器の扱いは上手い。教えたリコリコよりは当然未熟だが。
あと、火を見る係は基本取り仕切る人が多いと聞いたことがある。基本は親方が火の具合を見るとか何とか……浅はかな知識ですが。
基本的に火を見る人は片目が潰れるので、もう槌を振るえなくなった高齢の方が実際は多かったのかな? だから、親方?
まあ、彼はよく火に親しんだ種族なので、多少は大丈夫。
黒いやつは用心棒みたいなものかな。種族は……




