光の魔法使いクララ・パドヴァールの放浪記 故郷が恋しいホームシック
同じ寝言を言っても、わざとであるように見えるルルレア
心休まるベットに包まれて、日が明るく差してきた。
改めて、私は外の世界に来てしまったのだと感じる。
私はベッドの中心で寝てたはずなのに、いつの間にか外側に寄っていた。寝相は普通なので珍しいと思っていると、
「ふわぁ、うにゅ…………」
後ろから寝言が聞こえた。振り返ると、真紅の髪をした少女が寝ていた。
………………どかされた? というか、何で私のベッドで寝てるのか。
「もう食べられないよぉ………………」
何か不確定だったものが確定したので、私はすぐにベッドから起き上がった。
今着ている寝衣はレイリアさんから貸してもらった。着替え一枚も持ってないし、洗ってない服のままで寝るのは少し気が引けたから。
私たち、キテージの魔法使いが着る服は色々な細工がしてある。模様に意味を、『力』が流れやすい素材で、私でも知らない機構を含有している。
難点は洗う手間と、着る面倒。だから、基本は常時この服を着てる人が多かった。…………私の場合は何着もある。お母さんが編んでくれたものだ。勿論、今は一枚しかない。そうでなくても、出来れば汚したくない。
「さて、行きますか」
扉を開け、戦いの地に赴く。準備は現在最高のものを。
「…………あぁ、戦士は恋人に別れを告げず、一人で戦地に赴くのですね………………」
背後からのふざけた言葉を無視しながら、私は扉を閉める。
*****
「ふむ、逃げずにここまで来たことは誉めましょう。でも、ルルレア様は渡しません!」
「なんで貴女たちは恋愛小説みたいな駆け引き台詞をそんなに…………」
私は少し自分の力を確かめたいだけだ。断じて、彼女と一緒に冒険したいという思いで戦う訳ではない。…………いたら、楽しそうとは思うけど。
「さぁ、準備は出来ました。闘技場の結界は正常に動作しています。なので、貴女も存分にその力を振るってください。相手が降参するか、審判の判断で勝ったと判定すれば終わりです」
モリ、とある文献でニライカナイの騎士が持つと明記される武器をこちらに向け、私に万全かと問う。
「そうね、始めましょう」
私の言葉に満足して頷き、貝でできたゴングは鳴る。
「先手必勝!」
こちらとあちらの距離はおよそ数十歩。服に『力』を走らせる。
「【クラッカーボム】」
相手の目、耳を短時間潰す魔法陣の魔法。基本はこれで何とかなる。目と耳を相手が塞いでるうちに、一気に責め立てれば良いから。…………勿論、本職の騎士に向けたことはないので油断できない。
腰に付いたナイフを抜き、駆け出す。向こうはもろに受けてしまったようだ。しかし、モリの切っ先はこちらを向いている。
キィン、とナイフを振るうが弾かれ、後ろに下がる。すると、ついでとばかりにモリが先程の場所の足元に突き刺さる。
(やっぱり、接戦では大きく負けている)
近づけば気配を察知される。そして、今度は目を眩ませる魔法はあまり期待できない。
相手は地に根を張ったように堅固な防御を持つ。なら、土台から崩す。
「震えだした臆病者、痴れ者は前方に進むその足を止めてしまった【ロストクエイク】」
いきなりの事態に流石にモリは地に着かせた。
次は拘束!
「その者の手は砂塵の錠に、足は地の枷に縛られた【リストレイント】」
巻き上がった砂を『力』を流して固め、足を地面に陥没させる魔法。
これが決まるなら、これ以上手札を切らずにすむ。魔法はどうしても見切られ始めると辛い。対策が予め用意されるのは当たり前だし、そもそも相手の想像力を超えるものは咄嗟に作れない。
だから、魔法使いは接近戦をあまり好まない。本職と比べれば分が悪いし、こちらも魔法の巻き添えになりかねない。
私の持つ切り札は二つ。
【クラッカーボム】は初見で敗れた。もう一つは、危険すぎるのでやることが出来ない。
リコリコさんは手に纏わりつく感触を捉え、すぐにその地面から離れた。直後、ガボンと音が鳴り、リコリコさんのいた地面が陥没する。
躱されたが、手は拘束した。及第点だ。これで、手の自由は制限した。これで突撃しても、すぐにやられることはないと思う。
「ふむ、これは………………まあ、良いです。この程度で苦境になどに陥るほど柔ではありませんよ」
閉じていた目を開け、リコリコさんは不敵に笑う。
「では、何故先ほどから私に近寄れないのでしょう? 歩を進めぬ深き溝【フォッサ・マグナ】」
少し煽り、こちらに引き寄せる。地に沼を作り、行手を塞ぐが相手は宙に浮き、こちらに一直線。
「一本!」
「一転薫風、吹き荒べ【ワールウィンド】」
風が髪をそよがせ、モリをナイフで打ち払う。手が衝撃で痺れ、私たちはすれ違う。
「軽い、立体戦闘は私の方が得意のようね」
魔法使いは三次元的に攻撃が来るので、割とそっちの方が慣れている。ハッタリで強がってるけど、効果は薄い。余裕もないので、魔法も使ってモリを逸らす。
この場所で風を使うと、向こうでは水流として変換されている? …………色々気になるけど、後回し。
「はぁっ!」
リコリコが再度こちらに突撃。しかし、手の自由は奪った。重い一撃。魔法で逸らし、連撃はナイフで捌く。正直、体がもうガタガタだ。
「…………っぅ、は、…………ふ」
汗が地に滴り、息が少しずつ上がってゆく。相手の降参を狙うために最初から飛ばしたが、持久戦に持ち込まれてしまった。相手の方が大きな動きをしてるのに、疲労はこちらの方が濃い。そして、相手の目は決して輝きを失わない。
モリが肌を擦り、つぅーと血が垂れる。魔法を唱える余裕もない、あっても決定打でなければ。
ナイフは護身術程度。加えて、相手は接近戦の達人。せめて、意表をつかなければ攻めにも転ぜない。
モリは常に必殺の一撃。対して、こちらは何とか防いでいるが、少しずつ後ろに後退している。地面を踏ん張り、何とか…………
「っぅ…………!!」
そして、私自身が張った沼に足がとられる。この瞬間を逃す相手ではない。ここは泥まみれになっても、躱すべきだ。しかし、既に相手は目前。どうする?
「そんな! 私のために争うのはやめて!」
ピクッと、相手が其方に反応してしまう。私はその隙に体を沈ませ、ナイフを逆手に持ち替える。
この頃になると、リコリコは私に向き直るが、もう遅い。
あと数歩まで来ていたリコリコの首元に向けて、ナイフを振るう。
リコリコも私の脇腹目がけてモリを突く。しかし、私はナイフを持たない片手でモリの柄をを押さえて、ナイフを突き付けた。
ドンドンドォン、とゴングが鳴る。
「勝者、クララ・パドヴァールッ!」
周囲から歓声が上がる。そして、皆がまた宴会の準備を始めていた。こちら向かって飛び込んできたルルレアを躱し、辺りを見ながら思う。
(歴代『雷帝』も、こんな感じだったら魔法ぶっ放すかもね)
ただ雷帝も混ざって、ふざけて穴を開けたというのが事実な気もし、なんだかそんな日が経ってないのに懐かしい気分になった。
ナイフ使いクララの探検譚!
……彼女自身、技術はそこまで高くない。
実際、リコリコの手首を塞いで、何とか予測できる範囲までモリを抑えてやっと耐えられているから。




