1-12 転落
今回も婚約者候補の方とは巡り合えませんでしたが、前の夜会と違って出席者の方と話せました。
しかも趣味がガーデニングと私と同じで話に花を咲かせることができましたし、小さいながらも一歩前進です!
次こそは、皆さんの期待に応えられるよう頑張りましょう!!
久々に夜会で知り合い以外と話すことができたオリヴィア。
普通であれば『え? そんなことで?』と一蹴されてしまいそうだが、ここ最近茶会でさえもお呼ばれされなくなってしまったオリヴィアにとっては大きな一歩。
嬉しさのあまり、足取りは軽い。
スキップをし出しそうな勢いだ。
その軽やかな足取りで、オリヴィアは帰路につく前に今宵の主役であるフレッドに一言挨拶をしようと、夜会の会場、二階にあるホールに向かおうとホール近くまで戻ってきていた。
……あ、ですがどうしましょう。
が、ホールへ通ずる階段に足を踏み出す前に口元に手を当てた。
私、あの方のお名前聞き損ねてしまいました。
またガーデニングの話をしましょうと約束しましたのに。
励ますことに必死で、名を名乗るということ忘れていたことにオリヴィアはここまで来てようやく気がつく。
約束しても相手がわからなければ次の約束を取り付けようがない。
フレッド様なら知っているかもしれませんが、私が聞いたせいで変な噂になるのは迷惑でしょうし。
自分の名前も名乗らないなんて不躾なことをしてしまったのでしょう。
再度挨拶に伺った方が……ですがそれだと約束に……
すぐに庭園に戻ろうか、それとも使用人達に一言かけてから戻ろうか。
オリヴィアが迷っていると、階段上から歯切れのいい足音が聞こえてきた。
オリヴィアは階段上を見上げる。
階段上にいた少女と目が合った。
栗色の髪に淡いピンク色のドレス。
シエナ様?
そこには庭園ですれ違ったシエナが立っていた。
オリヴィアはシエナの視線に困惑する。
何故ならシエナがまるで親の仇だと言わんばかりの鋭い目つきでオリヴィアにじっと視点を定めているからだ。
……私に御用があるのでしょうか?
オリヴィアは理由が気にはなったが、二人がいるのはそれぞれ階段の上と下。
二人の間には距離がある。
声をかける前にその視線が自分に向けられたものであるか確かめるため、ひとまずオリヴィアは軽い会釈だけをした。
その時。
「や、やめて!!」
「え……?」
シエナが悲鳴に近い声を上げたのだ。
何事かとオリヴィアは顔を上げるが、先程と変わらず階段上にはシエナの姿しかない。
それなのに、誰かと争っているかのようにシエナは身体を激しく動かし、自身の服を引っ張ったり乱暴に扱っている。
「や、やだ! やめて!」
何をされておられるのでしょうか?
訝しげに眺めるオリヴィアを尻目にシエナは一人、階段上で叫びを続けている。
「何するの!!」
ついにシエナは身体を大きく揺らし。
「あ、危なっ」
「きゃあぁぁぁぁあ!!」
自ら階段に飛び込むように転げ落ちた。
階段に響き渡る痛々しい音。
オリヴィアのいる階段下まで落ちきったシエナは、勢いよく大理石の床に叩きつけられる。
「だ! 大丈夫ですか!?」
オリヴィアはすぐさまシエナに駆け寄った。
「……ううっ」
床に突っ伏しうめき声を漏らしているシエナ。
頬や腕には痛々しい青アザができている。
い、意識はあるみたいですが……
オリヴィアが跪きシエナの容態を確認していると。
「何があった!?」
シエナの悲鳴を聞きつけホールにいた面々が飛び出してきた。
何人かが階段上から顔を覗かせる。
丁度良いところに!
オリヴィアは助けを呼ぼうと口を開いた。
「あの! 実は……!」
「助けてください!」
しかし、オリヴィアの助けを求める声はふらつきながら身体を起こしたシエナに遮られてしまう。
「彼女が、オリヴィア・ローウェル嬢が……」
そしてシエナが続けて口にした言葉はオリヴィアにとって耳を疑うものだった。
「私を殺そうとしたの!」




