友だちの壁を壊したい(レオン視点)
当時の婿取り大会は、純粋に強さを競う武闘会だったことと、誰が自分の婚約者になるかを、女性には見届ける義務があったことを、アリスに伝えた。
死人こそ出なかったものの、目の前で男たちが殴り合い血を流す光景は、ご令嬢には刺激が強すぎて、大きなトラウマになる。
それに、自分のために体を張る姿を嫌というほど見せつけられるから、相手がどんな不細工だろうが、気に入らない男だろうが、婚約を受け入れざるを得ない。こんなやり方は、アリスも敬遠するはずだ。
「うーん。自分が優勝の賞品代わりになったみたいで気分が悪いけど、隠されるよりも、ずっといいわ」
おや、意外だ。
さては、さんざん内緒にされたことが、よほど頭にきているらしい。僕だけでも、怒りの対象から外してくれないだろうか。
「ただ、過去の優勝者たちは皆、かなりの暴君だったそうだよ。女性は、ずいぶん辛い婚約期間を過ごしたみたいだ。見るに見かねた、当時の国王陛下のご配慮で、女性側にも拒否する権利を与えた。こうして、敗者復活戦が開かれることになったんだ」
「……そうなの? でも変ね。肖像画では、みなさん仲が良さそうに見えるのに。結婚すると、関係性も変わるのかしら」
そこには、気付いてくれなくてもいい。
「話を戻そう。君のご先祖さまは、大会に対して不満を抱き、男装して参加した。それだけならいいだろうが、彼女は優勝してしまったんだよ」
「ご先祖さま、すごーい」
アリスは感動しているが、待つんだ。
彼女のしたことは、完全にアウトだよ。
「よく考えてごらん。貴族なのだから、結婚相手を自由に選べるわけないし、親の決定には従わなければならないだろう? しかも、婿取り大会の決定に逆らうことは、国に背く行為だ。当時は、処罰も検討されたみたいだよ」
「ご先祖さま、ピーンチ」
まずい。アリスの語彙力に限界が訪れている。話が長くなり過ぎたのかもしれない。もう少し、耐えてくれ。
「えーと、隠す理由は、大会を邪魔されないためなのね。でも、婚約したら教えてくれてもいいのに」
それを言うのか。
事実を知って、彼への気持ちを一変させた君が。
「……話したら、ラウル様との婚約を取りやめにしたいと言えた? 三年の月日を、いや、もしかしたら、それ以上の時間を君に費やしたのだと聞いても、あの手紙が書けたの?」
「それは……」
今だって、浅はかだったと自分を責めているに違いない。でも、僕は君から手紙をもらって、ようやくチャンスが訪れたのだと、歓喜したんだ。
「敗者復活戦になったら、話しても良いことになっているんだよ。そうでなければ、結婚するまで気づかぬままだ」
「……知らないのは罪だわ」
そう思うのも無理はないが、周りがそうしていたのだから君の責任ではない。落ち込んだアリスに対して、僕は勝負に出る。卑怯な奴だと思われても構うものか。
「これで、僕が準優勝したいう意味が、分かったかな?」
「え? え、と、待って」
「……嫌だ、と言ったら?」
僕はアリスの手を包み込むと、彼女を見つめた。二人の間に、ものすごい緊張感が漂う。この言葉を口にしたら、彼女とは友だちでいられなくなるかもしれない。そんな悪い考えが頭をよぎるが、それでも、僕は自分の気持ちを伝えたい。
「君が好きなんだ」
アリスは目をまん丸にして、固まる。
そんなに驚くことなのかとショックを受けるが、ここで怯んではだめだと自分を奮い立たせる。
「僕と結婚しよう」
「……あの、その、気持ちは嬉しいんだけど。……ビックリして、言葉が出ないわ」
肯定も否定もしないか。
まあ、それが正直な気持ちなのだろう。
悔しいが、今は、それでいい。
「分かるよ。だからこそ、今日は誰よりも早く、君を見つけたかった。公爵家の総力を上げて捜索したのは、正解だったね」
君がラウル様へ抱いた、憐れみや同情はいらない。僕が欲しいのは、君の愛だけだ。
彼がアリスとの壁を飛び越えるならば、僕は強い決意を持って、友だちの壁を破壊してやる。




