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ギルツ家の業(レオン視点)

「待って。そもそも、どうして国が私のお婿さんを決めなくてはならないの。普通に考えれば、ローズでしょう」


 ラウル様の立ち位置が変わらないと聞いて安心したのか、アリスの頭が回り始めた。確かに、王女を差し置いて、何をしているのだと思うだろう。


「これには、僕たちのご先祖さまの残した(ごう)が、深く関わっているんだ」


 予想もしなかった角度から切り込まれたせいか、アリスはキョトンとする。いきなり業と言われてもピンとこないだろう。アリスはオカルト話には興味がないから、信じてくれるかどうか分からないけれど、全ての始まりである昔話をしないことには、君の理解は深まらない。


「君の家は、かつて『建国の剣』として戦の先頭に立ち、勇猛果敢に戦った」


 はるか昔、国が今の形になりつつあった頃の話だ。ミラーウ国が、我がタエキ国へ攻めて来たことで、戦は始まった。戦闘は何年にも渡り、お互いに甚大な被害をもたらしたが、我が国は辛くも勝利する。

 ギルツ家の功績は多大で、救国の英雄として讃えられることになったが、ミラーウ国では逆に、憎き(かたき)として憎悪の対象となった。


「だから、相手国の怨念が、ギルツ家に取り憑いた」


 もともと、相手が攻めてこなければ戦争など起こらなかったのに、逆恨みされてしまうとは、何とも理不尽な話だ。アリスには罪などないのに。


「君の家は影響をまともに受けて、後継ぎに恵まれなくなった。『子孫繁栄を妨害し、一族を根絶やしにする』これが、君の家にかけられた呪いで、ギルツ家の秘密の二つ目だ」


「……のろい?」


 予想もしなかった言葉が出てきたのか、アリスが固まる。彼女には魔力がほとんどないから、感じることなく過ごして来たのだろう。驚くのも無理はない。


 戦が終わってからもギルツ家は、流産や死産、早産や突然死などで、まともに成長する子は(まれ)だった。特に、男子は、誰も生き延びることができなかったらしい。戦に出るのは男性だから、呪いのターゲットになったのだと考えられる。


「君のおじい様もお父上も、婿養子だろう」


 思い当たる節があるらしく、アリスは沈黙する。親戚縁者に至るまで、ギルツ家に男性は生まれていないからだ。


「……婿養子を取るのも、女性が家督を継ぐのも、そんな理由があったのね」


「しばらくして、異変に気付いた巫女がいてね、彼女が命懸けの祈祷(きとう)をしてくれたおかげで、呪いは落ち着いたけれど、完全には消えなかった。でも、大丈夫だ。全国の宗教関係者の皆さんが、朝と夕方の二回、祈りを捧げてくれているから」


 ご祈祷を侮るなかれ。祈りの効果は覿面(てきめん)で、ギルツ家は(かろう)じて持ち直すことができた。伝説の英雄は未だに大人気で、その子孫が苦しんでいると聞けば、骨身を惜しまず力を尽くしてくれる人々が国中にいるのだ。


 ある時、呪いに打ち勝つためには、強く(たくま)しい血を入れると良いのではないかとの意見が出た。誰が言い出したか知らないが、(わら)にもすがる思いだったのだろう。


「いつ絶えてしまうか分からないギルツ家の支えになりたいと、全国から男たちが集まったんだ。それが婿取り大会の始りだよ」


「……なぜ、私に隠していたの?」


 アリスの目に、不信が浮かぶ。君を守ろうとしてきたみんなを疑って欲しくはないけれど、除け者にされたみたいで寂しい気持ちになったのは理解できる。


「逆に聞くけれど、呪われていると知って、どう思った?」


 質問に質問で返すのは良くないと思うけれど、大事なことなので考えて欲しい。アリスは複雑な胸の内を言葉にしようと努力していた。


「えーと、自分が悪いことをしたわけではないのに、何百年も昔の恨み言を、私にぶつけられても困るわ」


「それだけ?」


「うーん。見えない何かに付き(まと)われていると思うと、気味が悪いわね」


 やはり、その程度か。


「アリスは感じないから、深刻にならずにすんでいるんだよ。でも、僕には見えていたよ。祈祷で弾かれていたバラバラの魂たちが、君の婚約を機に意思を持った集合体となり、禍々しい悪意を放っていたのが」




 だいぶ減ったけどね。




「その呪いは、私にだけ影響しているの?」


 アリスにしては、いいところに気が付いた。まさか言い当てるとは思っていなかった僕は、一瞬、動きが止まり目が泳いだが、すぐに立て直して笑顔を作る。


「もしかして、ラウ」


「とにかく、なんとか女子だけは、無事に成長できるようになった。でも、繊細な子は『呪い』への恐怖と、『婿取り大会』のプレッシャーで、心を病んでしまったそうだよ。だから、本人に隠すようになったんだ」

 

「呪いは、ラ」


「もともと人数に限りのある子どもだから、大事に育てないといけなかった。男性ならば側室を娶れば済む話だけど、ギルツ家の女性が出産しなければ家系が途絶えてしまうからね」


 僕が質問に答えないことに対して、アリスは不満そうだが、これ以上、敵に塩を送る気はない。今までだってサービスしすぎたと後悔しているのに。僕が送った大量の塩で、ラウル様が漬物になればいいんだ。


「でも、魔力を持つ子には呪いが見えるなら、隠しても意味がないでしょう?」


 聞き出すのを諦めたアリスは、質問を変えた。その場合は、呪いの部分だけを話して、婿取り大会については伏せると伝えると、「どうしても隠さないといけないの?」と食い下がる。


 こちらとしても、話した方が楽なんだよ。秘密にするために、どれだけの労力を費やしていることか。そうせざるを得ないのは、大会をぶち壊しにした女性がいたからだ。

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